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めんつゆ

「以前買ったものを使いきることができないまま、賞味期限切れを迎えてしまう」――これは、すべての一人暮らしをしているひとに共通していえる事項なのではないか。


 我が家においてそれが特に多い食材は、卵である。先週はひとつ、今週はふたつ余らせてしまった。先週はそれにくわえ、豆腐もひとつ余らせてしまった記憶がある。

 もっとも、一日二日程度ならば食べてしまえ、というひとも多いだろう。そもそも、賞味期限というのは「美味しく食べることができる日付」だから、問題はないはずだ。心配なひとは、火を通せばいい。


「気にせず食べる」、「火を通して食べる」というのは事後対策であるが、一方で、「とりあえず冷凍庫に放り込む」という事前対策もある。


 たとえば、もやし。安くて栄養もあり調理もしやすいという三拍子がそろった一人暮らしの味方であるもやしの唯一の弱点として、日持ちが悪い、というものがある。たいていのものは、三日だと思う。

 三日というのは一人暮らしをしているものにとって意外とすぐである。同期と外食をしたり、「あー、今日は疲れたから料理しなくていいか」など、夕飯を家でとらない、もしくは夕飯を作らないなどということをすれば、その三日は実質二日あるかないか程度だ。


 そんなわけですぐに冷凍庫送りになってしまうもやしも、ならばあとで使うか、といえばそれはそれで疑問である。正直、使わない。いま、ぼくの冷凍庫にはもやしが入っているが、使ってはいない。中途半端な量が残っており、いまさらながら昨日のゴミ出しの日に一緒に出してしまえばよかったと(もやし生産者の皆様申し訳ありません)、思うのである。


 なにがいいたいかといえば、つまり、一人暮らしはものが残る、ということだ。


 そして残るものは、食材だけにとどまらない。


 どういうことか?


 それはすなわち、調味料である。


 そう、一人暮らしをするうえで、調味料という言葉ほど「使い切る」という概念と程遠いものはない。


 ひとつの料理にひとつの調味料、ということはまずありえない。ひとつの料理に複数の調味料はあたりまえ、しかしべつの料理をつくるときにはまた新しい調味料が必要なのだ。


 すると、どうなるか。


 今日は韓国料理をつくるぞ、ということになれば、コチュジャン(もしくはキムチの素)が必要である。次の日、パスタをつくるぞ、となれば、オリーブオイルが必要である。もしかしたら鷹の爪も必要かもしれない。さらに次の日、よし、今日は和食だ、ということになれば、それこそ料理酒やら味醂、醤油、味噌、などなどが必要だということになりかねない。次の日に冷蔵庫を開けてみれば、広くない空間のなかには調味料が素知らぬ顔で鎮座しているのだ。


 調味料の性質の悪いところは、気づけば増殖している、というだけではない。一回あたりの料理において、使う量が少ない、ということがある。大さじ一杯や二杯で、醤油三五〇ミリリットルをからっぽにするにはどれだけの時間がかかるのだろう。ひのきのぼうで魔王に挑んでいる勇者の気分になってくる。さらに上記でも述べたように、その魔王は増殖してくるわけだから、いっそ全滅させてくれとすら願うが、やつらはそうはしない。ただそこに居座り、苦しむぼくをニヤニヤと笑うのだ。


 ……と、このようなことになってはまずいということで、ぼくは調味料をなるべく買わないようにしている。


 とりあえず、料理酒と味醂はない。実は味噌もない。味噌くらいあってもいいはずだが、味噌汁をそんなに飲むわけでもないし、ということから却下された。さらにいえばマヨネーズもない。あれはサラダ類にしか使わないだろうし、サラダにはドレッシングがあればいい。ドレッシングもいままではなく、ソースをかけていた。我が家で言うサラダは千切りキャベツとイコールなので、問題はなかったが、以前ためしに買ってみたらとても美味しくサラダを食べることができたので、重宝している。しかし一方で、キムチの素はある。鷹の爪もある。あとは生姜焼きのたれと、焼肉のたれがある。そんな感じだ。


 この調味料を買うかどうかの判断基準は、「より多くの料理に使うことができるか?」だ。応用がきけばきくほど、消費は早くなる。冷蔵庫に巣食う憎き魔王を、討伐しやすくなる。


 そしてその観点から考えたときにぼくがオススメしたい調味料――それがめんつゆなのである。


「うちはそんなに麺類食べないからな」などという読者の方。


 そうではない。


 そうではないのだ。


 たしかに冷凍うどんは一人暮らしの食卓に欠かせない存在であるが、それだけではない。めんつゆは麺類以外の料理において、比類なき力を発揮する。


 いってしまえば、めんつゆは醤油の代打、否、上位互換である(醤油生産者の皆様申し訳ありません)。


 醤油をかけるべきところに、めんつゆをたらり。


 美味しい。


 以上。


 ……だとあんまりなので、具体例をだそう。


 たとえば一昔前、「卵かけごはん用の醤油」というものが流行った。だが正直なところ、ぼくにいわせれば笑止千万ですらあった。そんなものを買わなくても、めんつゆをかければいいのだから。

 醤油に比べ深みのある味わい、ほのかな甘さが、その卵かけごはんをより素晴らしいものにしてくれるだろう。ほかにも冷奴に醤油の代わりとしてかけるなどしても美味しい。


 また、料理にも役立つ。


 丼ものをつくるとき、わりしたをつくる必要がなくなる。タマネギにめんつゆをかけ、カツを投入し、卵でとじる。それでおわり。砂糖をくわえ、すき焼きにも応用できる。


 きんぴらごぼうもつくることができる。味醂がなくても、めんつゆと砂糖で(とりあえず)なんとかなる。作り置きして冷蔵庫に入れておけば、足りないときの一品として活躍する。


 余った大根をいちょう切りして、めんつゆをかけ、レンジでチン。煮物風のものができる。たぶん、里芋やレンコンなどでもできるはずだ。


 このように、めんつゆは和食というフィールドにおいては万能選手である。これ一本で味付けが決まり、かつ、多くの料理に応用できるのだから、素晴らしい。一人暮らしの皆さんに、ぜひおすすめしたい。


 最後に、全国の和食好きの皆さんを敵に回す一句を添え、終わろうと思う。


    和食には

      めんつゆ一本 

         あればいい


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