壱の住む町はちょっぴり田舎、田舎には田舎のよさがある
身内贔屓を抜きにしても、凄く可愛いのだ。
それはもう、絶世の美少女と称してもいいくらいに。
二子は恐らく、兄貴の壱と違ってモテモテだろう。
「うっ……。仕方ないな……。また今度な」
「ぶー!」
ぽこぽこと壱の手を二子が拳で叩く。
全く痛くない幸せが、そこにはあった。
いつまで兄のことを慕ってくれるだろうかと壱は少し寂しいことを考えた。
制服は紺色のブレザーで、ネクタイは青と白と黒のストライプ柄。ズボンは灰色。
壱は三色団子を山ほど頬張ったあと、団子ストラップのついた学生鞄を持って、登校した。
壱の家からは学校は近い距離にあるので、壱は徒歩で向かう。およそ五百mほどだ。
住宅街を抜けると、町工場や古書店、カフェなどが所狭しと並んでいる。
壱の住む町は、ちょっぴり田舎だ。
けれど、空気が澄んでいて、いい町だと壱は思う。
田舎ならではの団結力もあったりもする。
人付き合いが苦手だと、鬱陶しく感じたりもするのだが、壱は人が好きなのでそんなことはない。
知り合いの家の前を通ると、声をかけられる。少々年老いた女性だ。
機械的な動作で、家の前を箒で掃いていた。
「壱くん、おはよう。今日も朝から学校かい?」
「おはようございます。そうですねー、ていうか、平日は毎日ですよ」
壱が言うと、女性は笑い飛ばした。
「あはは、そうだったね。団子食べたくなったら、いつでもおいでね」
「お願いします! ほんと、いつでも行きますんで」
女性は壱が手を合わせると、朗らかに笑った。
「壱くんはいい食べっぷりだから、作り甲斐があるってもんだよ」
「それはよかったです。団子楽しみにしてますね」
壱は紳士的な笑みを浮かべて、女性との話を切り上げにかかる。
「あいよ。いってらっしゃい。気をつけてね」
「いってきます。ありがとう、おばさん!」
手を振られたので、手を振り返して、壱は再び学校への道をゆく。