六十六話 お米が白かった
砂漠やオアシス、大草原を離れてから二ヶ月。
城なしに暮らすようになってから八ヶ月ぐらい経っただろうか。
ケー! コッコッケー!
朝か……。
ひよこはスクスクと成長し半端なニワトリになった。
トサカがちょびっとしかないから立派じゃあない。
でも、朝も暗いうちから声高々に鳴いてくれるのよな。
おかげでかなりの早起きが型にはまった。
コケー!
二度寝なんか出来んわ。
それにしても、雀の次はニワトリですかい。
ずいぶん身近なところから集まってきたもんだ。
次はカラスとかハトですかい?
かわいい感じのがありがたいんですが。
「ご主人さま。おはようなのです!」
「ああ。お早う。寝癖でぽさぽさだな」
例え俺の起きる時間が変わってもラビは俺より早く起きる。
耳が良いからなんだろうな。
だが、シノは起きない。
ネコもかなり耳が良い部類だと思うんだけどなあ。
羨ましいぜ。
「ラビはこうしてご主人さまが早く起きる様になって悔しいのです」
「嬉しいじゃなく!?」
「ご主人さまを起こすのは楽しみだったのです」
おっ、おう。
そっかー。
よくわからんがここでご主人さまが取るべき行動は分かる。
「あー。なんか眠くなってきたなー。まぶた重い寝そう。寝ちゃう。ぐぅ……」
「あっ、ご主人さま。起きなきゃダメなのです!」
「んー。今日はご主人様ずっと寝てるわあ……」
何だこの茶番は!
などと思わんことも無い。
そして恥ずかしい。
でもラビの為だ。
かんばれご主人さま。
何てのを三回ほど繰り返して目が覚めた事にした。
「じゃあ、水やりでもするとしますか」
「ラビも一緒にお水あげるのです!」
うんうん。
まだ薄暗い内から水をやるのは心細いからね。
大変ありがたい。
さつま芋、大豆、オクラ、米、お茶、バナナ、栗、サルナシ、クルミ、シイタケ、竹。
気が付けばかなりの種類を植えていたもんだ。
おかげで水やりも結構時間がかかる。
何か水やりを楽にする方法は無いもんかね。
「んー。大豆と米の収穫がそろそろかなあ」
「もう食べられるのです?」
「あははっ。米はともかく大豆は増やすのにまわすよ。たくさん食べられた方が嬉しいだろう?」
「んー。我慢するのです!」
まあ、少しは食べるように回すけどね。
ラビはこっそり前に食べていたからな。
お腹が痛くなったら可愛そうだ。
「しっかし、この米は変わっているな。中身が白い」
一粒手に取り爪で籾殻を剥がして青くないか確かめたついでに更に中まで見てみたのだが違和感が。
「何かおかしいのです?」
 
「いやまあ、普通白いんだがもう少し透明感があるハズなんだが」
うーん。
失敗したかな。
あっ、米って干すんだっけか。
いやでも白い気が……。
「ご主人さま? 考えごとなのです?」
「ああ。すまん。後で刈り取って干してみよう」
取り合えず水やりは終わったので、シノとツバーシャを起こして朝食をとった。
「今日も空を飛ぶのかしら……?」
「どうせ今日も海だろうし先に米を収穫したい」
「私も手伝うわよ。早く終われば早く空を飛べるわ……」
お、おう。
早く終わらせろと言われてるのか、好意で言っているのかわからんな。
まあ、こう言うときは好意で言っていると受け取っておいた方が良いだろうな。
 
「そう言えば、米がやたら白かったんだよなあ」
「んー。主さま。米は玄米しか見たことないのかの? 米は白いのじゃ」
「いや、それは知っているけど、白米は透き通っているだろう」
「ふむ。透き通っておらんのか。見てみんとわからんのう」
ならば見てもらおう。
早速米の壺田んぼにつれていき、米を一粒割って見せてみた。
「ほら、白いだろう?」
「こっ! これは──」
「何かしら、シノが動揺するなんて珍しいわね……」
確かにここまで動揺するのは初めてだな。
顔を青くして、冷や汗だらだらだ。
なんだろう?
米ってそんなヤバイ病気とかあったか?
「おシノちゃんが固まってるのです」
「ヤバイのかこれ? ヤバイなら壺ごと海に捨ててくるぞ?」
「違うのじゃ。すまぬ主さま。これは……。これはもち米なのじゃ! 間違いで買ってきてしまったのじゃ」
「あー。言われてみれば、もち米ってこんな感じだった気がする」
えーと、普通常食しないから普通に炊いても食えないのか?
いやでも、赤飯ってもち米だったような?
アズキないけど。
「まあ、気にするな。餅は好きだ問題ない」
「いやしかし……」
「これだけ色々な国を回ってるんだ。米にもまた出会えるさ」
しかし、もち米か。
案外おもしろいかもしれないな。
色々出来そうだ。
餅なら、さつま芋より甘みが少ないから主食に向くしな。
「さあ、刈り取るぞ。刈り取って干しておこう」
米は穂の部分だけでなく、茎の部分も使い道があるのが嬉しい。
ワラジとかね。
いや、編み方知らんけど。
俺は藁を作物の根元に敷いて使う。
こうすれば乾燥を防げるから、水やりの頻度を減らせるハズだ。
まあ、まずは穂ごと乾燥させてからだな。
「よし、終ったな。米俵ひとつ分にはなるかな?」
「そうじゃのう。それぐらいになるかも知れないのじゃ」
確か米俵ひとつで60キロだったか……。
あれっ?
作りすぎじゃないこれ?
いやまあ、主食にするなら足りないだろうがさつま芋があるしなあ。
そろそろ、過剰分を売却する事も考えた方が良いのだろうか?
いやあ、市場とか発作起こすわ。
町から離れた農村とかと物々交換できたら良いかもなあ。
「終わりかしら……?」
「うん、わかった。お空飛ぼうね」
本当は大豆も収穫したかったけど仕方がない。
ツバーシャのおねだり聞きうけて、みんなで空に飛び立った。
 




