八十六話 パイナップルの罠
海底にたどり着いたので挨拶から始めた。
人魚さんの怒りに触れた。
牢に放り込まれた。
しかし、考えても答えがでないので、考えるのをやめた。
だから、パイナップルをみんなで頂くことにした。
「何だか不思議な形をしているのです」
「どうやって食べるのかのう」
「丸かじりするんじゃないかしら……?」
まあ、分からんよな。
切ってから出してくれるとありがたかったんだが。
しかし、パイナップルとは懐かしいな。
生前子供の頃、見た目のカッチョ良さに引かれて駄々こねて買ってもらった記憶がある。
缶詰のやつの方が旨くて絶望したっけかな。
俺もパイナップルの正しい食べ方は知らん。
縦に二回ナイフ入れて芯を取ればくえるだろう。
スイカのように食えば良いさ。
「んー。甘くておいしいのです!」
「酸味があって爽涼感があるのじゃ」
「強そうな見た目だし、私はこれ好きだわ……」
「うーん。育て方がさっぱり分からないけど、城なしにも欲しいな」
バナナと一緒に植えておけば、城なしの海は今よりずっと海っぽくなる。
果物は時間が掛かる。
でも、手間かけずに食えるのが大変よろしい。
ツバーシャも気に入ったみたいだし。
そんな事を考えていると、俺たちのいる牢の外にいる野次馬がまたひそひそ話をし始めた。
どうせ、ラビには聞こえるし、おっきい声で言えば良いのに。
「なっ、何だあいつら……!?」
「牢の中で仲良くパイナップル食ってやがる……!」
「まあ、見てろよ。直にパイナップルの毒が回って舌がぴりぴりになるぜ……」
「そうだな。パイナップルは一日ひと切れまでって約束だもんな……」
「ぶふぅ!?」
「ラビ、急に吹き出してどうしたんだ?」
「パイナップルには毒があるのです!? ひと切れまでのお約束なのです!?」
ぷるぷるしてとても慌ててしまってる。
パイナップルに毒なんてあったっけか?
「落ち着くんだラビ。何を言っているのか分からないよ」
「毒じゃ死なないわ……」
「ツバーシャは別格じゃろう。ラビよ。心配無いのじゃ。わぁは対毒訓練を受けているから、この食べ物が安全だと分かる」
「でも……」
ほんとツバーシャは頑丈ね!
シノもシノだけど。
しかし、一体ラビは何を耳にしたんだろう。
「な、何だか舌が変な感じがするのです!」
「いや、バイナップル食べると──」
普通はそうなるもんだと続けようとしたところを野次馬に遮られた。
「へへっ! そろそろパイナップルの過剰接種で舌がぴりぴりしてきただろう?」
「メエちゃんを弄んだ罰だ!」
「俺たちのプライドは安くないんだ。苦しみ悶えて反省しろ!」
いやいやいや!
人魚のプライド大安売りじゃないか!
しかも、メエちゃんを弄んでもバイナップル食わせるだけなんかい。
こんなんでビビっちゃう奴はおらんわ。
「ひええええ!?」
いたわ。
ラビがとってもビビっちゃってる。
「大丈夫だよ。バイナップルはもともとこう言う食べ物なんだ」
「本当なのです?」
「ああ、もちろんだ。ご主人さまを信じるんだ」
「ご主人さまの言うことなら信じられるのです!」
うむ。
ラビのあたまん中のご主人さま像がどんなんだか分からないが利用させてもらおう。
騙している訳じゃあないしな。
「お、おい。パイナップル一日ひと切れ以上食って良いって本当かよ?」
「知らねーよ。ガキの頃からそう教わってきたし」
「でも、こいつら食いまくってるぜ?」
ああ。
あれか。
パイナップルばかりたくさん食べられても困るから、パイナップルには毒があるって言って躾ていたとかそんな話かい。
パイナップルは一本の株に一個しか取れないもんな。
バナナみたいに無尽蔵には食えん。
でもまあ、舌がぴりぴりすると言うことは何らかの刺激物が入ってそうだし、ニンニクや唐辛子の様に食べ過ぎない方が良いのは間違い無さそうだ。
「ねえねえ、なんの騒ぎなのこれ?」
「あっ、メエだ!」
「お前コイツらに釣り上げられたんだってな」
「可哀想に……」
おお。
やっとメエが来てくれたみたいだ。
もっと早くに来てくれればと思ったけど、海底だから仕方ないか。
あっ、目があった。
お手て振っておこう。
「ち、ちょっと!? メエのお客さんになんてことしちゃうの!?」
「「「いや、だって、コイツらが……」」」
良かった。
説得してくれるみたいだ。
しかも、上手くいきそうな雰囲気だし。
もう勘弁ならねえ決闘だとか言い出すんじゃないかと心配だったから助かるわ。
「たまたま、釣りをしているところにメエが出くわして、昆布ビキニが引っ掛かっちゃっただけなんだよう」
「「「昆布ビキニを釣り上げた!?」」」
ん?
空気が変わったぞ?
「ち、ちが、確かにビキニは取れちゃったけどそれも事故で……」
「「「ビキニが取れてポロリ!?」」」
「ま、まって、見られてないの! あっ、でも翼と背ビレは見せっこした……」
「「「もう勘弁ならねえ決闘だ!」」」
そんな馬鹿な!?
二言三言で、悪い方向に振り切った!
どういう事なの!?




