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時をめぐる勇者の円環  作者: 波留馬 喬


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第5章:「暁の疾風、鋼鉄と魂の合奏」 ① 竜脈の古木、命の鼓動を刻む

バザルトの工房に、最後の素材を抱えた一行が戻った。工房の広間の中央には、ほぼ組み上がった『竜馬車』の骨格が鎮座している。エルフィから託された『竜脈の古木』こそが、この機体を真の「竜馬車」へと変貌させる最後のピースだった。

(中略:同調作業と完成の描写)

「これが、『竜馬車』……。アンヴィル、私たちの旅がいよいよ本格的にはじまるのね」

ミリアが感嘆の声を上げる。アンヴィルが車体に触れると、車軸からまるで生き物のような力強い鼓動が伝わってきた。

「ああ。これなら、どんな険しい悪路も平地のように駆け抜けられるはずだ。……次なる伝説の武具が眠る『嘆きの谷』へ出発するぞ!」

ノインが力強く頷き、御者台に飛び乗る。アンヴィルがブレーキを解くと、馬車は重厚な車輪を鳴らし、工房から荒野の地へと滑り出した。

しかし、快適な走行も束の間だった。前方の街道が、崩落した崖の残骸によって完全に塞がれていたのだ。

「待て、アンヴィル! 前が通れない!」

ノインが叫び、アンヴィルが急ブレーキをかける。車輪が土を掘り起こし、火花を散らして停止する。街道の先では、崖崩れに巻き込まれた行商人の馬車が数台、無惨な姿を晒していた。車輪の一つはあらぬ方向へひしゃげて折れ曲がり、ひっくり返った荷台からは、散乱した食料品や壊れた家財道具が砂まみれになって投げ出されている。折れた木材が痛々しく空を突き、家畜が繋がれていたであろう革紐も引き千切られ、荒野の風に寂しく揺れていた。

「崖崩れか……自然のものじゃないな。魔王軍の掃討部隊のあとを狙う、卑劣な略奪団の仕業だ」

アンヴィルの声には、苛立ちが混じっていた。倒れた馬車の影から、数人の人族の男たちが槍や錆びた短剣を構えて現れる。彼らは一行の立派な馬車と装備を狙い、道を塞いで待ち構えていた。

「おいおい、立派な馬車だな。ここを通るなら、積み荷を置いていってもらおうか!」

ノインが大盾を構え、ミリアが杖を握る。リンも背負った長槍の穂先に手をかけ、その眼光を鋭くさせた。

アンヴィルは操舵輪から手を離すと、腰に下げた父の剣の鞘に軽く触れた。

「突破するぞ! 怪我をさせないように、シルフ、風で連中を吹き飛ばしてくれ!」

「――ッ!!」

アンヴィルの指示に応え、竜馬車の先頭で力強く大地を踏み締めていたシルフが、低く鋭い咆哮を上げた。シルフはその逞しい翼を力一杯に広げ、空気を強引に掴み取るように大きく羽ばたいた。

巻き起こったのは、竜脈の古木によって増幅された荒々しくも鋭い旋風だった。突進してきた盗賊たちは、その圧倒的な風圧に抗うこともできず、木の葉のように街道の左右へと吹き飛ばされていく。悲鳴を上げる暇すらないその威力に、街道を塞いでいた残骸までもが吹き飛び、道が真っ直ぐに切り拓かれた。

竜馬車が翡翠色の光を纏い、切り拓かれた街道を疾走する。盗賊たちはその圧倒的な威容と、シルフが放った風の余波に恐れをなし、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。

街道を強引に切り拓き、一行は再び荒野の果てを目指す。

背後で崩れゆく土煙を見つめながら、アンヴィルはふうっと安堵の息を吐き、改めて馬車の乗り心地を確認した。

「……にしても、驚いたな。以前の馬車とは比べ物にならない。揺れは最小限だし、シルフとの連携もこんなにスムーズだなんて。……それに古木の影響か、シルフ自身の力もひと回り強くなっている気がする。これなら、長旅の疲れもだいぶ減らせそうだ」

安定した走り心地に、ミリアも安堵の表情を見せる。その隣で、ノインがふと思いついたように口を開いた。

「そういえばさ、その伝説の武具って……それぞれどんなものなんだ? 名前や由来くらいは知っておいたほうがいいだろ」

ノインの問いかけに、アンヴィルは操舵輪を握り直しつつ、古くから語り継がれる言い伝えを口にした。

「ああ。伝承によれば、魔を切り裂く『閃光の剣』、どんな攻撃も防ぎきる『不動の盾』、遠く離れた戦況すら魔力で感知するという『天を衝く兜』、そして大地を掌握し駆け抜ける『鋼のグリーヴ』……これら四つが、胸当てと共に伝説の武具として語られているんだ」

「……へえ、どれも一筋縄じゃいかなそうな名品ばかりだな」

ノインが感心したように頷くと、リンも背後の長槍に手を添えたまま静かに聞き入っていた。

荒野の先に広がる『嘆きの谷』。そこには、魔王の呪縛を断ち切るために不可欠な伝説の武具の一つ――『天を衝く兜』が静かに眠っているはずだ。竜馬車は、地響きと共に大地の傷痕を塗りつぶしながら、かつてないほど快適に、一行を希望の場所へと運んでいった。

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