八十五話 あれ? 歓迎されて……。無い!?
人魚のメエは海のなかには空気があると言った。
とても信じられなかった。
でも海のなかには空があった。
とにかく、空気もあって空も飛べる。
だから下に降りてみよう。
俺たちは、くるくるとゆっくり円を描きながら高度を落としていった。
「海の壁の向こうをお魚さんが泳いでいるのです!」
「壁にそって潮の流れがあるのかのう。かなりの速さで泳いでおるのじゃ」
「これは……。なかなかに幻想的だな。夢でも見ているみたいだ」
水族館。
転生者の俺からすればこの一言で片付けてしまう事も不可能じゃあない気はする。
でも、スケールが違いすぎる。
俺が空を飛んでいる事もあって、魚やクラゲなんかが、空を泳いでいるようにさえ見える。
「ぬぬっ。なんじゃこの光は……」
「目がチカチカするのです」
「うーん。何だろうね。空を飛ぶ者に、これは致命傷になる」
砂の無い砂時計みたいな形の光源だ。
下の部分だけ光ってる。
何だか、懐かしい感じがしないでも無い。
電灯みたいな……。
ああ!
電灯そのものか!
これが海底を照らしているのか!
どんな仕組みなはのかは知らん。
でも、このままだと視界が確保出来ずに墜落する。
下に向かって光っているからまだましだけど、全方向だったら、優秀な対空兵器だな!
だが、俺には【風見鶏】がある。
「見える……!」
これで目をつむってもそら飛べる。
無ければ墜落していただろうな。
怖い怖い。
そう言えばツバーシャは大丈夫だろうか?
「ルガアア……!?」
いかん、パニックになって、変な飛び方しとる!
いや……。
持ち直したか。
ツバーシャの飛ぶ仕組みだと、無茶が効くな。
理不尽だ。
「あっ、人や建物が見えてきたのです!」
「まだこの高さだとよく分からないな。屋根が黒っぽいなあって、位しか分からん」
「あっ、人々がこちらに気付き始めたのかのう。主さま。かなりの視線がありそうなのじゃ」
なら、今のうちに袋を被っておこう。
発作を起こしたら大変だ。
これがあるのと無いのとじゃ大違いだしね。
「何だか良い感じに開けた場所があるから、あそこに降りようかな」
ツバーシャはお行儀よく着地出来ないからね。
そんな訳でツバーシャに手信号を送ると、目星を付けた所へと着地した。
すると、人が集まってきて俺たちを囲み始めた。
この距離なら辛うじて発作は起きないが、居心地が悪い。
しかも、何かひそひそ話してるし。
「ひ、人が空から降りてきたぞ……?」
「それより飛竜もいるぞ……?」
「なに言ってるんだ? 最悪なのは女の子に首輪が掛かっている事だろう……」
聞こえん。
だが、こんな時こそラビの出番だ。
お耳がぴくぴくしているから、ちゃんと聞こえているだろう。
「ラビ、何て言っているかわかるかい?」
「“人が空から降りてきて、飛竜が最悪”と言っているのです!」
「ルガアアアアアア!?」
「「「ひいいい!?」」」
ええ!?
本当にそんな事言ったの?
流石に飛竜を目の前にして小声とはいえ、そんな勇気があるもんか?
ツバーシャが、戸惑って威嚇しちゃったぞ?
遊びに来ただけだから、騒ぎを起こしたくないんだが。
「ツバーシャ。落ち着こう。多分何かの間違いだから。人の姿に戻っておくれ」
「ルグググ……。ふぅ……。最悪なんて初めて言われたわ。おうち帰りたい……」
ああ、しょげてしまった。
見た目のワイルドさに反して繊細すぎる。
袋を被って、体育座りしてしまった。
ともかく、この雰囲気何とかしないと!
「え、えーと。どうもこんにちは。こちらの国? で、良いのかな? あー。ともかく、こちらの国のメエさんを釣り上げてしまい。色々あって遊びに来ただけなんです。だから、怯えないでください」
「メエを釣り上げた!?」
「メエだけで飽きたらず、ここへ遊びに来た?」
「そんなの戦争だろうが!」
えっ?
悪化した?
バカな!?
過去最大の良くできた挨拶だったじゃないか!
挨拶が上手くいかない呪いでも掛かってるのか?
「戦争!? 焼き払えば良いのね……!?」
「だ、ダメなのじゃ。これ以上話がややこしくなったら、収拾がつかないのじゃ」
「みんな怒ってるのです!」
「えー。どうしてこんな事になったんだろ……」
戦争などと言われても、争う気は全く無い。
何とか誤解を解こうと奮闘するも。
怒ってしまった人魚の人たちよって、皆仲良く牢に放り込まれてしまった。
抵抗したら相手を傷つけてしまうから、大人しくされるがままにするしかなかったのだ。
「お前たちの処遇はじっくりと決めるからな!」
「ここで頭を冷やしてろ!」
「これでも食ってやがれ!」
あっ、パイナップルだ。
牢屋に閉じ込めた割りには偉く豪勢だな。
しかし、困った。
あんまり帰りが遅くなると城なしが生物兵器を投下しかねない。
こんな閉鎖された世界じゃ被害がとんでも無い事になってしまう。
さてはて、どうしたもんか。




