初めて感じた恐怖
壱は霧生を睨みつけて、聞き取れないとわかっていながら罵倒した。
「んんん! んん……んん!!」
「何を言っているのか、わからないわね」
霧生は冷ややかな目をしてから、蝋燭を壱に近づけた。
そのとき、檻がはっきりと見えた。
壱は首を振り、怯える。
壱の様子に満足したのか、霧生は蝋燭を持って、背を向けた。
「あなた、自分がどんな立場か、わかっているの? あなたをどうするかは、わたしの気分次第。ここで殺したって、拷問したっていいのよ。わかったら、人質らしく大人しくしていなさい」
コツコツと靴音が遠くなっていき、扉が閉まる音がした。
壱は荒い息を吐いて、脈打つ心臓を落ち着けるために自己暗示をかけた。
自分は殺されない、自分は拷問もされない、きっと誰かが助けにきてくれる、みんなを信じて待っていればいい、犯人を刺激するな、大人しくしていろと。
動悸が収まると、壱は泣きそうな顔をした。
(……怖、かった)
今までこんな目に遭ったことがなかったので、取り乱してしまった。
犯罪に巻き込まれてきたテルも、こんな思いを何度も経験してきたのだろうか。
霧生はあれで、本当に壱を傷つける覚悟は持っていない。
そうとわかっていながらも、壱は恐れを抱いた。
今まで感じたことのない、言い知れない恐怖をその身に味わった。
(あんな……あんな……)
暫く、火を見るのが怖くなりそうだ。
あんな小さな火ですら、人の身体は簡単に焼け爛れる。
人はどんなにも脆く、どんなにも小さい生き物なのか。
泣いたら、ダメだ。
泣いたりしたら、嗜虐的な思考にさせてしまう。
いや、泣かなくても……生意気な餓鬼だったら、火に油を注ぐことになるだろうか。
ここは、泥水を啜ってでも、自分を捨てるしかないのか。
媚びを、売るしか……ないのか。




