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第44話「3人の黒魔術士」(1)【挿絵あり】

ベル、リリ、アレンの無謀な逃亡が始まる…


改稿(2020/04/15)

第2章「偽神暗鬼」編(Chapter 2: The False God)

挿絵(By みてみん)

Episode 1: Teachings Of The Moon/月の教え


 静寂と暗闇に満ちた夜。真っ暗な町の景色は、不気味さを掻き立てる。住宅が建ち並び、この町にも人が住んでいるはずなのに、明かりは灯っていない。町全体を薄暗い影が覆っていた。


 そんな町の1軒の家。この家もまた、明かりを灯していなかった。


 しかし、家の中まで真っ暗と言うわけではなかった。部屋の一角がオレンジ色に照らされている。燭台に備えられたロウソクの炎の色だ。それでも、この小さな明かりは外からは全く分からないほど小さかった。必要最低限の明るさだけが確保されている。


 そこにいたのは1人の婦人だった。気品のあるウェーブのかかった紫髪、耳にはピアス。力強いまつ毛と、赤く塗られた唇からは、彼女の人格の強さが伺える。見たところ、年齢は50代から60代と言ったところか。そんな婦人は新聞を広げ、ひとつの記事に注目していた。


「まったく…あの馬鹿は何やってるのかね……」


 彼女の視線が留まった場所。そこには、


 “豪炎のロック暴走!アドフォードの悪漢ついに逮捕”


 という文言が、紙面を大きく割いて書かれていた。


 まるで、ロック・ハワードのことを知っているかのような独り言を吐き出した婦人。彼に関係のある人物なのだろうか。彼女の視線は、しばらくその記事に留まった。文字を追うほど、彼女の口から大きな溜め息が吐き出される。


  “指名手配中の凶悪犯ロック・ハワードが黒魔術(グリモア)を使い町民に暴行した後、保安官に取り押さえられた。ハワードの身柄はロッテルバニア収容所に移され、終身刑が下される模様”


 紙面にはそう書かれていた。


 ロック・ハワードが犯してきた罪は、何もベルたちが目撃してきたものだけではなかった。指名手配書にも書かれていたように、彼は殺人まで犯しているのだ。


 今までは都合よく捕まっていなかっただけ。保安官ハメルは、いつもすんでのところでロックたちを取り逃がしていた。


 そして婦人は、別の記事に視線を奪われる。


 “迫る吸血鬼(ヴァンパイア)の脅威


 何者かによって噛み殺されたかのような遺体が次々と発見されている。全ての被害者には、首筋に痛ましい傷痕が残されており、専門家によると、獣に噛みつかれた可能性が高いと言う。


 忌まわしい連続殺人事件だが、今のところ犯人に関する手がかりは何もないまま。犯人は獣ではないと言う意見も根強く、その常軌を逸した反抗の手口から、犯人は吸血鬼(ヴァンパイア)ではないかと実しやかに囁かれている”


 とても恐ろしい事件についての記事だった。それはロック・ハワードの起こして来た事件より遥かに猟奇的で、謎のヴェールに包まれている。


 しばらくすると婦人はロウソクの火を吹き消し、暗闇に溶け込んだ。わずかな明かりさえも消えた今、町は完全に闇に溶け込んだかのようにも見えた。


 数百メートル級の山々に周囲を囲まれたこの町は、ずいぶんと低い盆地に存在していた。それはまるで、山々をくり抜いたと言った方がしっくりくる地形だった。町の存在する場所の地形は、不自然なほどに丸い形をしている。周囲の山地より数百メートルも下にこの町は存在している。故に、朝が訪れるのは遅く、夜が訪れるのは早い。


 ここは日照時間が極めて少ない特殊な町。長い長い夜が支配する町。


〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓


 ベルたちがアドフォードを離れて、すでに25分ほどが経過していた。彼らが進むのは、ゴツゴツした岩の転がる道。ずっと歩いていると、足が痛くなってくる。舗装された道を選ぶことも出来たが、彼らはそうしなかった。


