プロローグ
闇夜。城郭。門の前。
かがり火に赤く照らされた、雑兵装備の、ちょんまげ姿の門守が二人、手持無沙汰に槍を担いでいる。そのうち一人が、眠たそうに、暇そうに欠伸を一つ。
いたって平和、いたっていつも通り。
ただ、先程まで空に浮かんでいた三日月が、すっかり厚い雲に覆われてしまっていたのが気にかかる。雨かみぞれでも降らなければいいが。そう思いながら空を見上げる。期待に反して、雲はさっきよりも一層厚く、星の光も月の光も一切遮断してしまっている。顔をしかめて溜息一つ。白い息は宙に浮いて、一瞬で消える。
地上に点在するかがり火以外に、明かりは無い。それでいて、最近では戦も何も無いので、経費節約と言うわけで、焚き木の量は減らされて、ごく小さな焔が物淋しげに微風に揺れるだけである。
十一月の寒い闇夜に、二人、侘しげに立っている。
不図、二人のすぐ後ろのかがり火が、音もなく、消えた。おや? と思い、二人目を合わせ、首を傾げ……ようとした所、二人の首は、既に胴体と離れていた。傾げる筈の首は「おや?」という表情のまま、闇夜に飛んで、音もなく地に落ちた。
その光景を丁度後ろで見ていた、別の警備の者二人が、
「何事か!」
と叫んだ。
……が、その声は誰の耳にも届かなかった。いくら声を絞り出しても、口を出ると途端にその音が消えてしまうのだ。
一体どういうことだ? そう考える間もなく、一人は既にクナイを首に受け絶命。手裏剣がもう二本、ひゅんひゅんと飛び、点在する別の二つのかがり火をまた、的確に倒し、明かりを一瞬にして消した。それに乗じて一層闇が深くなる。
「何奴だッ!?」
警備の男の叫びは、またもや一瞬にしてかき消される。一体全体、何がなんだか理解出来ずに狼狽する。そこへ畳みかけるように、白い何かが疾風の如く飛んできた。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、雲の切れ間から三日月の光が差し込んで、その何かを薄ぼんやりと照らした。
それは、白髪の女だった。そのサラサラと風に靡く、細く長く美しい髪は、月の光を吸ってキラキラと銀色に光り輝いていた。そして男は、同時にその女の瞳をはっきりと見た。真ん丸で、金色に炯々(けいけい)と光り輝く、不気味な、瞳孔が縦にすっと入っている、暗中の猫のような瞳であった。その瞳が、男の喫驚の視線を受け、にんまりと三日月状に笑う。
「何奴ですって? この目が人殺し以外の何者かに見えるかしら」
女の、嘲るような調子の声は、はっきりと男に届いた。男が急ぎ槍を構え、振りかざそうとしたその瞬間には既に、首が宙を舞っていた。
そして、堂々と正面の門から浸入する二つの影が、天守目指し、音もなく駆けていった。




