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時をめぐる勇者の円環  作者: 波留馬 喬


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第四章:誰がための竜馬車(わだち)か、想い繋ぐ四つの軌跡 ③ 氷輝結晶編:白銀の再会、溶けゆく呪縛の旋律

一度バザルトの街の工房に素材を預けた一行は、カイトの「車軸の熱バランスを整えろ」という鉄則に従い、3つ目の素材『氷輝結晶』を求めて、北方にそびえ立つ極寒の地――『凍てつく白銀峰』の麓へとたどり着いていた。

「さ、さむさむさむさむ……っ! なにこれ、前言撤回よ! 砂漠のほうが一億倍マシだったわーっ!」

リンは真っ白な息を吐き出しながら、自慢の獣人の耳と尻尾を丸め、雪に足を取られながらぶるぶると震えていた。その隣で、翡翠色の美しい鱗を持つシルフは、極寒の猛吹雪などどこ吹く風といった様子で、力強く雪原を踏み締め、長い尾を静かに揺らしている。

(中略:ネージュとの出会いと温熱器のエピソード)

洞窟の中は、耳が痛くなるほどの静寂と、肌を刺す結晶質の冷気が支配していた。

先頭を行くシルフが巨大な氷柱をその太い尾で叩き割り、一行は通路の先が急に開けたドーム状の巨大空間へとたどり着いた。そこには、まばゆい光を放つ『氷輝結晶』と、その傍らで氷の中に閉じ込められたスノウハウンドの姿があった。

「あれが、ネージュの相棒ね……!」

その時、頭上の氷壁からミシミシと不穏な音が響き渡り、巨大な影が舞い降りた。この山の主――『氷晶鳥フロスト・グリフォン』だ。

「キエェェェェッ!!」

主の鳴き声と共に、地面の氷が生き物のように触手を伸ばす。リンとノインが交互に前線へ出て氷の嵐を弾き飛ばし、ミリアの『圧縮爆炎弾・真』が主の鎧を強引に蒸発させる。

「リン、今だ! 叩き込め!」

上昇気流に乗ったリンが空中で槍を構える。

「これで、おしまいっ!! 獣技――『白銀一閃・凍土割り』――!!」

リンの身体が、風を纏って弾丸のように急降下する。突き出された槍の軌道上に生成された真空の渦が、氷晶鳥の結晶構造そのものを分子レベルから強引に引き剥がす。

衝突した瞬間、物理的な衝撃波が空間を塗り替え、主の魔石が耐えきれずに砕け散った。

パリィィィン……! という、凍てついた冬が音を立てて終わるかのような静かな断裂音が響き、氷晶鳥の巨体は光の雨となって霧散した。

主が消滅し、アンヴィルはすぐさま『氷輝結晶』へと向かった。

愛用のタガネを迷いなく振るい、結晶の境界を突く。パリリと乾いた音を立て、美しい青光を宿した結晶が岩盤から綺麗に剥がれ落ちた。

次いで、アンヴィルはネージュの相棒が眠る氷塊へと駆け寄る。

「ミリア、ノイン、手伝ってくれ!」

アンヴィルが魔導温熱器で氷塊を熱し、ミリアが炎で熱エネルギーを一点に集中させる。

「ノイン、氷の『応力』の集中点だ。ここを、ただ押さえつけてくれ!」

ノインは斧を収め、その分厚い掌で氷塊を力強く押し込んだ。熱で脆くなった氷に確かな圧が加わり、内部からギシリと軋みが生じる。強固だった氷の呪縛は、枯れ木が折れるような自然なリズムで瓦解していった。

パリ…、パリパリィッ……と清らかな音が洞窟に広がる。

最後は砂のように氷が崩れ去り、そこには凍りついていたとは思えないほど柔らかな毛並みのまま、静かに眠るスノウハウンドの姿があった。

「……っ!」

スノウハウンドが小さく震え、ゆっくりと瞼を開く。真っ白な雪のような瞳が目の前のアンヴィルたちを認識し、小さく安堵の声を漏らした。

「嘘だろ……これだけ完全に氷に包まれていたのに、まだ生きていたのか!」

ノインが信じられないといった様子で目を見開き、感嘆の声を上げる。

アンヴィルもまた、信じられないものを見るような目で相棒の温かな体温を確認し、震える息を吐き出した。「奇跡だ……。ネージュさんの祈りと、この子の執念が、絶対零度の時間を止めさせたんだ……!」

「はい、本当に信じられません! 一刻も早くネージュさんに、この無事な姿を見せてあげましょう!」

ミリアの言葉にノインは優しく頷くと、相棒を大切そうに自身の広い背中へと背負った。一行はシルフに先導され、主の消滅で静まり返った氷の回廊を抜けて洞窟の外へと出た。

洞窟の外では、ネージュが他のスノウハウンドたちと共に、祈るような気持ちで待ちわびていた。一行が姿を現し、ノインの背にいる相棒の姿が目に入った瞬間、ネージュの瞳から大粒の涙が溢れ出る。

「……っ、おかえり……っ!!」

ネージュが駆け寄り、愛しい相棒を抱きしめる。相棒もまた、久々に触れる主人の温もりに応えるように、喉を鳴らして擦り寄った。

「見てください、すっかり元気そうです」

ミリアがほっとしたように微笑む。「ああ。氷漬けにされてたとは思えないほどの生命力だな」ノインが満足げに頷く。

ネージュは相棒を抱いたまま、涙に濡れた顔でアンヴィルたちを見つめた。

「……アンヴィル、ノイン、ミリア、リン……! 本当に、本当にありがとう! 諦めかけていたのに、あなたたちが私の願いを叶えてくれたんだね……。この子を助けてくれて、本当にありがとう……ッ!!」

アンヴィルが穏やかな表情で答える。

「礼を言われる筋合いはないさ。……でも、最高の素材と一緒に、お前の相棒っていう宝物も取り戻せた。結果としては最高だろ?」

ネージュは涙を拭い、アンヴィルをまっすぐに見つめて力強く笑った。

「ええ、本当に……あなたたちに出会えてよかった! この子を取り戻してくれて、本当にありがとう。君たちも、世界の果てまで走り抜けなよ! 私もこの子達も、ずっとずっと応援してるからね!」

白銀の峰を背に、一行はバザルトの街へと歩き出す。

その足取りは、来た時よりも遥かに軽やかだった。

「さて……これで車軸の冷却素材は完璧だ。次の工程に移れば、シルフの翼はもっと遠くまで羽ばたけるようになる」

アンヴィルが手にした『氷輝結晶』が、陽光を反射して力強く輝く。人々の願いを背負い、想いを形にする――彼らの旅路は、確実に「奇跡」を積み重ねていた。

「次はどんな出会いが待ってるかな。楽しみだね」

ミリアの弾むような言葉に、皆が笑みを浮かべる。

雪解けの風が背中を押し、一行は次の未知なる景色へ向けて、新たな一歩を力強く踏み出した。彼らの物語は、まだ始まったばかりだ。

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