試験
受付嬢のカレンさんに着いてやって来たのは教室のような場所だった。
机と椅子が一つずつあり、部屋の奥には教壇のようなものがある。
「まずは、筆記試験を受けてもらいます。制限時間は三十分の簡単なものなので、緊張しないで取り組んでね」
教壇に立ったカレンさんがそう言う。
筆記試験とはいっても、大したものでは無かった。制限時間が三十分という事からも分かる通り、問題数も少ないし、聞かれる問題も一般常識の範疇だ。それが守れない奴がいるからこんな試験をやっているんだろうけど。それよりも肝になるのは魔物や薬草に関しての問題だろう。冒険者としてやっていくなら、魔物との戦闘はもちろん薬草などの採取もこなす必要がある。
そういった基礎的な知識が無い奴はここで落ちる、という手筈だ。魔物の情報を知らずに依頼を受けるなんて、死にに行くのと同義。ギルド側も余計な死体は増やしたくないだろうし、これは良い手だと思う。
まあさっき言ったように一般常識の範疇なので、難なく合格した。むしろ満点まで叩き出して見せた。
「満点!完璧ね。このギルドだと二人目か〜」
「二人目?俺の他にも満点を取った人がいるんですか?」
別に俺以外が満点を取れないと思っているわけではないが、冒険者というのは基本脳筋が多い。どんな人が筆記試験で満点を取ったのか気になったのだ。
「一週間前くらいだったかしら?女性だったんだけど、筆記試験も満点、この後やる実技試験でも高得点を出して凄かったのよ」
「へえ......ならかなり強かったんですね」
「それはもう!でもこれ以上は情報漏洩になっちゃうから....次、いきましょうか?」
筆記でも満点、実技でも高得点、か。気にならないといえば嘘になる。冒険者としてやっていくつもりなので、この王都で活動していればいつかは会う事もあるだろう。
今は試験中だし、こちらに集中していたい。
場所を変えて、俺達がいるのは修練場。
カレンさんが言っていた通り、次の試験は実技だ。冒険者を目指す受験者が、規定以上の強さを有しているかを判断するために行われる。
俺の訓練を担当するのは......あの男か?
修練場内を見渡した所、一番強いのは奥にいる男だ。
「アルドルトさーん!」
案の定、カレンさんが呼びかけたのは奥の男だった。浅黒い肌に、筋骨隆々という言葉が似合う巨漢。身体に刻まれた傷は、強者の風格というものを醸し出すには充分な代物だ。
「お?カレンちゃんじゃねえか。どうしたんだ?」
修練場の端にいるというのに大した声を張り上げた様子もなくここまで声が届く。
「登録試験の実技をお願いします!」
「実技......って、もしかしてそこの坊主か?」
アルドルトというオッサンは、俺を指差して首を傾げる。俺みたいな小さな子供が試験を受ける、というのがピンと来ていないらしい。
「はい、よろしくお願いしますね」
なので俺から声をかけることにした。
「おお、こんな小さな子がなあ......よし、いいぜ!速く戦ろう!」
う〜む、どことない戦闘狂感。相手が子供だと聞いて驚いていても、決して侮ってはこなかった。ただの人格者か、それとも実力者か。少し、やる気が出てきたな。
「武器はこの中から好きなのを選んでくれや!生憎子供用のは無いんだが.....」
「大丈夫です、これを使うので」
俺が手に取ったのは木で出来たロングソード。アルドルトは木で出来た大剣を背負っている。
「そうか、ならルール説明な!降参、もしくは戦闘不能に陥ったときに試合終了。相手を殺すような行為はもちろん禁止だ!」
だから木剣を使うのか。真剣だと確かに死者が出る可能性が高い。試験で死人を出しては元も子もないからな。
ホノカは観客席?に座ってこちらを見ている。無様な姿は見せられない。
「準備はいいか?」
「はい、いつでもどうぞ」
