テルはあやのが好き!?
武道の心得もない一般人を連れていくわけにいかない。
どうしたものかと机に突っ伏して、のの字を書いていると、テルが訊ねてきた。
「やいやい、壱さーん! あやのちゃんとはどうだった? ホの字? 惚れたか?」
テルの問いに、壱は目を見開いて顔を上げた。
「……お前、名前知ってるのかよ!? もしかして……俺だけ? 教えられてなかったのは?」
テルは言いにくそうに目を逸らしつつ、後頭部に手をやった。
「それはオレの情報網と言いますかー、まあ、可愛い子はチェックしておくに決まってんでしょー! オレは年下好きなもんでね。あやのちゃんはもろタイプなわけだ」
「そうか……。お似合いだよ、テルとあの子。話が合いそう」
好きなものを否定されなかったのが嬉しかっただけで、恋愛感情を持ったわけではない。
壱は相手のことをよく知ってから好きになる傾向なので、一目惚れはあまりしない。
テルも、顔だけで相手を選ぶようなことはしない。
冗談はよしてくれとばかりに、テルは机を叩いて大笑いする。
「あやのちゃんとオレが? 確かに、オレみたいにお喋りな子だけどさー、オレはあの子を彼女にとは考えてないわけよ。タイプなのは事実だが、あの子はオレよりも壱を選ぶだろうな」
「何で俺?」
「あー、そういうとこは鈍いのね壱さんはー」
茶化すときのオカマ口調になって、テルは壱を睨む。
「……何だよ……」
「あやのちゃんの態度わかんなかったか? あやのちゃんがおまえについていきたいって言ったのは、おまえが好きだからに決まってるじゃないか。好きじゃなきゃ、そんな危ないとこについていきたいなんて、言ったりしねーよバーカ」
吐き捨てるように罵倒されて、壱はちょっとだけムッとした。
「だから、それは刀が好きだからだろ?」
「好きなものに命賭けるような、おまえみたいな特殊な人間じゃないって。あやのちゃんはちょっと変わってるけど、壱ほど狂ってないからな」
(聞いてると、テルは春日井さんを好きな気がする……。気のせいじゃなく)
壱は腕を組んで、思案する。
暫くして、壱は口を開いた。
「テルは……春日井さんが好きなんだよな」
壱が言い辛いことをはっきりと言えば、テルは見るからに不機嫌になった。
まるで、壱が次に言わんとしていることが、手に取るようにわかるとでも言うかのように。




