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EARTH‐MASTER ―篁 葉月編―  作者: 早藤 尚
12/15

PRE:03 モノクロフィルター

 あれは確か、雪がちらつく十二月の二十五日だった。

 改めて思うでもなく、クリスマス。だがいくら世間がクリスマスで浮かれてようが、たいていの学校はそのクリスマスが終業式だ。まぁ、いつもより早く帰れる分だけ遊べるわけだけど。

 雪が降っているせいかだいぶ寒く感じる。人気のない昇降口にいると、外の冷気が吐く息をそっと白く染めた。マフラーを巻き直して、俺は下駄箱の前に立つ。

「――最ッ低!!」

 同時に、ぱちーんと小気味いい音。

 うっそ俺何したの!? いや待て、俺はどこも痛くない。っていうか人影すら見えねぇのに叩かれたりしたらホラーじゃん。冬なのに。

 俺は思わずびくっとしたが、幸いなことに矛先は俺じゃなかった。現場は二列ほど向こうのようだ。しっかしあの音はひっぱたかれたな。クリティカルヒットだ。

 ――今日は聖夜だっつうのに、野暮な奴。

 俺はなるべく音を立てないように靴を履き替えて、見て見ぬふりで通り過ぎるべくそろりと足を踏み出した。抜き足差し足。

「……っ、タカムラくんて、何考えてるのか全然わかんない!」

 そりゃあ、皆が皆考えてること判れば苦労しねぇけどさ。

 ひっぱたいた張本人(だと思う)の女子は、俺のことなんか見向きもせずに猛ダッシュで走り去る。けっこう可愛かった。

 しばらくして、向こう側からかたん、と響く物音。

 見て見ぬふり、してもよかったんだが、こんな日に彼女に振られる色男がどんな奴なのか俺は見てみたくて、下駄箱の陰にもたれたまま、相手の男を待った。

 そして、見事に手形がついた色男は少し伏し目がちに、下駄箱の向こうから現れた。

 細い金属を思わせる黒い髪。嫌味なくらいきっちりと着た制服に、簡素な黒いコート。背は俺よりちょっと低いくらいだと思う。

 そいつが昇降口から出るのにつられるように、俺も外へ出る。

 ふ、と息をもらせば、それは白く溶けて流れていき、その行方を追うようにそいつは気怠い動作で空を見上げた。

 ……むちゃくちゃ興味なさそうに。

 憂鬱になりそうな昏い曇天に、白い雪だけがはらはら舞っている。相変わらず寒い。

 そんな、モノクロフィルターを通したような視界のなかで、奴の紺色のマフラーと、色失せた肌をいっそう際立たせるかのように赤く染まった頬だけが、鮮やかな色彩として俺の瞳に焼き付いた。

 ……確か、タカムラ、って言われてたっけな、こいつ。

 タカムラは上を向いたまま面倒くさそうに目を閉じる。ひとひらの雪が、その瞼に降りるとすぐに溶けて消えた。

 そして、僅かに瞼をあげると、タカムラの黒い瞳が俺を捉えた。

 ……そりゃ、これだけまじまじと凝視してりゃバレるよな。

 なのに俺は、奴から目が離せない。

 目を合わせたまま、タカムラは見上げていた首を戻すと、神経質そうに眉間にしわを寄せ、ぷいっと顔を背けてそのまま二度と俺を振り返ることなく、校門へ歩いて去っていく。

 俺はといえば、じっとその場に立ちつくしたままだ。

 だって"思い出せない"んだ。

「今日」じゃないどこかで、俺はあいつに出会ってる。あの瞳を俺は確かに覚えてる。

 ――でも、いったい何処で?



 ……それを俺が思い出すのは、もう少し先のことだ。

 そしてたまたま一緒のクラスになって、このときの女子は別に彼女でもなんでもない、単なる諍いだったと知るのはもっと先。

 なぁ、篁。

 生きていることに何の興味もなさそうだったお前の、俺は親友になれたかな。

 お前素直じゃないから、きっと肯定なんてしないんだろうけどさ。


Fin…


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