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「ブス!」と罵ってきた男  作者: 井上さん


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「ブス!」と罵ってきた男

名前を借りました


フィクションです


 私ノアには、小さい頃、初対面で


「ブス!」


 と言われて嫌いになった男がいる。



王宮での、ナンド第3王子の婚約者や側近を探すための、貴族の子ども達が集められたお茶会。


突然目の前に現れた子息が、名乗りもせずに


「ブス!」


 と叫んだのだ。


貴族子息としても、人間としてもあり得ない。


 その後、その子息の家から縁談の申し込みがあったが即お断りした。


 我が家は、その子息一家を許さない。




更に、学園に入学してから、わざわざやってきて、告白してきたけど、嫌いなものは嫌い。


 私は無視し続けた。


だが、その子息はしつこく話し掛けてきた。

何度も話し掛けるなと、子息の家に抗議をしても改善されない。




「愛しの婚約者殿」


 気持ち悪いな。話し掛けるな。あと婚約してない。


こいつと婚約させたら死ぬ!と両親を脅したので、即お断りしてあるのだ。


 それなのに、周りに婚約したと言い回っている。

嫌がらせが過ぎる。


「将来の侯爵の妻になるのだ。最高の栄誉だろ?」


 妻になりません。

そもそも、嫁には行きません。


 この、人間の言葉を理解できない男には、1回ハッキリと言うしかないか。


「婚約してません」


 私が言うと


「照れるなよ。俺の事を好きだろ?」


 と、子息が言った。凄い妄想力だ。


「初対面で『ブス!』と言った男を好きになると思っているなんて、余程頭がお花畑なのね」


 私は、気持ち悪くなった。


「え?」


 子息は、分からない、という顔をした。


「それも忘れたの?最低」


 今度こそ軽蔑した。


「そんな…」


「婚約なんてしてないので、ニ度と話し掛けないでくださる?」


「待ってくれ!」


 子息は手を伸ばしてきた。


「それ以上近付くな!」


 私は叫んだ。気持ち悪いから近付くな。


「…!」


 子息が驚いている。しつこく付き纏ってきて、迷惑してるんだけど?


「妄想で婚約したと思い込んで周りに話を広げたから、慰謝料と損害賠償を請求します!」


 私は子息に言った。


「何故だ!?」


「聞いていなかったの?妄想で婚約したと思い込んで周りに話を広げたからです!貴族の信用取引を何だと思っている?」


「待ってくれ誤解だ!」


「それ以上近付くな!」


 騒ぎを聞き付けた教師達がやって来て、男を羽交い絞めにしてドナドナしていった。




 妄想男を放置した家は、多額の慰謝料と損害賠償を払う羽目になった。


 婚約の申し込みを断られているのに、しつこく付き纏い、婚約したと嘘の噂をばら撒き、何度抗議されても放置していたのだ。




 我が家は、王家との取引もあった為、子息の家は王家から厳重注意を受け、一族の者は5年間王都に入るのを禁止された。


 子息は、生涯領地から出すなと厳命された。


王家に白い目で見られ、王都での社交もできない。没落真っしぐらだ。


親戚達も、連帯責任で王都に入れなくなったので、当主交代の話し合いをしているという。




 国境を守る我が辺境伯家と、王家との結びつきを強化する為、辺境伯家の跡取り娘と第3王子が婚約する予定だった。

 もうすぐある建国記念パーティーで、発表する手筈は整えていた。


 王都と辺境伯領との間の道を整備し、道沿いに大きな商会が出店したり、宿泊施設を作ったり、と大掛かりな計画が進行していた。


 それを邪魔したのだから、許される訳が無い。


辺境伯家も王家も、噂は嘘だと関係各所に弁解して回った。

その時間と労力と手間暇とお金があれば、計画はもっと早く進んだのに…






「やっと君の周りを飛び回る害虫がいなくなった」


 私は後ろから抱きしめられた。


「私の婚約者を奪おうとしたのだから、国家反逆罪にでもすれば良かったかな」


 抱きしめながら、私の本当の婚約者ナンド王子が不穏な事を言った。


「私が辺境伯家の跡取りだと知らなかった時点で、終わってるのよね」


 私はため息をついた。


「辺境伯家の存続の邪魔をした罪で投獄しようか?」


 婚約者は、真顔で言う。本当にやりそうな人なのだ。


「まぁ恐ろしい」


 私は笑って言った。


「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて…と言うだろう」




 私の婚約者であるナンド第3王子は、私が「ブス」と言われた時に


「この子がブスに見えるなんて、お前の目は役立たずだな」


 と庇ってくれたのだ。


「まるで妖精のように可愛らしいのに…」


 跪いて手を取り、手の甲に口付けた。




当時10歳の王子の、側近や婚約者候補を探すためのお茶会。


 そこで、侯爵家嫡男は、ニ度と、第3王子に近付けなくなり、第3王子は辺境伯家令嬢と婚約をすると決まった。


婚約を発表するのは15歳になってからと、この国では決まっている。


幼い頃に婚約しても、気が変わる事があるからだ。

 だから、発表していなかっただけなのに。

ほとんどの貴族が、薄々理解していたのに。


「あれは、元々いなかった者です」


「そうだね。忘れよう」


 存在を無かった者にされた男とその両親は、親戚達から絶縁され平民として領地の隅の小さな家に閉じ込められたが、そんな事はもう知らない。


 赤の他人が、どこで何をしようが関係ない事だ。だから、名前も知らない。




「結婚式の準備をしないとね」


 これからは平穏で幸せな日々が待っているのを示すように、爽やかな風が吹き抜けていった。




私は、ナンド王子と微笑み合った。


読んでいただきありがとうございます

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