モンブランタルト
初めて訪れたその映画館は、今時珍しく自由席だった。近くのコーヒーショップでホット抹茶ラテを買い、僕は上映される映画を待つ列に並んだ。開場まで後五分程だ。何故ここに来たかのかと言うと、たまたま観たかった映画がいつも行く映画館では上映していなかったからだ。
程なくして、真ん中辺りの通路側に座った僕は、ぼんやりと予告編を眺めていた。平日の昼間だからか、客の入りは半分くらいだろうか。やがて館内は一層暗さが増し、左右のカーテンが動き、スクリーンが横に広がると、R15指定の映画が始まった。
激しく、大人しく、痛々しく、可愛らしく……
湿っぽく、埃っぽく、エロっぽく、ガキっぽく……
時間はそそくさと流れていった。
せつない映画だった。冷静に見ていたはずだったが、不覚にも目が潤んでしまった。
この後、僕は彼女とデートの約束をしていた。彼女と落ち合うと、彼女がセレクトしてくれた隠れ家的なカフェに向かった。数分歩くと駅前の喧騒から打って変わって、静かな住宅街の一角にカフェはあった。外装も内装もとてもお洒落だ。彼女が食べたかったモンブランタルトは売り切れだったので、二人とも洋梨のタルトと紅茶のセットにした。
激しく、大人しく、痛々しく、可愛らしく……
湿っぽく、埃っぽく、エロっぽく、ガキっぽく……
時間はゆるりと流れていった。
僕も彼女もあまり喋らない。それでも一緒にいるだけで心地よかった。秋が終わらないうちに、もう一度モンブランタルトを食べに行きたいと思った。