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ピラフ

 昨日はピラフをつくった。


 なんてことはない、急に食べたくなったのだ。べつに、小さいころ好きだったわけではない。それどころか、あまり食べたことすらないはずだ。せいぜい、冷凍のピラフを何度か食べたことがある程度。

そもそも、ファミレスなどでメニューにピラフが載っているのは見たことがない。外でピラフを食べたこともない。というか、ピラフはいったいどこの国の料理なのだろうか。


 気になってきたので、調べてみることにする。

 Wikipediaによれば、「トルコ料理が有名」とある。「トルコ料理が有名」。なんだか変な日本語である。ラーメンの項目には「中華料理が有名」とあるのだろうか。ようするに、ピラフは各地に浸透しているものなのだと理解する。

 ちなみに、ピラフ自体の説明としては、「炒めた米をさまざまな具とともに出汁で炊いたもの」とあった。なるほど……と思ったが、ふと踏みとどまる。


 炒めた米を炊いたもの、とな。


 なにか引っ掛かるものを感じた。

 画面を下にスクロールしていくと、なるほど、ぼくのように疑問を感じたひとのためだろうか、きちんと注釈がついていた。


 すなわち、ピラフはあくまで「炒めた米を炊く」のであり、「炊いた米を炒める」わけではないそうだ。炊いた米を炒めたものは炒飯らしい。なんとなく、炒飯は油で炒めたもの、そしてピラフはバターで炒めたものをさすのかと思っていたが、そういえばバターも油だったと気づく。


 薀蓄で腹は膨れない。


 さっそく調理に取り掛かろう。ある程度の作り方のイメージは頭にあるが、いちおうレシピを確認しておく。Google先生に「ピラフ」と聞くと、それだけでピラフのレシピがズラーっと出てくる。技術の進歩は素晴らしい。


 ふむふむ、ざっくりと読み流したところ、バターでシーフードを炒め、ご飯を投入、炒めればいいらしい。ほぼ予想通りだ。野菜はピーマンが普通らしいが、あいにく我が家にピーマンはない。冷凍保存してあるアスパラガスと、タマネギで対応する。

 ちなみに今回は、本来の「ピラフ」ではなく、炊いたご飯を炒める似非ピラフだ。料理で大切なことのひとつは、面倒なことはやらない、である。


 では、調理をはじめよう。


 熱したフライパンに、バターを一欠けら落とす。マーガリンではない。バターだ。トランス脂肪酸よくない。ほのかな塩味をはらんだ匂いが鼻孔をくすぐる。


 続けて、冷凍のシーフードミックスを入れる。エビ、イカ、ホタテの貝柱が、カランコロンと音をたてる。温度が下がり、油が弾ける音は一時なりを潜めるが、すぐに勢いを取り戻す。多量の水分が出てくるが、これはきっと魚介類のエキスが存分に詰まったものなのだろう。


 さらに、タマネギのみじんぎりを投入する。順番を間違えたかな、と思うも、大丈夫だと判断する。生でも食べられるタマネギに、生焼きという概念はない。アスパラガスは食感を残したいので、あとで入れることに。効果があるかは定かではない。


 塩、胡椒、それにコンソメで味付けをし(コンソメはレシピのひとつに書いてあり、美味しそうだったので採用した)、どんぶりいっぱいのご飯を入れる。


 米が水分を吸い過ぎないように、手早くかき混ぜる。米一粒ひとつぶを、黄金色のエキスが包んでいくのがわかる。すこし固めに炊いたご飯は、その乾いた喉を、魚介のエキスで潤すのだろう。


 音がかわってきた。あえて擬音を書くのならば、「ジュー」から「ジュジュジュ」という感じだ。……圧倒的に擬音のセンスがない。ようするに水分が飛び、米が直接フライパンと接したため、音がかわってきたということだ。たぶん。


 そうだ、忘れていた。


 あわててアスパラガスを入れる。それまではクリーム色をしていて少々味気なかったものに、鮮やかな緑が彩りをくわえる。アスパラガスは好きだ。それも、すこし細めのものが好きだ。歯ごたえがいいし、なにより色合いが綺麗だと思う。


 ふと思い立ち、冷凍コーンもひとふりする。これであとニンジンがあれば、すくなくとも見た目的には百点満点だったのだが。


 とはいえ、とりあえずこれで完成。


 うん、想像どおりのものができたのではないだろうか。おかずはサラダと、買ってきた惣菜(揚げ物)だ。栄養バランスも、おそらくとれているだろう。


 スプーンですくうと、ほのかな湿り気を含んでいることがわかった。シーフードミックスから出てきた水分が思っていたよりも多かったため、もしかするとべちゃべちゃになっているのではないか――そんなことを考えが頭をよぎる。


 口に運ぶ。


「!」


 美味しかった。


 たしかに多少水分を含んでいたが、たしかピラフとはこんな感じだったと思う。

 山のバターと、海の魚介。昔は出会うことがなかったであろうふたつが、こんなにも絶妙に交わるとは。バターの香りと魚介の深みが、噛めば噛むほど、口のなかに広がっていく。薄味だったが、それがいい。存分にふたつの味を感じることができる。


 様々な食感をが楽しめることもポイントが高い。タマネギはシャキっと、アスパラガスはポリポリと、そしてコーンはプチッと。飽きがこないから、ご飯ものであるにもかかわらず、これだけで延々と食べ続けることができる。


 今回、ピラフを食べたいと思ったのは本当にたまたまだった。たんに食べたいと思ったから、つくった。そして食べた。美味しかった。


 食べたいときに食べたいものを食べる。


 これ以上に幸せなことなんて早々ないのだと、感じるのだった。


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