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20話 呪いは怖い

 さて、クラスに編入したということは、もちろんクラスの一員になるということだ。

 つまりユルルは、体育祭に参加するということになる。

 まあ、それが最初の目的だったのだから当然だけれど。

 しかしまさにその体育祭に関して、ユルルが編入してきたことで早速予期せぬ問題が起きていた。


「春風さんはどうしよっか……」


 うちのクラスは元々、男女が各十五人ずつで三十人。

 で、ダンスのペアは男子と女子が一人ずつで一組。

 つまり、ユルルと組む相手がいないのだ。


「うぅ……」


 どうすればいいかわからず、立ち尽くすユルル。

 ハァ、仕方ないな。


「ユルル、こっちに入れ。俺たちのところは三人でやろう」


 さすがに今日編入してきたばかりの美少女に対しては、男女関係なく気おくれしてしまっているようだ。

 それも仕方のない話だろう、彼らを責めることはできない。

 むしろここは、いとこ(設定上)の俺とユルルとクラスで唯一ユルルと張り合えるくらいの美少女である佐久さんのペアがユルルを引き受けるのが自然な流れ……だと思う。そんな気がする。

 いつまでもユルルを困らせておくのも可愛そうだし、速いところ引き受けてしまうのがいいだろう。

 佐久さんには確認をとってないけど、佐久さんなら絶対に許してくれるはずだ。だって佐久さんだもん。

 理由はそれだけで充分。これが佐久さんの凄さだ。


「あ、じゃあ三人でも変に悪目立ちしないような振付俺たちで考えとくな」

「ありがとう」


 さすが体育委員、輝かんばかりの笑顔。

 そうか、三人組だと同じ振付できないもんな。

 そんなこと全然考えてなかった。

 ……体育委員の二人には迷惑かけちゃうなぁ。


「ご、ごめんね、俺たちのためにわざわざ」

「ううん、いいよいいよ。俺たちも楽しくてやってるから」


 体育委員様! 懐の深さが聖人じみてらっしゃる!

 なにこの出来た人たち、何年精神修業すればそんな慈悲深くなれるの?

 俺には多分何年かかっても無理だよ。

 ……この恩は、男女別リレーで返そう。

 体育祭の借りは体育祭で返す。それが一番だよな。

 うん、頑張ろう、リレー。


「ご、ごめんなさいアイノさん。急に私が混ざることになってしまって」

「ううん、全然。二人より三人の方が楽しいもん。だから、ユルルちゃんはなんにも気にしなくていいんだよ?」


 思った通り、佐久さんは気にしていないようだ。

 あれだな、多分異世界に生まれてたら佐久さんは聖女としてたくさんの人を癒してたんだろうな。そんな気がする。癒されたい。


「は、はい……。ミナトさんも、ごめんなさい。二人きりの時間を邪魔してしまって」


 ユルルはユルルで、俺たちのペアに横入りの様になってしまったことを気にしているようで、申し訳なさそうにしゅんとしている。

 おいおいユルル。せっかく編入したのに、そんな顔してたんじゃ楽しくないだろ?

 まったく……ちょっと言葉をかけてやるか。


「いやいや、むしろユルルが他の人と踊ることの方が耐えられないよ」

「ミナトさん……っ!」

「ユルルの腕力で怪我しちゃう可能性を考えると、やっぱり俺が躍るしかないよね」

「ミナトさん!? ひ、酷いです、私のことそんなふうに思ってたんですね……!」


 俺がニコリと笑いかけると、ユルルはむむむと眉をしかめた。

 あれ、なんで?

 困惑する俺に、佐久さんが助け舟を出してくれる。


「ユルルちゃん、湊くんが言いたいのは、俺相手なら遠慮しなくてから目いっぱい楽しんでくれってことだと思うよ。ね、湊くん?」

「え? ああ、そうだけど……言い方間違えた?」


 最初からそのつもりで喋ってたんだけど、どうやら上手く伝わってなかったみたいだ。

 なんで怒り出したのかと思って驚いたよ。俺の伝え方が悪かったのね。


「ミナトさんっっ……!」


 感極まったユルルは俺に抱き着いてくる。

 待って、首締まってないこれ?

 あれぇ、息がすえないぞぉ? おっかしいなぁ? ……マジですえない、マジで!


「ゆ、ユルル、死ぬ、死ぬぅ……!」

「あっ! すみません、つい!」

「力加減気を付けてマジで! 危うく召されちゃうところだったよ!」


 華奢な見た目に騙されるけど、ユルルは死神だ。

 普通の人間では対抗できないほどの物凄い力をその細い体躯に秘めているのである。


 まあ命の問題は、とりあえず無事だったからいいとして。

 さて、困ったことになった。

 先ほどのユルルの抱擁。

 それ自体は部屋でもごく稀にしてくることなのだが……ここは学校。

 不純異性交遊を固く禁じられた場だ。

 男女で手を繋いだだけでもギルティ。そんな場で、抱擁なぞをしたらどうなるか。


「おいおい、いとこってあんな感じに抱き着くもんなのか? 神様、俺にいとこをくれ」

「羨ましいぞおい。ずるいぞずるいぞ」

「春風湊……許すまじ……! 呪い呪い呪い呪い呪い」


 当然こうなる。

 いや、ちょっと待って。

 最後の一人の反応は全然普通じゃないな。怖すぎるなあれ。

 クラスメイトに呪いに手を出してるやつがいるんですけど、誰かなんとかしてくれませんか。

 知恵袋とかに書きこんだら誰か良い解決法教えてくれたりするかな。


「一応今の二人についての記憶だけ消しといたよ」


 佐久さんが言う。

 言葉の通り、妬み嫉みも呪いの言葉も全て聞こえてこなくなっていた。


「あ、ありがとうございますアイノさん! 何から何まで」

「どういたしまして。じゃあユルルちゃん、湊くん。三人で踊りの練習しよっか?」


 そう優しく微笑む佐久さん。

 結構容赦なくバンバン記憶消しに行くんだね。

 ここにきてその微笑がちょっと恐ろしく感じてきたよ。

 ……でも、ちょっと怖いところがあるくらいの方が、逆に惹きつけられるみたいなとこあるよね。

 というわけで、俺たち三人は仲良くダンスの練習を始めましたとさ。

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