石化の魔獣コカトリス①
「ハイドゥーモ・ワーワー・ユーティマスクゥド……!」
「はじめまして、王の命により馳せ参じました私は魔女アマリアマリア・マリア・アマリアマリア。長いのでアマリアとお見知りおきを。偉大なる魔獣コカトリスよ、秘術によりあなたの魂に直接話かけています」
「……我と言の葉を交わそうなどどは奇怪な術を使う魔女よ。魔王の崩御から200余年、支配の解け隠居する我が身に何用だ?」
「あなたが人に友好であり、この森を治める主とお見受けしてお尋ねします。先日、蛇のような尾をした巨大な鳥に村娘が連れ去られたとの目撃情報がありました。あなたはその嫌疑にかけられています。ですが国が制定するあなたの危険度ランクはD。真偽のほどを調査すべく、対話の魔女と呼ばれる私が派遣された次第です」
「バカバカしい。我が人など喰らうと申すか。我は美の探究者、芸術家である。今更人と争う気は無い。魔女に問う、美の本質とは何だ?」
「……美の本質ですか? ちょっとわからないですね」
「愚かな。美の本質とはつまるところ異性に魅力的に映る姿のこと。我は石化した生物をより美しく加工し、それを作品としている」
「確かに巣穴は石像だらけですね」
「例えばこの鳥の像を見よ。実に長く美しい尾羽であろう。この者は群れの中でも尾羽の短い個体であった。それを我が石化し、我が魔力を通した石と泥をもって見事な尾羽を作り上げた」
「はぁー。確かに雌鳥にモテそうな尻尾ですね。でも石ですよね?」
「例えばこの大イノシシ。見事巨大な牙であろう。いかなる獲物も仕留める雄々しさを表現した」
「確かに強くて雌にモテそうです。でも石ですよね?」
「次はこのナイスバディの村娘」
「ちょっとちょっとちょーっと! いるじゃないですか!? 攫っちゃってるじゃないですか村娘!」
「この娘には手を焼いた。貧相な体の隅々にまで肉を盛り付け、まぶたを二重にし、そばかすも丁寧に消した」
「だから石ですよね!? って人間に手をだしちゃってるじゃないですか! なんかもうバインバインですよもう! ダメですよ! 危険度ランク上がって討伐の対象になっちゃいますよ!」
「案ずるな愚かな魔女よ。我が魔眼による石化の術はいつでも解ける」
「え、そうなんですか?」
「我は変わった、魔王の手先となって村ひとつ石化したこともあったが、真の美とはいずれ老いていく一瞬の生の中にあると悟ったのだ」
「じゃあ、この村娘さんは」
「案ずるな愚かな魔女よ。術を解けばこの娘は変貌したバインバインを我に感謝し、男たちの視線をもー独り占めして、良き伴侶を見つけ、たくさんの子をなすだろう」
「……え、バインバインのまま戻せるんですか?」
「左様。我が魔術で作った石と泥は、石化した生物の血となり肉となり、永久の融合を果たし、肉体と共にはぐくみ、そして朽ちていく」
「肉体の同化と加工……。本当ならすごい発見です」
「事実だ。貴様を謀る理由はない」
「……わかりましたけど、とにかくもう人間に手を出しちゃダメですからね」
「承知した。人間に特別なこだわりはない。ほんの戯れよ」
「この娘さんすぐ戻せますか?」
「無論だ」
そう言うとコカトリスは村娘の像をひと睨みした。
すぐさま娘の体から石が剥がれ落ちた。
娘は意識を取り戻し、怯えた様子で地面にうずくまった。
アマリアはスッと肩の力を抜いた。頭まで深々とかぶっていたローブがするりと地面に落ち、その姿が露わになった。
薄手の布を一枚纏った、触れたら折れそうな細くしなやかな肢体だった。
その左腕には、炎に焼かれ、巨大な爪に引き裂かれたような、深く刻まれた痛ましい傷跡があった。
アマリアは脱いだローブを裸の村娘に被せた。
「村までの道は分かりますね。戸惑うでしょうけど命があってよかったです」
村娘は泣きながら何度もうなずき、逃げるようにけもの道を走って行った。
ローブの中で巨大な胸がブルンブルンと揺れた。
「娘よ。これまで何体の魔獣を屠ってきた?」
「3から先は数えてないですね」
「もうちょっと数えろ」
「ではこれで私の仕事も終わりですね。王には無害と報告します。コカトリスさんも前科はついちゃいましたけど討伐されることはないと思いますよ」
「魔女よ。提案がある」
「奇遇ですね。私からもひとつお願いしたいことがあったんですよ」
「どうやら目的は同じらしい。貴様には恩がある、その願いを叶えよう」
「はい」
「その腕の傷を消してやろう」
「私を巨乳にしてください」
「しばし待て、思っていたのと違う」
「いやー恥ずかしんですけど実は悩んでたんですよねー。ほら絵本に出てくる魔女って、ローブを深くかぶってぶつぶつ言ってるのと、ひらひらして露出の高いはしたない格好してるのの二択じゃないですかー? うちのおばあちゃんが勇者のパーティーにもいたことがある有名な人なんですけど、ザ後者って感じで、胸なんてバッサーって開いてもうウィッチっていうかビッチみたいな人なんですけど、銅像とかでもそんな恰好なんで、孫の私にもそうゆうの期待されちゃうんですよねー。あ、腕もやってくれるなら嬉しいです」
