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■1日目■

ジャンル:異世界転生・魔法・タイムリープ・恋愛

光の中を落ちていく。

もっと下まで。

もっと遠くまで。

もっと・・・


・・・・・・・・・。


■1日目■


「あんたさ。・・・何ぼけてんだ。」

暁音の目の前に、怪訝な顔をした男がいた。


ユオ。彼の見た目は30前後だが、実年齢は500歳程度の魔法使いだ。

紺色の少し癖のある髪が、肩の辺りまで伸びていた。

金色の目を細めて暁音を見た。


「買い出し担当だろうが。あんたも持てよ、俺にばっか持たせんなよ・・・」

ため息を吐きつつ、食材や薬草などが入った袋を暁音あかねに押し付けようとしてきた。


・・・生きてる。

ユオが生きてる。

脈絡もなく、そう思った。


「私、・・・ユオが好きだ。」

咄嗟に口に出していた。

そうだっけ?と思うと同時に、そうだった、と思った。


「ん、俺も好き」

ユオは特に表情を変えることもなく、そう言った。

そして目を見開いた。

自分の口が喋ったと認識するのに数秒かかっていた。


そして一歩後退り、口を抑えた。


「・・・は?好きじゃねぇよ。なんだ。本当に違う・・・。あんた今、何を・・」

本気で焦っていた。困惑していた。


「俺は違う。あんたの方は知らねえけど、俺は違う。絶対に違う。」

照れ隠しには見えない、本気の否定を繰り返していた。

普段は無気力そうに怠そうにしている癖に、かなり焦って否定を繰り返していた。


「今のは・・流されたんだよ。あんたが急に変なこと言うからだ。あんたのせいだ・・・」

くそ、なんなんだよ。とブツブツ言ったりため息をつきながら、

暁音に荷物を渡すことも忘れ、背中を向けて歩き出した。


そんな背中を見ながら、暁音も考え事をしていた。


・・・私はユオが好きだったのだろうか?

・・・いつから?


この世界にやってきたのは、3ヶ月前である。

暁音が元々住んでいた世界と違い、ここはまるでファンタジー小説の世界だった。

魔法のある世界。魔法使いのいる世界だった。


暁音はその世界に、「異世界の知識人」として召喚された。


ここには8人の、特に魔力が高いとされる魔法使いが、この世界に起きる、あらゆる災害や不幸を解決するための存在として

選ばれる制度があった。


しかし、強すぎる魔力を持つ魔法使いは、集まると魔力が衝突してしまう。

その衝突を避けるため、異世界人が召喚される。

異世界人が同じ空間にいると魔力や精神が安定し、衝突が起きにくい。

そのような説明をされた。


ブラック企業勤めだった暁音は、「そうですか。頑張ります。」くらいの感想で、その役を引き受けた。

しかし積極的にその役を引き受けなくても、逃げられるものではなかった。


「・・・おせぇな・・・」


顔だけこちらを向けて、不機嫌そうにユオが文句を言った。


ーーーーーーーーーーーーーーー


宿舎に戻り、ユオはため息をついた。

「あんたさ。結局、何も運ばなかったな・・・」


そして薬草の入った袋を押し付けてきた。

「せめて、これウォルクのところに持っていけよ。」


「ごめんって。」

暁音が袋を受け取ろうとした時、ユオが口を開いた。


「さっきの。本当に違うから。・・・誤解すんなよ。」

そう、念押ししてきた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


暁音は薬草の袋を抱え、ウォルクの部屋へと向かった。

ノックをし、返事があったので扉を開けた。


「これ、メモの通りに買ってきたよ」


ウォルクは手渡された袋の中身を確認し、「ありがとね。」と軽く言った。


彼は800歳の魔法使いだった。

しかし見た目は40前後に見えた。

銀色の髪をしていた。美しい顔をしていた。

・・・そもそも、魔法使いは美形しかいないのだが。


「そろそろ、夕飯の時間か。今日の料理当番って誰だっけ。」

ウォルクは窓から外を見ながら言い、すぐに思い出して言葉を続けた。


「あ、カルマか。あの人、いつも同じメニューしか作らないよね。

・・・ってことは、野菜とか肉とかが入った、よく分からない煮込みか。」

嫌そうでもなければ嬉しそうでもなかった。ただの事実を言っただけだった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