修練場のど真ん中で、軽く剣を構える。アルドルトも肩から大剣を下ろして切先を俺に向けた。
「ではーー始め!」
カレンさんの号令とともに、俺はその場を駆け出す。一息にアルドルトに肉薄すると、その胴体目掛けて剣を振るった。俺のスピードが予想外だったのか、目を見開きながらも完璧にガードするアルドルト。
辺りには、およそ木剣同士とは思えないような音が響く。お互いに剣を魔力で強化しているので、もはや攻撃が当たればただでは済まない。
力勝負では敵わないので、すぐに剣を返して連続で攻撃を繰り出す。大剣の弱点は超至近距離の戦いでの対応の難しさにある。大きく、太い大剣を振り回すにはある程度のスペースが必要になるが、それを埋めるように動き態勢を立て直す隙を作らせないことを意識して動く。
だが、流石は試験管に選ばれるほどの冒険者。俺の剣を大剣の腹で受け、力任せにそれを押し出す。ウェイトの無い俺は、その力をモロに受けて宙を飛んだ。綺麗に地面に着地すると、眼前にはアルドルトの姿が。
「次は俺から行かせて貰うぞ!!」
振りかぶった大剣が、俺の目の前を通り過ぎていく。リンボーダンスの容量で何とか避けたが、次の攻撃は当たるーー
予想通り、返した剣が俺の横腹に突き刺さった。ギリギリで剣を滑り込ませる事が出来たが、今ので骨が折れたかもしれない。それでも続行だ、借りは返さなければ。
痛む脇腹を抑えつつ、一息ついて再び剣を構える。最初とは違い、全身を使った構えだ。カレンさんがもういいと言っているのが聞こえるが、それを無視して俺達は向かい合う。
「ハハハ!骨が折れたのに続行とは....お前みたいな奴は初めてだぞ?」
「すいませんけど負けるわけにはいかないので。もう少し付き合ってください」
アルドルトさんのランクはおよそB上位。彼に勝てないほど俺は弱くない。それを、ここで証明する。
魔力を解放し、周囲に魔法陣を展開。その数は五個、すべて火属性魔法だ。それらが射出されるのと同時に地面を蹴り、初撃の再現を行う。違うのは魔法がある、という事。魔法に対応しようとすれば俺の剣を食らい、剣に対処すれば魔法を食らう。
どちらを取るのか、そんな考えは甘かった。
アルドルトが地面に大剣を突き刺すと、彼の周囲に金色の盾が出現する。魔法は全てその盾に防がれ、本命の剣に対応された。その上剣も金の光を帯びており、スキルの力が乗せられていることが分かる。
スキル【聖騎士】
光の盾と剣を合わせ持つ、まさに攻防一体のスキル。盾の強度は高く、また剣の切れ味も強化される。こんなレアなスキルの持ち主がいるとは。【聖騎士】スキルの持ち主はほとんど聖王国にいると思っていたんだが、これは想定外だ。
咄嗟に【斬鉄剣】を発動させてそれを迎え撃ち、鍔迫り合いをしながら更に魔法を展開していく。
火属性魔法《炎ノ槍》
俺が使える魔法の中で、最大火力を出せるものの一つ。それを四つアルドルトに向かって発動させるも、【聖騎士】スキルによる防壁を貫くことは出来ていない。だが、そもそも防壁を壊すことが目的ではない。《炎ノ槍》の真骨頂は攻撃ではなく、火力にある。
魔力を更に注ぎ込むことで、爆発力を増した《炎ノ槍》は防壁ごとアルドルトを後方に押し出した。足が浮けば後はこちらのものだ。もう一度魔法を使い、アルドルトを吹き飛ばす。
アルドルトは猛スピードで修練場に突っ込むが、まだ戦闘不能に陥ってはいない。俺は、そこに向かって走り出した。
破壊された壁の破片が飛び散り、その影響で舞った粉塵が収まるとやっとその様子が見られるようになる。
「..........俺の勝ちですね」
「ああ、完敗だ」
そこにあったのはアルドルトの喉に剣を突きつける俺の姿。アルドルトが立ち上がる前に接近し、一瞬の攻防の末に勝ち取った勝利。
スキルを使わなくても俺は弱くない。
そのことを実感できる、いい戦いだった。




