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「ブス!」と罵ってきた男  作者: 井上さん


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2/2

「ブス!」と罵ってきた男が、私を好きだけど素直になれないだけ?ふざけんな!

前の話とは全く関係ない話です


名前を借りました


フィクションです


 私ノア・クーロンは、婚約者バッファ・ヘンリーから毎日「ブス!」と罵られている。


婚約者の家が上位の貴族だから、断れないから婚約を受け入れているけど。


初対面から「ブス」と言われ続けている。


 婚約が嫌だからって、目下の私に八つ当たりするなんて、最低なんだけど。お子ちゃまかよ。


 だが、両親や、婚約者の両親、周りの大人達は


「男は、好きな子には素直になれないんだよ」


 と、婚約者を庇う。


そんな性悪男とは結婚したくない!

なのに、誰も理解してくれない。


 まだ10歳とかならともかく、学園に通う15歳だぞ。


周りの生徒達にも、偉そうだし。何様なのかな?

 伯爵家子息とはいえ、同じ伯爵家も、侯爵家の子息子女もいる学園で、偉そうなのはどうなのか。


成績だって、平均点を下回る。


 顔だって普通だから、私に「ブス!」って言う前に、鏡を見てほしい。




 そして、バッファは、他の令嬢といつも一緒にいるんだが?浮気ですよ。不貞ですよ。


誰だよ?好きだけど素直になれないだけだとか言ったやつ。


 本当に好きだったら、他の令嬢と腕なんて組んでないだろ?




 だから、私は両家の大人達にぶち撒けた。


「私はバッファとは結婚したくありません!」


 誰かが何かを言う前に


「突然、見知らぬ男が『ブス!』と罵ってきたんですよ。嫌いになるに決まってます!」


 案の定、父親達は


「好きだから素直になれずに、つい反対の事を言ってしまったんだ。微笑ましいじゃないか」


 そう言うと思っていたので切り返した。


「では、貴方達は見知らぬ令嬢に『ちっちゃくて可愛い』と罵られて『私の事を好きなのに素直になれないだけで微笑ましい』と許すんですね?」


「「なっ…」」


 私の父とバッファの父が絶句した。

ちっちゃくて可愛いのかな?


「初対面の、名前も名乗りもしない不審者に、罵られても許すなんて、なんて寛大なんでしょう!それとも、罵られるのがご趣味なんですか?」


「「なっ…!!」」


 自分が、罵られるのが趣味だから、私も喜ぶと思ったのか?

そっか〜。そういう趣味だったのか。


理解できない筈だ。


「罵られるのが趣味でない限り『ブス!』と言われて喜ぶわけがないでしょう」


「それは…」


 罵られるのが趣味な貴方達とは違うのだよ。


「しかも、その時は社交界デビューもしていない10歳ですよ?傷付くに決まっているでしょう」


「それは…」


 それは…なんだ?何とか言え。

全員、黙ったままだ。


「…そうですか。それでもバッファを庇うんですね」


 自分が罵られるのが趣味だからって、他人もそうとは限らないのに。

良い大人なのに、分からないのか。


 私はナイフを取り出し肩のあたりで髪を一房切った。


「「キャー!!」」


 私の母とバッファの母が悲鳴を上げた。


私は気にせず、もう一房髪を切った。


「私は修道院に入ります」


 動けない大人達に向かい、宣言した。どんどん髪を切っていく。


私には罵られて喜ぶ趣味は無い。 


髪くらい切っても、人は死なない。私は覚悟を決めたのだ。


「何度嫌だと言っても、誰も、味方の筈の両親さえも理解してくれない。死んだ方がマシです」


 はよ婚約破棄させろや。バッファ有責で。


「謝罪させるから…」


「せめて、本人と話だけでも…」


 あ。ダメだこりゃ。


「私はバッファといるだけで死にたくなります。つまり、私に死ねと仰るのですね。分かりました」


 私はナイフを首に当てた。


「待ってくれ!」


「死ぬ程では…」


 父親達が言う。死ぬ程バッファが嫌なんだが?


