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44話 ネルの母親②

◆ネルside


 黒竜が火炎のブレスを吐く。

お父様も火炎のブレスを吐く。


 竜族同士では火炎のブレスではウロコ一つ傷つかない。

竜族には火炎のブレスに対する耐久性がある。

ただの前哨戦だ。



『私もあれから力をつけました。古竜だからと言って、手加減していると痛い目をみますよ』


『面白い。我と対峙するか』



 そう言って、お父様はニヤリと笑って、大空を西へと滑空する。

お父様の考えがわかる……お父様は王都の近くで戦うのを避けている。

人族に迷惑がかからないように黒竜を魔巣の森へと引き込もうとしている。



『逃がしませんわよ。今度は古竜あなたを洞窟から追い出してやるわ』


『やれるものなら、やってみせろ』



 黒竜はお父様と空中で並ぶと、お父様の首めがけて大口を開けて牙を立てる。

お父様も黒竜の首へ牙を立てる。


 大空を飛びながら、2頭の竜が戦いを繰り広げる。

しかし小竜のネルには戦う術がない。



『お父様頑張ってー!』


『これぐらいでは負けぬ』



 大空を飛びながら2頭の竜は互いに噛み合い、牙を突き刺し合い、鋭い爪で竜のウロコをはぎ取っていく。

体格はお父様のほうが大きいが、俊敏さでは黒竜のほうが少し早い。


 黒竜が後ろ脚でお父様の腹を蹴り、爪でウロコを削ぐ。



『グア――』



 お父様が力負けした。

そんなはずがない……古竜は竜族の中でも最強クラスのはず。

しかし、お父様は段々と黒竜に圧されている。


 魔巣の森の上に着いてから、2頭の竜の戦いは壮絶さを増していく。

2頭の竜は互いに噛みつき合い、牙を立て、するどい爪を振るう。


 黒竜の首から、お父様の首からも血が噴き出している。

そしてお父様の口から血が漏れ出している。

内臓を怪我したのかもしれない。

だから力が出せないのかも……


 ネルは急いで2頭の竜が戦っている真ん中に体を入れて2頭を止める。



『殺し合うことが目的ではないはず。これ以上はやりすぎです』



 黒竜が真紅の瞳でネルを睨む。



『何をいう。戦いとは命の削り合い。命を奪った者が勝者なのだ。竜族の本能を忘れたか』


『でも……昔、お父様はお母様を洞窟から追い出しただけで、命まで奪いませんでした。その心がわからないのですか?』


『それは、この古竜が甘いだけのこと。竜同士の戦いとは命がけでするものだ』



 ネルはそれを聞いて悲しい気持ちになった。

竜族とは人族よりも知性のある尊い存在だと今まで思ってきた。

しかし、お父様以外の竜は野生に近く、知性に低い。



『お父様、少しの間、私が足止めをします。洞窟へ戻って傷を癒してきてください』


『すまぬ……』



 ネルと黒竜との戦いが始まった。




◆玲side




 ラルスが傷だらけで洞窟へと戻ってきた。

ネルがいない。


 ラルスは洞窟の奥にある竜のウロコをかじって、自分の傷を癒している。

そして無傷になると、再び洞窟を出ようとした。



「どうなっているんだ? 何があったんだ?」


『昔、我と一緒に洞窟で暮らしていた黒竜が舞い戻ったようだ。ネルを奪い返そうとしている』



 昔、ラルスと一緒に暮らしていた……

ネルを奪い返しに来た……

ということは……ネルのお母さんじゃないか。



「なぜラルスとネルのお母さんが戦っているんだ? ネルを奪い返すとはどういう意味だ?」


『子竜は母竜に育てられる。しかし我が母竜である黒竜を領地から追い出した。卵がかえって幼竜から子竜になったことを本能でわかったのだろう。子竜となったネルを迎えに来たのだ』



