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食事をしながら午後からの打ち合わせ。
食べ終わるとレイア様は御用があるからとレイア様は王宮へ帰って行ってしまった。
待ち合わせは夕方でまだ時間がある。
街はお祭りなので私は……ボッチだ……。
昨日レイア様と入った劇場は ”ロミオとジュリエット” なんて看板が出ている。
たぶん私が一昨日酔っぱらってやったのを劇団の人が見てたんでしょ。
昨日の ”タローカジャとジローカジャ” 見て思い出した。
あれ私が平成の高校時代に文化祭でやった二次創作だもん。
黒歴史、クロレキシ。
完全削除したつもりだったのに。
しかし本職がやるとすっごい面白かった。
このロミオも見てみたいけどコッテコテのラブ悲劇? を女の子一人で見るには抵抗がある。
どうしようか考えていると声が掛かった。
「やぁリア君、こっちこっち」
どっかで聞いたことのある演目をしている面白いと評判の劇場。
今日は半日休みで時間がある。
そして職場からすぐ歩いていける距離だと間違いなく並んでいる我同僚たち。
新しく職場に入った女の子、しかも独身ともなれば上司としては同席させておごってやるって考えるのが自然な流れだったりする。
「リアちゃん、遠慮しないで一緒に見ようよ。今日は主席がおごってくださる。ヨッ主席太っ腹ぁ」
どこの太鼓持ちやねん、とか主席のちょっと出ただけのお腹でそれままだちょっとかわいそうとかの突込みは当然心の中だけでして、いかにもおずおずと開けられた主席と先輩の間に入る。
「そうそうこっち座って、さぁ遠慮しないで好きなのを注文しなさい」
桟敷席に座るとお団子とかの売り子をしている女の子が近寄って来た。
「武闘大会の賭け札、今のところ主席だけが的中させてるんですよ」
「へ~すっごぃですねぇ」
何か良くわからなくても驚いて持ち上げるのはお約束。
お団子おいしい。
女の子に持ち上げるとペラペラと自慢話をするのも男のお約束。
お饅頭もおいしい。
「いやぁ、グリズリーは絶対負けるって……」
……
「……それで優勝はコーラル将軍にしたわけだ。だから、ぅうぉっと」
身振りを交えて熱演する主席の腕が通りかかった売り子さんのお盆に当たってしまった。
乗っているのはいるのは熱い飲み物。
とっさに手を伸ばしてお盆を支えて衝撃を逃がし、慌てて躓きかけた売り子さんの浮いた足を反対の手で少し払ってバランスが取れる位置にずらす。
売り子さんは一瞬ん? なんて表情を浮かべて立ち止まっただけ。
主席はあっちこっちキョロキョロ、何に当たったのかな?
売り子さんは何かにお盆が当たったけれど無事だったので失礼しましたなどと言いながら何事も無かったように向こうへ。
今まで比較の対象が無かったからわからなかったけど、私ってかなりハイスペックな運動能力してるみたい。
ちょっと元気出た。
それからすぐに舞台ではまじめにやってるんだけどどっか変な私演出の劇が始まり主席の演説は終わった。
にこやかに思いつめたセリフを語ったり、足で鳴らす効果音と動作が微妙にずれたり……。
さすがプロやね。
最高におもろい。
何もかも忘れて笑……ちゃおう。
後から考えると主席の説明は絶妙なタイミングで中断したのかもしれない。
試合の流れは大まかにわかったし、コーラル将軍がどんなすごい剣を使うかもわかった。
そしてコーラル将軍がどんなすごい魔法を使うかを聞かずに済んだ。
魔法なんてあると分かってたら絶対に逃げ出してたに違いないから。
兎に角、対コーラル将軍戦で剣について思いついたことが有って、私は剣舞の型を練習するための剣を採りに大急ぎで部屋に戻った。
そう、私は武闘大会に出ても生き延びられる準備をしようとしてる。
でも私はあくまでも剣舞の練習を大きな会場でみんなに見てもらうだけ。
ラピス様との婚約が決まった時、私は一生この人に騙され続けようって心に誓ったから。
大歓声がかすかに聞こえてくる狭い控室、私はひとり舞台衣装の様なちゃちい防具に身を包み、持ってきた剣が入った袋を握りしめて恐怖でガチガチなろうとする歯を食いしばって押さえつけていた。
コンコンコン。
私を迎えに来た係員が控室のドアをノックする。
作中、ロミオとジュリエットは一人芝居、原作そのままですが演出は喜劇です




