小鳥遊 悠里 3
「おい! 暁人!! 久しぶりじゃねぇか!」
「え!? マジで暁人来てんじゃん!」
「暁人クン! 久しぶりっす!」
「……おう」
薄暗い路地裏の溜まり場。
こいつらは小・中でずっとつるんで、昔から色んな悪い事を一緒にしてきた連中だ。蓮二、幹也、京介。……どいつもこいつも、俺と同レベルのクズ人間。
高校が別れてから、そして俺が悠里と付き合って「真っ当になる」と決めてからは、ほとんど連絡を絶っていた。
「やっぱ、お前が真面目になるなんて無理だって言ったろ?w」
「っすねw でも結構続きましたよねー。三、四ヶ月くらい?」
「半年」
「え! そんな経ってたっけw」
「んな事はどうでもいい。……早くよこせ」
「はいはい……どうすんの?」
「ストロベリー…ある?」
「おけー」
俺は蓮二からブツを受け取り、慣れた手つきですぐに巻いた。
「うわっw やっぱ暁人、巻くのクソ早ぇえww」
「スーパーストーナー・暁人の名は錆びついてないようだなww」
火をつけ、深く肺に吸い込む。
「ふぅ……ゴホッ、ゴホッ」
ジリジリとした熱と、脳の輪郭がぼやけていく感覚。
「まだいるっしょ? 今在庫結構あるから、多めに売れるよ」
「いる。……空とも使うから、ハイブリッドのお前のオススメも適当に混ぜといて」
「おけーw 空ちゃんとヤりまくんの?w」
現金を渡し、小袋を受け取る。
「……ああ」
「うわっw マジかww クッッソ羨ましいわw ブリブリで空ちゃんとエロできんのはww」
「それなww 俺はブリっちゃうとイキにくいんだよなぁー」
「え!? マジ? 俺はせーしドバドバ出るぞww」
「自分は今はそうでもないっすけど、使い始めの時はマジでヤバくて、当時の彼女と四、五時間ぶっ続けでヤッてましたわww」
ゲスな笑い声が響く中、幹也がふと思い出したように言った。
「あれ? つかお前、空ちゃんと別れてなかったっけ?」
「あ! だよな! あん時マジで話題になったなーww」
「っすねw 俺らの知り合い、ほぼ全員空サンに告ったり遊びに誘ったりしてましたもんね」
「全員、見向きもされずガン無視されたけどなww」
「んで、確か北中の小鳥遊と付き合ったよな」
「そうそう、なんでまた空ちゃんなん??」
「………」
「浮気が、バレたぁぁぁあああ!!!」
「「「wwwww」」」
「えw 何それw あんだけ『俺は悠里だけを一生愛す!』とかキメてたのにww」
「なんか『悠里だけは本当の俺を分かってくれる……俺は絶対に裏切らない!』とかも言ってたっすよねww」
「やめろ……やめてください……」
「www結局、空ちゃんの誘惑には勝てず堕ちたカンジw?」
「……はい」
「まぁw しゃーねぇよw あの顔にあの身体……んでチョー甘えてくる空ちゃんなら、全男が堕ちちまうよw」
「……空以外にも、女作っちまった」
「はぁーー!!??ww ヤバすぎw 誰なんだよww」
「翼」
「あー、翼ちゃんね……。まぁ、それはそうだよな」
「ですねー、あの人なら納得つーか、驚きはないっす」
「小学生の頃からお前らヤッてたしな……」
「……他にもいます」
「「「おっとー!www」」」
「誰なんww」
「桃花」
「「アウトーー!!ww」」
「桃花ってww」
「ま・じ・かww」
「マジすか……。桃花って、岸辺の方ですよね?」
「ああ……」
「やばーw あれ?w 京介w お前確かww」
「はい……ずっと狙ってたっす……」
「桃花の中……最高でしたww」
「やめてくださいよw! 暁人クンさっきまでショボンとしてたのに、煽る時だけ元気にならないで下さい!!」
「でもなんで桃花? 仲良かったっけ?」
「数少ない高校での友達だったから……」
「へー、それでなんで手ェ出したん?」
(……こいつらには、桃花や理衣に逆らえずにマワされたなんて、絶対に言えない)
男としての最後のプライドが、俺に嘘を吐かせた。
「桃花と前々からそういう関係で、ちょっと前に悠里にそれがバレてさ……。そっから芋蔓式に空とか翼の事もバレた。んで、悠里にフラれたショックの勢いで、完全に女にした」
「あーなるほどね、そこで繋がんのねw」
「ヤバぁーーww でもお前、そんな女癖悪かったっけ? 俺らの中でもダントツで一途な方だったはずだけど……」
「空の時は完全に無理やり堕とされたけど、翼と桃花の時は……色々と精神面がおかしくてさ」
「あー、だから今回また再開したのね」
「そう……。これが無ぇーと、マジで色々ヤバいしマトモに頭回んねぇ……」
俺が自嘲気味に笑うと、蓮二が俺の肩をバンッと叩いた。
「まー、バレちまったもんはしゃーねぇーよw 今日は楽しもーぜ」
「西岡先輩の店、今日早めに閉めて貸し切りにしてくれるらしいから、そこでガンジャパーティーするべww」
「酒も飯もクソほどあるらしいっすよw マンチ飯カマして、クソ飲んでブリブリになりましょwww」
「マジか……w……ヤベェw なんか上がってきたわww」
「だりー事は後! よっしゃ!! 行くぞ!!」
⸻
深夜。
「うぅ……ッ、おぇ……」
視界がぐにゃぐにゃと歪み、地面が波打っている。
完全にバッドに入ってしまった。酒とチャンポンしたのが間違いだった。
「気持ち悪……っ……」
仲間たちとはぐれ、俺は一人、人気のない深夜の道路を千鳥足で歩いていた。
頭の中を不快な耳鳴りが駆け巡り、胃袋がひっくり返りそうだ。
空の異常な束縛も、翼の支配も、桃花たちの脅迫も、全部忘れたくて薬に手を出したのに。かえって不安と恐怖が何倍にも膨れ上がり、脳内を黒く塗りつぶしていく。
「眠いし……。帰るの……だりぃ……。だりぃつーか……無理……」
「ダメだ……。もう、ここで寝る……」
足に力が入らなくなり、アスファルトの冷たい地面に倒れ込もうと膝を曲げた。
――その瞬間。
「あ〜きとっ♡」
「……んえっ!」
弾かれたように顔を上げる。
街灯の薄暗い光の下。
そこには、巨大なリュックサックを背負った悠里が立っていた。
瞳のハイライトは完全に消え失せ、底なし沼のように濁った目で、俺を見下ろしている。
そして、その顔には――狂気じみた、満面の笑みが張り付いていた。