 卵の時は放置しておいて、子竜になってから母竜を一緒に暮らすのか。

竜の家族とはおかしな育て方をするもんだ。

しかしネルを渡すわけにはいかない。



「ネルを渡したくない。俺達にできることはないか?」


『我が与えた魔法を封じているネックレスを、我にかえしてくれ。あれは我の力でもある』



 玲はポケットに入れている2つのネックレスをラルスの口の中へ放り込む。

そして里緒菜は首からネックレスを外して、ラルスの口の中へ入れる。


 ラルスはそれを飲み込むと全身が真紅に輝く。



『それではネルを救いに行ってくる。お主達はそこで待っておれ』




◆ネルside




 やはり黒竜は強い。

手加減されていても、ウロコは剥げ落ち、全身に無数の傷が刻まれる。



『やめておけ……母親に手をあげるとは悪い子。私が一から教育してあげる』


『そんな教育いらない。私には玲パパや亜美ママもいる。だからいらない』


『一体、誰のことを言っている?』



 わからなくて当たり前だ。

お母様の大嫌いな人族が、私のパパでありママなんだから。



『竜の怪我はすぐに治る。翼を片方もぎ取って、空を飛べないようにしてやる』



 黒竜は小さなネルに体をぶつけ、鋭い前脚の爪で翼を斬り裂こうとする。

その瞬間に 猛炎のブレスが黒竜を攻撃する。


 黒竜のウロコが猛火のブレスによって溶かされる。



『ギャァ――!』


『ネルよ。よく頑張った。我は舞い戻った。そして以前の力を取り戻したぞ。これで黒竜、お前には負けぬ』



 ネルはフラフラと大空を後退して、古竜の戦いが見える場所まで後退する。

お父様を一人にするわけにはいかない。


 お父様は猛火のブレスを吐いて、黒竜を苦しめる。

そして体当たりをして、黒竜に爪を立て、首に牙をくい込ませる。



『私が悪かった。もう2度とあなたの前には姿を現さない。子竜のことも諦める。だから命だけは助けてください』


『ならぬ。1度は命を助けてやった。2度目はない』



 お父様の目を見ると真紅に怒り狂っている。

このままでは本当に黒竜を殺してしまう。



『お父様、ダメです。殺してはダメです。黒竜を殺してはダメです』


『ネル……』


『お父様がそんなことをすれば、玲パパや亜美ママが悲しみます。だからやめてください』



 お父様は黒竜の首に牙を立てたまま、しばらく考えていたが、やがて黒竜を離した。



『今回はこれで許してやる。自分の力に自惚れるな。我は古竜。竜族の中の王だ。次に会えば殺す』



黒竜は何言わずに項垂れたまま北の方角へ飛び去っていった。



『さあ、ネル帰ろう。玲や亜美もネルのことを心配している。傷も早く治す必要がある』


『はい……お父様』




◆玲side




 ラルスとネルが洞窟へ戻ってきた。

ネルはずいぶんと傷ついていたが、洞窟の奥にある竜のウロコをかじって、すぐに傷は完治した。



『今回のことはすまなかった。我が昔、黒竜に態度を甘くしたのが間違いの元だった』


「そんなことはないさ。ラルスがラルスらしかっただけだよ。別に悪いことじゃないさ」



 ラルスは人族にも優しい。

そして竜族にも優しかった。

ただそれだけのことだ。



『今回のことで魔法を封印していたネックレスが失われた。玲達を元の世界へ戻すことはできるが、2度とこの世界には入ってはこれぬぞ』


「別にこの世界に未練があるわけじゃない。色々な思い出はあるけど、それは思い出のままでいい」


『そうか……それでは皆で戻るとするか』



 そう言ってラルスは口の中で何やら呪文を唱える。

すると足元がグラつき、地震が起きた時のように洞窟全体が揺れる。

そして意識を失って倒れた。







 起きると玲と亜美は部屋のベッドで一緒に寝ていた。

人化したネルがダイニングの扉を開けて中へ入ってくる。



「今回はお父様と私のせいで、玲パパにも亜美ママにも心配かけちゃってゴメンなさい」


「そんなことはいいんだ。ネルは俺達の子供だからな」


「玲パパ――!」



 ネルは玲に抱き着いて、大粒の涙を流す。

そして玲はネルを抱きしめて、背中を優しくなでる。



「終わったんだよ。終わったんだ。悪い夢は終わったんだよ」



 亜美も起きてきて、2人でネルを抱きしめる。

ネルは玲と亜美に抱かれて、気が済むまで泣いて、そのまま眠ってしまった。

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