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21話

※イラストおよび校閲にAIを使用しております。

「そこまで! 本日の鍛錬はこれまで!」


ラウルの声が練兵場に響き渡る。俺は膝に手をつき、荒い息を吐き出しながら肩を上下させた。


テオドール隊が、この地獄の基礎鍛錬を始めてから一月が経っていた。隊員たちの身体強化魔法の出力は目に見えて向上し、今では全身の様々な部位を器用に強化できるようになってきた。


俺自身も、ようやく最低限の身体強化魔法を扱えるようになりつつあった。


「殿下。本日は初めて脱落することなく鍛錬を完遂できましたね。そろそろ剣術の訓練を始める頃合いかもしれません」


「君の指導の賜物だ、ラウル。通常の練兵課程であれば、ここまで辿り着くのに一年はかかると言うじゃないか。この訓練方式、全軍に広めるべきではないか?」


「ありがたいお言葉です。しかしながら、この鍛錬は魔力量と素質が伴わなければ成立しないのです。かつて守備隊で私の部下たちにも試みさせたのですが、体力を使い切った後に身体強化魔法で立ち上がることすらできず、鍛錬になりませんでした」


「そうか……無茶を強いて兵を潰しては本末転倒だが、才能のありそうな者にはやらせて損はないだろう。軍上層部がこの鍛錬の価値を認めるよう、折を見て働きかけてみるつもりだよ」


俺は汗を拭い、控えていたコレットを連れて自身の執務室へと向かう。


「テオドール様! ついに最後までついていけるようになりましたね! あのお部屋に引きこもっていらしたテオドール様が、士官の皆様と同じ鍛錬をこなされているなんて、私、感動で……」


そう言って、コレットは本当に目元を拭って涙ぐんでいた。


「早く自分の身は自分で守れるようにならないとな。そうすれば、最前線に出たとしてもコレットに心配されることもなくなる」


「またそんなことを! テオドール様は第一王子なのですから、ご自身で接近戦など絶対になさらないでください!」


プリプリと怒り出すコレットの小言をのらりくらりと受け流しながら、俺は司令部の静かな廊下を歩いていった。


執務室の前では、副官に任じたモーリスが俺の帰りを待っていた。


「殿下! 本日もご苦労様にございます!」


彼は以前、俺の独断専行を抑えられなかった責を問われ、司令部中枢での職務を解かれていた。それを見つけて、俺が拾い上げる形で副官に据えたのだ。


「今日も頼むよ、モーリス。さあ、入ってくれ」


俺が執務机の椅子に深く腰かけると、モーリスが調査内容を記した蝋板を差し出してきた。


「殿下のご命令通り、南軍における装備の現状を可能な限り精査してまいりました。平民兵の防具は粗末な革鎧と木製の盾、武器は槍と弓が主体。それすらも数が不足しており、増産による質の低下が破損率を高めるという、典型的な悪循環に陥っております」


俺はモーリスに、軍や領内の情勢調査を日課として命じていたのだった。彼は権威に弱く卑屈な男だが、上からの命令には忠実に、かつ過不足なく答える勤勉さを持ち合わせていた。


「人員も足りなければ装備も貧弱、か。近接武器も槍だけとは。鉄の消費を抑えるには穂先だけで済む槍しかない、ということかな」


「はい。今の国力では鉄製の剣を揃える余裕はございません。もっとも、ゴブリン相手には槍で十分という見方もありますが。一方、貴族士官らは各家で装備を調達するため、余裕のある者は全身金属鎧に長剣と、実に華美な装いですな」


「実戦では後方にいるくせに、装備だけは一流というわけか。まあいい、好都合だ。貴族士官が自前で装備を用意するということは、テオドール隊についても、特製の武具を私費で誂えさせることが可能だということだな?」


「家門の当主が首を縦に振ればの話ですが……殿下の護衛隊は大貴族の子息や中堅貴族の嫡男がほとんどですから、経済的な余力は十分にあるでしょう」


「ならば、これらを用意するよう各家に働きかけてくれ。規格を統一することも忘れるな」


俺が用意していた別の蝋板を見せると、モーリスは目を丸くして絶句した。


「軍馬用の金属鎧……ですか!? このような防具聞いたこともございません。重量で騎馬の機動力が失われるのでは?」


「他国では実用化されていると聞く。重さについては、乗り手である兵士の鎧を軽量な革製にして誤魔化すつもりさ。隊員は身体強化魔法で身を守ればいいが、馬はそうはいかないからな」


「理屈は分かりますが……それに、この斧槍ハルバードとは何です? 見たこともない形状ですが」


「これも他国の武器で、槍の穂先に斧の刃を組み合わせたものらしい。これならば一振りで複数のゴブリンを薙ぎ払うことも、槍と同様に突撃に用いることもできる。そして、高度な身体強化を使う前提の長さ、六メートルで作ってくれ」


「六メートル……! それではまるで巨人の武器ではありませんか……」


「頼んだぞ、モーリス。『これが揃えば貴公らの愛息が戦場で傷つく可能性は劇的に減り、むしろ英雄的な大戦果を挙げる一助となるだろう』、そう伝えて何としても親元の支援を取り付けてくれ」


「は、はあ……殿下の仰せのままに。全力を尽くしてみます……」


(重騎兵やハルバードにも色々と弱点はあるが、ゴブリン相手には非常に有効なはず……少なくともゲームではそうだった。どうか、その通りであってくれよ)


頭を抱えながら退室するモーリスを横目に、俺は内心でそう祈っていた。


「テオドール様、他国の武具と言っていましたが、そのようなことどこでお知りになったのですか?」


「……昔、母上から聞いた話だよ。まさか役に立つ日が来るとは思わなかったけどな」


俺はそう咄嗟に取り繕って、ことなきを得た。


(危ない危ない……ゲーム知識の使い方は気を付けないとな……)

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