「いつまで子息を庇うんですか?」


 部屋に入ってきた男が言った。


「貴方は…!!」


 私のクラスメイトのナンド様と、その父のジュール・キルヒホッフ公爵様だ。


「ノア嬢は、バッファとは婚約を続ける意思は無いと命懸けで言っているのに、強要するなんて…人の心はあるのか?」


 キルヒホッフ公爵様が言った。


「幼い頃ならいざ知らず、学園に通う程のいい歳をして、素直になれないなんて、甘え過ぎだ。婚約者を侮辱するなんて、教育がなってない」


「普通の人間なら、婚約者を大切にする筈だ。娘とクーロン家が侮辱され蔑ろにされているのに、よく婚約を強要できるな。本当に親なのか?」


 両家の両親とも、言い返せない。


「ノア嬢は、我が家で預かる。同じ親としてお前達は恥ずかしいし軽蔑する」


 ナンド様が私に手を差し出した。


「さぁ、行こうか」


「はい」


「ナイフは私が預かろう」


 公爵様に言われ、ナイフの持ち手を公爵様に向けた。

公爵様はナイフを受け取った。


ナンド様にエスコートされ、私は公爵家の馬車に乗った。




馬車が動きだしてすぐに


「随分思い切ったな」


 隣に座るナンド様が、私の髪に手を伸ばした。


「こうまでしても、婚約はなくなりませんでした」


 私は無表情で言った。


「ナイフを首に当てた時は焦ったよ」


 公爵様とナンド様は、隣の部屋で話を聞いていたのだ。


もしも婚約をなくせなかった時に、私を保護する為に。


「それでも婚約はなくなりませんでした」


 私は絶望した。


「我が邸でゆっくり休むと良い」


 公爵様が優しく言った。


ありがたい…ただの、子息のクラスメイトなのに。


「よくがんばったね」


 ナンド様が頭を撫でてくれた。


そこで、私はやっと涙が出てきた。


ナンド様は、優しく抱きしめてくれた。


今だけは、ナンド様の胸を借りよう。




 両親は、最後まで私の気持ちを理解してくれなかった。


私は、貴族の娘として、政略結婚は仕方ないと受け入れていた。


 でも、毎日「ブス!」と言われ続ければ、嫌にもなる。


それに、あの男は、他の令嬢と学園で堂々とイチャイチャしている。


 我が家を侮辱されているのに、何とも思わない両親。


…もうダメだ。潰れろ。お前が末代だ。




 数日前。私は、いっその事…と、学園の屋上から飛び降りようかと思って、授業が終わってから屋上に行った。


 そこへ、キルヒホッフ公爵子息のナンド様が声を掛けてきた。


しつこく追い掛けて来る令嬢達から、逃げてきたらしい。

ナンド様は、まだ婚約者もいないので、令嬢達から迫られていたのだ。


 ナンド様は、死ぬ前に思っている事を全部聞かせて、と言ってくれた。

誰にも言わなかったら、君の苦しみは誰にも分からないままだよ、と。


 それもそうかな、と、何故か素直に全部話してしまった。


ナンド様は、最後に両親達に言いたい事を言って、それでも聞いてくれないなら家出したら?と言った。


「我が邸に家出すれば良いよ」


 公爵様の妹君が、婚約者からの侮辱と浮気を苦に、自殺してしまったらしい。


だから、見過ごせない、とナンド様も公爵様も協力を申し出てくれた。


「兄として、味方でいてやれなかった…」


 公爵様は、その時、国外に仕事に行っていて、妹君に寄り添えなかった事を、未だに後悔しているようだ。


だから、妹の代わりに助けたい、と。






 公爵邸での生活は穏やかだった。


学園は、しばらく休む事になった。


髪は、メイドさん達が綺麗に揃えてくれた。ありがたい。


 休みの間、予習復習をした。

ナンド様が授業内容を教えてくれたのだ。


 私は毎日、どこかから元婚約者が現れ「ブス!」と言ってくるんじゃないかと怯えていた。


公爵邸で過ごしていても、怯えてしまう。


 でも実際に「ブス!」と言われなくなったのは本当に良かった。


 それどころか、公爵様も、夫人も、ナンド様も


「可愛い」


 と言ってくれる。

お世辞だろうけど…


 特に夫人は、娘ができたみたい、と、喜んでくれ、お茶に誘ってくれる。

 若い頃のドレスを着せてくれたり、刺繍を教えてくれたり、母ってこんな感じなんだ…と驚いたものだ。




 実母は、お茶会や夜会に行ったりして忙しく、私には何も言わない。特に用事もなければ、顔を合わせる事も無い。


 両親は、典型的な政略結婚で、それぞれの仕事はきちんとするが、一緒に過ごす事などほとんど無い。食事も別だ。


