19話 登校初日
そして、翌日。
「いやー、今日から学校ですね、ミナトさん!」
「うん、そうだね」
ユルルがテンションが高いのには理由がある。
今日がユルルの登校初日なのだ。
「でも、本当になんとかなってるの? 意気揚々と登校したのに校門前で捕まる、みたいなことにはならない?」
「私の力を信じられないんですか? こう見えても私、冥界でも屈指のエリートなんですよ?」
「それがどうにも嘘っぽいんだよなあ……」
「なんでですか、信じてくださいよぉ!」
だってユルルの中にエリートっぽさが欠片も感じられないんだもん。
むしろ落ちこぼれて現世に左遷されたって言われた方が納得できるというか……。
いや、これは言ったら本気で傷ついちゃいそうだから言わないけどね。
そういうわけで、俺とユルルは朝食を摂り終え、学校へと向かうことになる。
「ってユルル、お前まだ死神の服じゃんか」
「はい、その通りですミナトさん」
いや、その通りですじゃなくて。
早く着替えないと初日から遅刻するぞ?
「というわけで行きますよ、死神流早着替えの術!」
と、ユルルの衣服が瞬時に学校指定の物へと変わる。
白いシャツにプリッツスカートを履いたユルルは裾をちょんと持ちながら俺に制服を見せてきた。
「へへんっ。どうですか、似合ってますか?」
「ああ、似合ってる。……正直びっくりするくらい」
白髪だからなんかコスプレ感でるんじゃないかとか思ってたけど、全然そんなことなかった。
美少女は何でも着こなせるって本当だったんだな。
こんな子が学校にいたら楽しいだろうなぁ。
俺はポンコツ具合を知ってるからあれだけど、何も知らなきゃ絶対恋してたね。間違いないね。
だって今でもちょっとドキドキしちゃってるもん。
「い、いやー、照れますねぇ」
「あ、しかも今日は失敗しなかったじゃんか。成長したんだな」
いつもは失敗して女の子として見えちゃいけないものとか見えちゃってたのに、今日は完璧に早着替えに成功している。
見上げた進歩じゃないか。
そう褒めると、ユルルは照れくさそうに頬を掻く。
「えへへ、入念に準備しましたからね、一時間くらい!」
それもう早着替えでも何でもなくね?
そして俺の懸念も外れ、書類は無事に改竄されていたようで、ユルルは無事に編入することができた。無事に改竄できたって、完全に犯罪臭がするよね。というか事実犯罪だよね。
……まあ、日本の法律じゃ死神は罪に問えないだろ。多分。
「春風ユルルです。ミナトさんとはいとこなので、仲良くしてください」
朝のホームルームでユルルがそう挨拶した途端、凄まじい嫉妬の視線が俺を貫く。
妬み嫉みが漏れてる漏れてる! 男子高校生の悪いとこ出てますよ!
いや、気持ちは分かるけどね?
でもそういう時は、その感情を隠してフレンドリーに近寄ってきた方が結果的には上手くいくと思うわけですよ僕は。
だって見たことあるか? すぐに妬み嫉みしてる恋愛漫画の主人公。
……え、なに? 漫画なんて当てにならない?
そんなこと言われたって仕方ないじゃん、実体験で恋愛なんてしたことないんだから! 漫画で語るしかないでしょ!
まあそれはともかく、同棲している自然な理由として俺とユルルはいとこ同士ということになった。
前に佐久さん相手に関係性を誤魔化そうとしたときに使った手だけど、悪くないしね。
ちなみに書類関係はこちらもユルルが改竄してくれたので、現状書類上では俺とユルルはマジいとこです。パねえぜ死神。
「よ、よろしくお願いしますっ」と緊張気味に挨拶を終えたユルルを、クラスの温かい拍手がつつむ。何だかんだいってクラスメイトも良い人たちばっかりだ。
多分このクラスで一番ひねくれてるのは俺だと思う。自分でもそう思うし、他の人もそう思っているだろう。悲しいね。涙がちょちょぎれますよ本当。
「ちなみに、ユルルさんは元々どこに住んでたのかな?」
先生がユルルのプライベートを少し掘り下げようと、ユルルに質問してきた。
フッ、ぬるいな先生! そのあたりはすでに話し合い済みなんだよぉ!
さあ言ってやれユルル!
「はい、冥界から来ました!」
「ユルルーーッ!」
違うでしょ、ロシアでしょ!?
佐久さんと三人で話し合ってそう決めたでしょ!?
「……どうしましたか、春風くん。急に大声出して」
「あ、な、なんでもないです。す、すみません……」
おずおずと座る俺。
なんか俺がいきなり奇声上げたマジやべえヤツみたいになった。
解せぬ……。
「大丈夫だよ、湊くん」
「え?」
ふと横を見ると、佐久さんが口元に手を当てて小声で耳打ちしてきていた。
なにその仕草。女子力天元突破かよ。
「今のユルルちゃんの答えと、湊くんが叫んだこと、今どっちも皆の記憶から消しといたから」
そう言いながら、ウィンクする佐久さん。
たしかに、もうそのことについては誰も言及していない。
再度先生に同じ質問をされたユルルは戸惑いながらも「ろ、ロシアです」と答えていた。
「……ありがと、佐久さん」
こんな簡単に記憶が操作できるのはちょっと怖いけど、でも助けられたのは事実だ。
佐久さんには感謝しなきゃな。
あとユルル、お前はあとでお説教!
教壇の前に立つユルルを睨むと、思いが伝わったのか、ユルルは「それだけは勘弁してくださいっ」って顔をした。駄目です、お母さん許しませんからね!




