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「あー、花陽と話してると安らぐ」
「どした、いつにも増して疲れてんの?」
花陽といると、会社を忘れられる。
私の中の非現実。
花陽に入れ込む男たちの気持ちが今なら分かる。彼女はオアシスだ。
「もー、めんどくさい、会社」
「そうだろうねえ、それでも毎日通ってて偉いよ柚は」
「一馬力でやってけるほどうちは裕福じゃないし、私もそんな能力高くないし、花陽みたいに……」
花陽は、器用だ。
美人で頭も良くて、どこでもやっていけるコミュニケーション力がある。
それさえあれば、能力や学歴なんて二の次だ。
私の真逆を行く花陽。
器量も、頭の良さも、コミュニケーションスキルも。
何か一つでも輝くものがあれば、違ったかな。
何もないから、勉強頑張った。
就職難の世の中で、内定勝ち取った。
好きだったし、これ以上の人は現れないと思って、結婚した。
平凡そのものでありながら、同時に得難い人生でもある。
でも中は空っぽ。空洞。
だってそこに『私』はない。
柚木さん。
妻。お母さん。
ねえ、この人生に、これだけ自分を擦りへらしてしがみ付いて。
それでも周りに感謝しなさいって、言われてしまうの?
何かを望むのが贅沢って思われてしまうの?
「ーーーいいなぁ、花陽」
「飲もうぜ柚」
「うん」
何も聞かず、ただ涙を流し続ける私の背中を、そっと叩く。
花陽がいて良かった。
たった1人でも、信じられる人がいて良かった。




