母の息子への思いは∞(無限大)
相手は、自分の息子を攫った大馬鹿な犯罪者だから、負けるはずがない。
先に手を出したのは、あちらだ。
こちらに非はない。
美枝は息を吸い込んで、母親の怒りを、声を大にして叫んだ。
「私の息子を攫ったうつけ者、出てきなさい!! 出てこないと、母の鉄槌、食らわすわよ!!」
中にまで響くとは思わない。
でも、叫べば、壱には届くかもしれない。
この母の愛が、壱に届いていれば、何も言うことはない。
美枝は振り返って、二人の様子を確認する。
「さ、ちょっとすっきりしたし、先を急ぎましょ」
テルとあやのが、目を瞑って耳を押さえていた。
「み、美枝さん、声が大きい……」
「うう、耳が痛いです……」
「あ、ごめんね。言うのを忘れていたわ」
すっかり失念していた。
自らの声がばかでかいことを。
門の中へ足を踏み込んでみたが、何かが作動した気配もない。
からくり屋敷みたいに不気味なのに、何の仕掛けもなかった。
ちょっと拍子抜けした。
いや、鉄砲や大砲が飛んできたら命がいくつあっても足りないので、何もないに越したことはないのだが。
鉄製の床を三人は慎重に進んでいく。
万が一、分断されるようなことがあったらこどもたち二人は危険だ。
大人である自分が、二人を守ってやらなきゃいけない。
長い床を歩き、遂に目的の屋敷に辿り着いた。
とんでもない迫力だ。
鬱々した雰囲気に、呑み込まれそうになる。
大きいだけでは表現しきれない。
厳かで、気味が悪くて、呪われそうな屋敷だ。
全体が真っ黒で、薄暗い明かりのついたランタンがドアの上部左右についている。
錆びついたドアノブには、蜘蛛の巣が張っていて触るのを躊躇させられる。
(私は蜘蛛の巣が一番嫌いなのに……)
でも、ここに息子がいると知って、立ち入れない母親は母親じゃない。
美枝は意を決して、ドアノブを捻る。
鍵がかかっていた。当然と言えば当然だ。
テルが美枝を見て、声をかけた。
「やっぱり鍵、かかってますね」
「団子山くんは、ピッキングとかも得意なんですか?」




