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ラッパ吹きの休日  作者: 雪 よしの
プロへの遠い道ー修行は続く
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波乱の気配。

フェリックスと一緒に過ごすことになったカイト。ただもめ事が起きそうな気配。

 クリスマスイヴは、俺とフェリックスの二人で過ごした。エドが、夕食を一緒にと誘ってくれたけど、”日本の正月のように、ヨーロッパではクリスマスは家族で過ごす”と聞いてたので、ちょっと遠慮したんだ。


 プレゼントは。フェリックスが寝た後で、ツリーの下に置く事になってる。クラウスと、クラウスの兄さん、香澄さんから、それぞれ一個ずつ預かってる。それと俺からは、クマのぬいぐるみをプレゼントに選んだ。


 買う時はさすがに恥ずかしかった。縫いぐるみにしたのは、セリナちゃんのアドバイスがきっかけ。


”きっと、その子は寝るときに、寂しいとか怖いとか、そんな夜があるかもしれない。男の子といっても、まだ6歳なんだし、クマのヌイグルミなんかどうかな?テディベアっていうのかな。”


 女子の観点、さすがセリナちゃん。その彼女へのプレゼントには、楽器を演奏する天使のオーナメント。この間、ニュルンベルクへ行った時に買っておいた。一人はラッパ、一人はピアノを弾いてる。来年、日本に行った時に、渡すつもりだ。


 ** ** ** ** ** ** ** **

 スーパーで惣菜を買い、普段より少しだけリッチな食事をとりながら俺はボーっとしてた。子供用のアニメやクリスマス映画が多く、フェリックスは一人ではしゃいでた。俺としては、「くるみ割り人形」を見たい(というか聴きたい所だ。あれはクリスマスによく上演される演目だし)


 

「明日、ツリーの下だね。僕こういうクリスマス、初めてだ」

「え?今までクリスマスは?」

「うん。プレゼントは貰ったけど、ツリーとかカレンダーとかそういうのはなかった。ジョンポールは仕事でいなかったかも、あまりよく覚えてないけど。明日が待ちきれない。ツリーの下に置いてくんだね、サンタさんは」


 多分、フェリックスはサンタがいるとは、思ってないだろう。サンタを信じてるフリなのか、本当はサンタがいて、とほんの少し期待してるのか。


 俺は、家族でクリスマスを過ごしたと思う。

”サンタなんていない” そう遊び友達に笑われた時、ショックで泣き出したそうだ。(それを目撃した母の話しによると) 


 ツリーを飾りケーキを食べプレゼントを貰う。そんなクリスマスも小学生までだけだった。中学生になると、クリスマスより、とにかく練習と音楽の勉強ばかり。彼女もいなかった。もちろん、いい処までいった女子もいたけど、結局、友達で終わり。俺が忙しくて一緒にいられる時間が少ないので、仲のよい友達のままで終わった。



”サンタさんを待つから、起きてる”なんて、言ってたフェリックスだけど、サンタどころか父親のクラウスが帰って来ないうち、寝てしまった。


 彼が寝た後で、俺は練習タイム。アーバンの「輝く雪の歌による変奏曲」とネルーダの「TP協奏曲」。どちらも、大学時代に練習した曲だ。


 ネルーダのTPトランペット協奏曲は、なかなかいい曲。心が前向きになれる曲で素直で演奏しやすい。作曲者自体は謎に包まれてて、モーツァルトが活躍した頃に亡くなった、としか知らなかった。


 モーツァルトは、とても有名でその神がかり的な曲で、今でも人を魅了してるけれど、実は同年代にモーツァルトと同じような作風の作曲者は多いそうだ。ただ、その資料や楽譜などが残っていないだけ。ネルーダもその一人なんだろう。ドイツにいる間に彼について調べてもう少し知る事が出来るといいな。


