31話 瑠香の嬉し涙
1週間後に引っ越し業者が来て、玲の荷物を全て運んでいく。
そして玲の部屋はネルの個人部屋となった。
玲が阿佐ヶ谷の部屋の鍵をもらうまでの間は引っ越し業者の倉庫に荷物は置いてもらえる。
「瑠香、ネルのこと頼んだよ。何かあったらスマホで連絡してくれ」
「うん……ネルのことは任せて。もう姉妹のようなものだから」
瑠香とネルは姉妹のように仲が良い。
ネルが瑠香姉ちゃんと懐いていくので、瑠香もついつい甘い顔になってしまう。
ネルは本当に甘え上手だなと思う。
「PCは我がもらっておくぞ。あのPCは魔法を付与したモノだからな。我はあのPCがないと困るのだ」
「わかってるよ。新しいPCもラルスに買ってもらったし、そのPCはラルスにあげるよ」
「うむ……後、数カ月もしないうちに我も都内に住むことになろう。その時はよろしくな」
ラルスは為替のFXにハマっている。魔法を駆使して未来予想をしているので快調に勝っているようだ。
あまり褒められた方法ではないが、この世界では何でも資金は必要だ。
別に誰に迷惑をかけているわけでもない。
これぐらいのことは許してもいいだろう。
全ての荷物が取り除かれてた玲の部屋に亜美の部屋と通じている扉だけが残る。
不思議そうに瑠香が扉を見ている。
そういえば瑠香にこの扉のことを説明するのを忘れていた。
「玲お兄ちゃん……この扉は何? そんな所に扉なんてあった?」
亜美の部屋と通じているというと、瑠香は大喜びするかもしれない。
しかし、玲がいなくなると使われなくなってしまう。
ネルがいるから残しておいたほうがいいのか。
「ねえ……玲兄ちゃん、扉の説明してよ」
瑠香が迫ってくる。
これはもう説明するしかない。
「実は……この扉は亜美の部屋と通じているんだ」
「え!亜美ちゃんの部屋と……キャ――! どうして私に隠してたの? 私、亜美ちゃんに会いたい」
そういうと思った。
だから隠していたんだよ。
隠していたというより、説明するのを忘れていただけだが。
「私……亜美ちゃんに会いたい……玲兄ちゃん、会わせてよ」
今は扉には何のメモ書きも貼られていない。たぶん……今なら亜美も部屋にいるかもしれない。
この扉は危険なので、玲からは開けないように心がけている。
亜美の下着姿を見てから1度も玲からは開けたことがない。
「……開けてみるか」
「……うん。お願いします」
瑠香の願いを叶えるため、扉を少し開けて、向こうの様子を見ようとする。
すると亜美と里緒菜が下着姿で着替え中だった。
亜美と里緒菜のモデル級の下着姿が目に映る。
「キャ――!」
「ウワァ――!失礼しました!」
玲は慌てて扉を閉める。
しばらくすると、顔を真っ赤に染めた亜美と里緒菜が扉を開けて、玲の部屋へ入ってきた。
「急に扉を開けないでって言ったわよね」
「……メモ紙が貼られていなかったから大丈夫だと思ったんだ……ゴメン」
「あ……そういえばメモ紙を貼るのを忘れてた……」
里緒菜が顔を真っ赤に染める。
自分のミスに気付いたようだ。
「それでもノックぐらいはしてちょうだいよ。ノックしてくれれば防ぎようはあったわ」
「おっしゃる通りです。見たのは俺だから……俺が悪い……ゴメン」
「私達のミスもあるし……里緒菜、玲のことを許してあげて」
亜美が玲を庇ってくれる。
その心遣いが嬉しい。
玲の背中で服を引っ張っている瑠香がいる。
瑠香の目は涙が溜まっていて、黙ったまま亜美と里緒菜を見ている。
そうだ……亜美と里緒菜に瑠香のことを紹介しないと。
玲は背中に隠れている瑠香を前に連れ出して、亜美と里緒菜の前に立たせる。
「2人には紹介がまだだったんだけど、俺の妹で瑠香。亜美と里緒菜の大ファンなんだ。仲良くしてやってくれ」
それを聞いて、亜美と里緒菜は瑠香に注目する。
すると瑠香がいきなり目から大粒の涙を流して泣きだした。
「本物の亜美ちゃんと里緒菜ちゃんがいるよ……スゴイ! 感動して何も言えない」
いつもなら「キャ――亜美ちゃん、里緒菜ちゃん」と騒いでいる瑠香が、本物を前にして感動しすぎて固まっている。
「瑠香ちゃん……初めまして亜美です。『スピーカーJacks』の大ファンでいてくれてありがとう」
「初めまして里緒菜でーす。『スピーカーJacks』の大ファンなんだって。すごく嬉しい。ありがとう」
「玲兄ちゃん……亜美ちゃんと里緒菜ちゃんが私に話しかけてくれてるよ……どうしよう……」
だから向こうの世界で亜美と里緒菜とは友達だと言っていただろう。
瑠香にサインをもらってきたこともあっただろう。
亜美が少ししゃがんで瑠香と同じ目線になって、瑠香の髪をなでる。
里緒菜が瑠香の手を握って握手をする。
瑠香はどうしていいのかわからくなったらしく、里緒菜にしがみついて泣いている。
「2人の大ファンでしゅ。握手してもらって……髪をなでてもらって大感激でしゅ」
里緒菜は優しく瑠香の涙をハンカチで拭いている。
それだけでも瑠香にとっては大感激ものだろう。
「これからは瑠香ちゃんも玲と一緒でお友達ね……よろしく」
ラルスは腕を組んで扉を見て考え込んでいる。
これで扉を外すことができなくなったとでも考えているのだろう。
亜美と瑠香さえ良ければ扉はそのままでも良いのでは。
ネルもいることだし、亜美も里緒菜もネルと会いたいだろう。
その日から亜美と里緒菜は妹の瑠香とも友達になった。