夕食の時間、暁音は目の前にある【よく分からない煮込み】を食べながら、

(私はユオが好きなのか?)と考えていた。


好きだと思ったことはなかった。

だけどあのセリフを言った瞬間は、納得していた。

「好きだから言っておくべきだ」と思っていた。


そんなことを考えていると、隣の席にユオが座った。


「・・・あのさ、」

一度言葉を切った。


暁音がユオを見ると、彼はまた困惑している顔になっていた。


「・・・あれ、本当に、違うから。」

また念押ししてきた。かなりひつこかった。


「分かった分かった。」

暁音が特に気にしていないように答えると、ユオはため息をついていた。


暁音からすると、ユオの気持ちがどうと言うより、自分の気持ちが分からないことの方が問題だった。


食堂に、シエロとタルデがやってきた。


「今日はカルマさんの・・・これ、俺は結構好きなんだ。」

【よく分からない煮込み】をテーブルに置きながら、シエロが言った。


シエロは金髪に青い目をした26歳の魔法使いだ。

若いのに魔力が強い、優秀な魔法使いだった。


「お前は好きなものと、結構好きなものしかないだろ・・・」


黒髪に赤い目をした24歳の魔法使い、タルデが【よく分からない煮込み】を食べながら呟いた。

素材の味を生かした煮込みだった。素材と塩の味がした。


すでに食べ終わっていた、今日の料理担当だったカルマが、タルデの後ろを通り過ぎていった。

特に何も言わずに、文句を言いたそうな顔のタルデを一瞥しただけだった。

茶色の長い髪が揺れていた。


「ルクスとパラムは今日は任務かな。スタラは・・・」

シエロが食堂を見渡しながら言った。


少し離れた席に、【よく分からない煮込み】を無表情で食べているウォルクが見えた。


「スタラは、今日はいないみたいだね。」

と、続けた。


「今日も、だろ。いる方が少ない。・・・世界一の魔法使いだから忙しいんだろ。」

【よく分からない煮込み】を見つめながらタルデが言った。

まだ半分残っているのに、食欲が落ち着いてきたらしかった。


暁音は【よく分からない煮込み】を完食した。


ーーーーーーーーーーーーーーー


暁音が食堂を出て、自室まで歩いていると、スタラが立っていた。

彼は世界一の魔法使いで、1200歳だが、見た目は40代に見えた。

美しい白い長髪に、深い緑色の目をしていた。


「あ、スタラ・・・久しぶり・・?」

異世界に来て3ヶ月経つのに、スタラとは数回しか会った事がなかった。


「・・・お前・・・。におうな」

スタラはそれだけ言うと、背中を向けて歩き出した。


「え、私、におう・・・?」

毎晩ちゃんと風呂に入っているのに。

暁音はショックを隠しきれなかった。


しかしスタラの姿は、もう消えていた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


今日は混乱の多い日だった。


暁音は風呂でいつも以上にしっかり髪や身体を洗い、寝る準備をしていた。


ユオに「好きだ。」と伝えた。好きだと思ったことはないはずなのに。

スタラに「におう」と言われた。毎晩風呂に入っているのに。


ユオの件は、考えてもよく分からないので、一旦保留にすることにした。

スタラに「におう」と言われた件は・・・明日、パラムが任務から帰ってきたら、聞くのもアリかもしれない。


パラムは唯一、8人の中で女性の魔法使いだ。

明るくて無邪気で、美しい顔をしていて・・・100歳の、見た目は20前後に見える魔法使い。


彼女なら多分、何か良いアドバイスをくれるだろう。


そう考え、ベッドに入り、眠った。


ーーーーーーーーーーーーーーー


夢を見た。


吹雪の中だった。


遠くに、倒れている青年が見えた。

金髪だった。倒れている彼から、異様なオーラを感じた。


目の前には男の背中が見えた。

右腕を失っていた。

肩まである、紺色の少し癖のある髪が見えた。


金髪の青年がゆっくりと起き上がる。


「・・・シエロ・・・」


しかし、いつもの澄んだ青い目は、赤く染まっていた。

濁った赤だった。


茶色の長い髪の男が、呪文を詠唱していた。


ーーーーーーーーーーーーーーー

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