 アーバンは、フランスの作曲家で、初心者から上級者まで金管教本でおなじみ。パガニーニに影響を受けたとか。


「輝く雪の歌による変奏曲」は、アーバンの”12の変奏曲とリ”の中の1曲。タンギングが鬼のようにある。


大学時代には、俺はすでにこの曲を吹きこなしたと、思っていた。ところが森岡先生からは”楽譜通り吹いただけだね。タンギングの音色もツブも揃ってない”と森岡先生にため息をつかれた曲。


 俺はあっけにとられた。先生の前で緊張したとはいえ、まあまあ出来の演奏だと思ったから。


”まだ自分の音を冷静に聞けてないんだね。じゃあ、一旦、この曲はねかせよう。今の録音しておいたから、1年後にでも聴いてみるといいよ”


 ほぼ1年たったころ、その録音を聴いて俺は頭を抱えた。タンギングのツブ、アタックの強さ、音程までが不揃いだった。すごく恥ずかしい。こういう”羞恥プレイ”があるのはしらなかった。自分で演奏した曲は、録音してチェックするけど、1年たってから聴くのは、こんなにも恥ずかしいと、初めて経験。


 その時、弱点が分かった俺は、徹底的に練習して克服した。森岡先生の前で堂々と披露した。先生は、ニッコリ笑って、録音されたUSBを俺にくれた。”また、1年たったら聴いてみよう。それまでこの曲は封印だな”


 で、今、その時の演奏を聴いて、また羞恥プレイになった。恥ずかしい、穴があったら入りたいってこの事だ。この演奏でよく堂々と出来たもんだと。


 結局、急がば回れ。俺は最初からさらい直す決意した。


*** *** *** *** *** *** ***


 あけて25日。俺のあげたプレゼントはフェリックスには不評だった。


「ぬいぐるみもらうほど、僕、子供じゃないし、女の子じゃない。」


 クラウスが、プレゼントの中身に口をとがらしてるフェリックスをたしなめようとしたんで、俺は慌てた。


「そうだね。でも、例え縫いぐるみでも”クマ”は別格なんだ。俺のいた土地では、昔の人は、神様として大事にした。シキンクルカムイ と呼ばれてる。これはベッドの横に置いておくと、モンスターを退治してくれるよ」


 ああ、俺はウソ半分ついてるよ。モンスターなんているわけないんだけど。


「いない!モンスターなんか、絶対、絶対、いないから。トイレにも物置にもいない!」


 フェリックスが、拳をにぎってムキになって反論してきた。そうか。そこが怖い場所なんだな。


「悪かった。モンスターはいないな。ウソをついてごめん。じゃあ、これは俺がもらう。ベッドの横におく事にするから。」

「カイト、夜、怖い時あるの?」

「いつもってわけじゃないけど、雷がなったり強い風が吹いて音をたててるような時は、怖い時もある」


 

 結局、俺からのプレゼントだから貰っておくと、フェリックスは縫いぐるみのクマを、俺からさらっていった。


** *** *** *** *** *** ***


「カイトが、雷怖いとは、初めて知ったぞ」

「方便です。フェリックスが、夜、一人でも寂しくないように、怖くないように・・」


 と、言った処でクラウスの顔の変化で、俺は失言に気が付いた。しまった。まだ、エドは話してなかったんだ。


「フェリックスが夜、一人って、どういう・・」

「うん、これはもう、俺から説明するより、詳しく知ってるエリザベトさんに訊いてほしい。俺だって知ったばかりだし」


 なんか複雑だな~。フェリックスをなんとか大事にしたいと思う反面、これ以上、巻き込まれたくないというのもある。フェリックスの世話に時間がとられるのは構わない。香澄さんとクラウスとのイザコザに巻き込まれるのがイヤなんだ。精神的に負担だ。


 夜になって、フェリックスを送っていくのだろうと思ったら、少し違った。


「学校が休みの間、フェリックスはこっちで暮らす。そのために一旦は準備のため返す。カイトが香澄の処に行ってくれないだろうか?今は香澄と顔をあわせたくない」


 で、こっちに泊まる事は、香澄さんは了解してるのだろうか?なんだか不穏な気配だ。


 


 




 


 

日曜日か月曜日の午前1時=2時に更新。(更新、遅くてすみません)

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