休憩室
休憩室は三階にある。店舗裏口から出て警備員室を横切り、老朽化したエレベーターに乗ると草臥れた音と揺れに目眩がした。はっきり言って休憩など取りたくはないのだ。それより早く帰りたい。僕はエレベーターを降りて薄暗い廊下を真っ直ぐに進むと、左手にある従業員休憩室のドアを少し乱雑に開けた。するとそこに広がる風景はいつもと少し違っていた。そこには様々な制服に身を包んだゴリラが食事をとったりスマフォを弄ったりして寛いでいたのだ。僕はゴリラには免疫があり、むしろ人間より苦手意識は少ない。とりあえず空いているテーブルを見つけて席に座った。ふと背後からバナナの匂いがして振り向くと、ゴリラが一心不乱にバナナを食べていた。見覚えのある顔だった。彼女は「ゴリラカフェ」のウエイトレス亜夢だ。亜夢はにっこり笑ってバナナを差し出したので思わず受け取ってしまった。僕は礼を言い、静かにバナナを食べた。バナナを食べるなんて何年振りだろうと思った。甘くて美味しかった。僕は自販機でお茶とオレンジジュースを買った。ジュースを亜夢に渡そうとして振り向くと、中年の男性がカップ麺を啜っていた。いつもの休憩室だった。