「……しかし貴様、いきなりそんな巨乳になったら周りが気付くだろう」
「だいじょーぶですよ。いつもローブを深々かぶって前者やってるんで、むしろ、あれあの人脱いだら意外とすごいぞって話題騒然ですよ」
「……我が言うのもあれだがそんなに巨乳はいいものか? 貴様の肢体は細く野に咲く百合のようだ。先ほどの村娘とは違った美しさがあるとおもうが……」
「あー、それ違うんですよ。細くてモテるのは女子からだけ。憧れちゃうわーなんて。そんなのいらないんですよ! 私はおばあちゃんみたいにヒラヒラのはだけた服着てモテたいんです! ぶっちゃけ遊びたいです! 遊んで遊んで遊んだうえで真実の愛がほしい!」
「お礼したくなくなってきた」
「てゆうか魔女っていうのがそもそもモテないんですよね。貴族は魔女の血をいれたくないからそもそも相手にしてくれないし、騎士団とか城の衛兵は僧侶ばっかいくんですよ。なんでみんなあんなに僧侶好きなの?」
「知らんけど」
「もう教会ごと雷撃で破壊してやりたい。それに比べて魔女なんて結局そのへんの先のない冒険者とくっつくのが関の山じゃないですか」
「貴様も高名な魔女なら貰い手くらいいくらでもあるだろう」
「違うんです。私は遊びたいんです! でも無駄に出世してるから委縮してみんな軽薄に声かけてこないんですよ! しかし巨乳があれば話は別です! 男って単純ですもんね。いやーこの仕事私に回ってきてよかったー」
「まだやるとは言っていないが」
「どうしてですか? 村娘は勝手に巨乳にしておいて、希望してる私は巨乳にしてくれないんですか? なんでですか? 差別ですか? 森ごと焼きますよ?」
「おっかないわ! もういい。我の気が変わる前にどうすればいいか言え」
「はい。私の胸を巨乳にして、あとついでに腕の傷も消してください」
「……心得た」
「はーこれで私もモテになれるんですね。自慢じゃないですけど元々顔はいいですからねー」
「じゃあ石化の魔眼を発動するから、服を脱げ」
「なに言ってるんですか!? 正体を現しましたね変態鳥!」
「脱があるといじれんうがだろ! 特に胸の部分」
「胸をいじる気なんですか!?」
「貴様がやれと言ったからだ!」
「わかってますよー。わかってますけどー。そこは乙女心じゃないですかー。一回嫌がって見せないとそこは乙女として、ね? 安心してください。ちゃんと脱ぎますってー。あ、でも、そのかわり、私が脱いだら『ハッ、うつくしい』とかリアクションしてくださいね」
「いいから脱げ」
「はーい……はい、脱ぎました。あ、これあれですね。森の中で全裸とか、何かに目覚めそうですよこれは」
「乙女心はどうした。まあいい我の目を見よ」
「はい……って、さっそく足の指が硬くなってきましたよ」
「貴様は魔力高い、しばらく時間がかかるぞ」
「てゆうかこれ、胸だけ石化できないんですか?」
「石化の魔眼は足元から作用する。そうゆうものだ。というか貴様いま腕のこと忘れてなかったか?」
「まあまあ。あ、くるぶしまで石になりましたね」
「今更ではあるが、貴様、我に石化されて怖くはないのか? 身動き出来なくなるのだぞ」
「大丈夫です。その気になれば頭まで石になってても自力で解除できます。あー、でそうだ、ひとつ疑問があるんですけどいいですか?」
「なんだ?」
「胸を魔力を練った泥で盛るんですよね? 乳首ってどうなるんですか?」
「どうやら乙女心はないようだな。工程は胸の上に泥を塗り、そこから我が爪で乳首を造形する。古い乳首は肉体に溶けてなくなるだろう」
「ちょ、ちょ、ちょっと困りますよ。私、乳首には自信があるんですよ。乳首だけそのまま使えないですか?」
「何を言う、我が造形の力をもってすれば、その乳にもっとも合った美しい乳首が仕上がるだろう」
「いやいやいや、こういっちゃなんですがコカトリスさんって結構体が大きいじゃないですか。私の二倍くらいありますよ。正直そんな大きな方に、そんな細かい造形ができるのかなって」
「何を言う、我は芸術において比類なき才をもっておる。無礼は許さんぞ」
「えー、でもー、あ、こうゆうのはどうです? 石になった乳首だけをあらかじめ切り取っておいて胸を盛った後に張り付ける。そうゆうことって可能ですか?」
「可能だが、我が作った方が美しい」
「出来るんでしたらやってくださいよー。そっちの方が簡単じゃないですかー。クライアントの要望ですよ」
「わかったやかましい。言う通りにするから魔眼に集中させろ」
「お願いします。あ、でも、向きに注意してくださいね。ちゃんと上下左右間違えないように、そのまま貼り付けてくださいね」
「……まだ膝のあたりか。先ほども言ったが集中する、少し黙れ」
「はーい」
……。
「……好きな娘とかいる?」
「黙れ!」
……。