 それは、可能な限り人目を避けるために選んだ道。彼らの行く先に続く道は、乾風の吹く厳しい道のり。日差しも強く、まるで砂漠のような道だった。


「ベル…喉乾かない?」


 リリの喉はカラカラだった。まだアドフォードを発ってから30分も経っていないが、彼女の喉は限界を迎えていた。まだ変身の解けていない彼女の姿は中年女性のままだ。


「大丈夫か?おばさん」


 ベルはリリの姿を見てニヤニヤしている。リリは側から見れば、ただのバテたおばさんだ。そう言うベルも、見た目は弱々しい痩せこけた老人だ。


「僕は大丈夫だよ!」


 無邪気に会話に入ってくるアレンの姿もまた、小さな老人。そこに広がるのは、何とも言えないカオスな光景だった。


 そんな話をしているうちに、彼らの視界に緑が飛び込んで来た。


 森だ。こんな場所に森がある。森の中もまた、舗装されていない悪路だが、少なくとも照りつける日差しからは逃れられる。彼らの足はおのずと、そこを目指していた。それに、森の中の方が人目を避けることが出来る。


 森に入ると同時に、3人の身体を眩い光が包み込んだ。


 そして、そこからは輝きを失ったオーブが飛び出した。変身してから30分が経過したのだ。光の中から現れた3人はお互いの姿を見る。自分たちを守ってくれる隠れ蓑は、すでになくなってしまったのだ。


「そういえばベル。アレン君連れて来て大丈夫だったの?」


「全然大丈夫じゃない。きっと親も心配してるだろ。でも今アドフォードに戻るわけにもいかないし、1人でコイツを帰すわけにもいかない」


 アレンと一緒に行動すること。それはベルにとっても当たり前になってしまっていた。


 しかし、今さらアドフォードに戻ることは出来ない。あの町へ戻ることは、ベルにとっても町民にとっても不利益しか生まない。


「僕帰らないよ!お兄ちゃんについて行くんだ!」


 アレンは胸を張ってそう言った。まだまだ幼い子どもの言うことだ。アレンが何も考えていないことは、言うまでもなかった。そんなアレンを見て、ベルとリリは顔を見合わせる。


 ベルとリリ、2人だけで逃亡するならまだしも、ここには幼い子どもがいる。アレンが2人の重荷になることは目に見えているし、何よりも彼にとって危険でしかない。


「この先、どっかで列車にでも乗せて安全に帰してやりゃいいんじゃないか?」


「まったく呑気なんだから!もしもこの子に何かあったら、君が責任取らなきゃいけないんだからね!」


 無責任なベルに、リリは呆れ果てた。幼く尊い命を預かっていると言うのに、ベルはその事を深く考えていないようにしか見えない。


「へいへい」


 ベルは気のない返事をする。かなり深刻な事態だが、ベルは心の中で何とかなるとでも思っているに違いない。


「見ぃつけた‼︎」


 すると突然、聞きなれない声が3人の耳に届く。それはベルのものでも、リリのものでも、アレンのものでもない。


 彼らの目の前には誰の姿も見えない。声の主を確認するため、3人は恐る恐る後ろを振り返った。


「ファウスト。姿を変えて安心していたようだが、残念だったな‼︎」


 そこにいたのは、リミア連邦軍の軍服を来た3人組。ハウゼント医院でベルを探していた馬鹿な3人組だ。3人の名前は、ウィルド、ラミレス、ベス。ウィルドが他の2人を率いているようだ。


「つけてやがったのか……」


 ベルは、目の前に現れた3人をゆっくりと睨みつける。ここで捕まれば、ジェイクの協力も無駄になってしまう。緊張感が漂うが、この3人が馬鹿であることを知っているベルは、そこまで事態を深刻に捉えていない。


「ずっとあの医院の影から見てたのさ。俺たちが入った後にあの医院に入ったのは、若医者1人。だが、出てきたのは見たこともない3人組だった」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


リミア連邦軍の3人組が、ついにベルたちに追いついた。ベルは3人から逃げ切れるのか…

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