 だから、私の婚約も、特に何も思わなかったのだろう。貴族の政略結婚だから。






「君は、婚約者から酷い事を言われても浮気をされても、きちんと授業を受け、勉強を欠かさなかった。図書室でも読書や勉強していたよね」


 公爵邸の図書室の本を片っ端から読み漁っていた時、ナンド様が言った。


「成績も上位だろう?できれば、私の執務を手伝ってほしいな」


 そう言われて、教わりながら執務を手伝った。


 将来、婚約者が伯爵位を継いだ時の為に、領地経営や領地の事も勉強していたので、役に立った。


「ちょっと待って。何で君まで勉強していたの?バッファの仕事でしょ?」


「あの人、全く勉強してませんでしたよ。令嬢とデートしていたので。課題も、私のを丸写しでした」


「跡継ぎだよね!?」


「跡継ぎの補佐をする為に私が勉強していました」


「あれが跡を継いだら潰れるな」


「弟君が優秀なので、弟君にも補佐をさせるおつもりのようでした」


「なら、弟に継がせた方が良いな」


「そうですね」






 そんな会話をした数日後。


「君の婚約者有責で、婚約は破棄されたし、奴は廃嫡になったよ」


「…え!?」


 何を言われたのか分からないだろう。私にも分からない。


「まず、毎日人前で、婚約者に『ブス!』と言い続けた事、それから授業態度も悪かったし、周りの生徒への態度も悪かったし、成績は…まぁ平均点以下。そんなのが跡継ぎで伯爵家を維持できるのか?と王太子が調査してね」


「王太子殿下が!?」


 何故なんですか!?何の関わりもない王太子殿下が調査なんて!?


「奴は廃嫡の上、領地に幽閉。どういう教育を施したんだと、両親の責任問題もあって、弟が成人したら、すぐに弟が伯爵位を継ぎ、両親は領地に幽閉」


 両親もか。当然だな。


「王太子の母は、私の母の姉でね。オバの友人だったらしい。オバの件があって、不貞は嫌いでね」


 王太子の母って王妃様!?


「王太子に『やっちゃえ』って言ったらしい」


「やっちゃえ」


 王妃様が?やっちゃえ?


「親世代は知ってる筈なんだけどね。王家の『不貞許すまじ』を。だから不貞を許したあの家も、君の両親も、許すまじって事さ」


「なるほど」


「君が望むなら、籍を抜くよ」


「お願いします」


 即答した。


「分かった」


 ナンド様が頷いた。


「君には、うちの縁戚のジーメンス侯爵家に養子に入ってもらう」


「養子ですか?」


「できれば私と共に公爵家を支えていってほしい」


「…え?」


 しれっと言われたが、飲み込めない。どゆこと!?


「私は、卒業後は次期当主の兄上を補佐する予定だ。学園で成績優秀な君を見付けて、婚約者にと思っていたが、既に婚約者がいたから、諦めていたんだ」


 ナンド様が、私の目の前に跪いた。


「婚約が無くなった今、求婚するしかないだろ?」


「…ありがとう…ございます?」


「図書室で読書している君を、ずっと見ていた」


 知らなかった。


「婚約者に何を言われても、凛として前を向いている君に惹かれた。真面目に勉強している君から目が離せなかった」


 貴族の娘として、感情を悟らせないように表情を変えない努力をしていただけだ。


それでも、こんな風に求婚されるなんて…






 クーロン家もヘンリー家も、キルヒホッフ公爵家に睨まれて、他の貴族達から距離を置かれている。

生活が苦しいらしい。


ま、赤の他人だから、どうなろうと知らないけど。


 ただ、弟のオームが跡を継いだら、ヘンリー家と交流を再開してほしいと、ナンド様にお願いしている。


 勉強をサボるクズな兄を支える為に、真面目に勉強してきたオーム。

時には一緒に領地の事を学んだ。


クズな兄や両親の犠牲になっていたオームには、苦労が報われて幸せになってほしい。




 そう思えるようになったのは、ジーメンス侯爵家の養子に入り、ナンド様と婚約したからだ。


 信じられないくらい、穏やかで幸せな日々。


ナンド様や、領地にいたお兄様はじめ公爵家の方々も、私を大切にしてくれる。

 新しい家族、ジーメンス侯爵家の方々も、私を大切にしてくれる。


 家族とお茶をしたり、食事したり、出掛けたり…という、普通の家族がするような事を初めてした。




 勉強がんばってきて良かった。


前を向いていて良かった。




読んでいただきありがとうございます

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