・お風呂は裸の付き合い
前作の関連小説。
イエィ、という事でやって来ました。
やって参りました。
11月26日。
訳して《イイ風呂の日。》
「おい、衣笠、何そこでボーっと突っ立ってんだ。早く荷物卸せ。」
「そうよ、ゆに子チャン。みんなはもう旅館に入ってチェックインしちゃってるのよ?急ぎなさい?」
どどん、と如何にも華やかに聳え立つ高級ホテルではなく、厳粛たる雰囲気を纏う日本家屋的旅館を、いつもより高揚とした気分で見つめていた私に水を差したのは、誰であろう神無月 雨袮こと、不良教師と、同じくある意味問題人とも言える、わが校の保険養護教員こと、天草 皐月、彼は最近話題なお姉キャラで同性愛者という、男子にとっては非常に微妙な立場な人。
でも私は知ってる。
天草先生があの子限定で女もオッケイである事を。
いやはや、アレは衝撃的だったね。
もう少しで警察に通報してやろうかという時にチャイムが鳴らなかったら、きっと天草先生は今頃刑務所の中で筋肉ムキムキなお兄さん達に、デロデロのべッタべッタに可愛がられていたと思うよ?
詳しくはコードが引っ掛かるから言えないけど、あんなこと18歳以下の子といたしちゃうと確実にろりこん・変態の烙印押されちゃうんだからね。
それをギリギリの所で私が踏みとどまったのは、その変態教諭が何がどうなってそうなったんだか、私の婚約者だから。
私としては婚約なんて破棄しても良いけど、コトは両家の祖父たちの意向だから勝手な事が出来ない。
なんてことだ。
こんなヘンタイ犯罪人が私の婚約者だなんて、世の中腐ってる。というより腐り過ぎだよ!!
「ゆに子チャン、ちょっと聞いてるの?って、聞いてないじゃない!!なんでいつもそうなのよ!!」
「あ~、すんません、天草センセイ。ですがあまり近寄らないでくれます?ろりこん変態教師が。もげてしまえ、ハゲテしまえ。もう一つオマケに掘られてしまえ。」
後ずさりしながら、しっしと手を払い、車のトランクから荷物をぎゅうぎゅうに詰め込まれた憐れなボストンバッグを取り出し、肩にかけスキップをしながら旅館に入りチェックイン!!
のハズが。
「え?予約した部屋数が間違ってて、部屋が空いてない?」
「はい。誠に申し訳ございません。そちらのお嬢様の分だけお部屋が・・・、その」
なんと、トラブル発生。
でもね、そこで慌てちゃダメなんだな。これが。
私はにっこりと、さっきからビクビクおどおどと震えている旅館の仲居さんに微笑みかけて、断言した。
「なんだ。それなら大丈夫ですよ。私、天草センセイの部屋で寝ますから。天草センセイもそれで良いですよね?折角の修学研修にケチはつけたくないですもんね」
「ちょ、ゆに子チャン?あなた、」
「それで先生は神無月先生とお熱い夜を、くふふふ。」
にんまりと、言葉を続ければ教師二人はがくりと肩を下げ、大きな溜め息を吐いていた。
え?なになに、二人とも何を想像したの?
まさか、まさかだよね?
お熱い夜と言っても、教育談議に決まってるでしょ?
それ以外に何があるって言うの?
私は今度こそ二人に白い眼を向け、仲居さんから部屋の鍵を受け取って、部屋に向った。
旅館は古き良い趣と、格式が感じられる内装で、天井は太い梁が剥き出しになっていて、廊下は鶯廊下というのだろうか。
決して耳障りな音ではない、木が軋む音が歩を進めるごとに鳴る。
窓からは立派な庭園が見渡せ、小さな森みたいな木々の集まりもある。
いや、最高の贅沢だよね。
一泊二日の修学研修が温泉旅館だなんて。
良かったぁ~、研修に申し込んでおいて。
これであの子がいなかったら最高なんだけどなぁ~、と、件のあの子を横目で盗み見ると、数人の男子生徒からちやほやされていた。
でもね?気付いてる?
(ってか、アレ絶対気付いてないよねぇ、姫塚あいり。判っててやってるんだったら相当頭弱い子なんだろうな。)
この研修に参加してる数人の女子の突き刺さるような視線をモノともせずに、男子達から賞賛を気持ちよさそうに浴びる姫塚 あいり。
そしてその姫塚あいりをまるで護るように立ち並ぶ男子達。
その彼らにも女子たちの刺々しい視線は突き刺さってる。
きっと彼女達はこの研修から帰ったら確実に親にチクるね。
あぁ、怖い怖い。くわばらくわばら。
そんなこんなしている内に、徐々に日は暮れはじめ、あれから各々、カリカリと各自に与えられた部屋で机と問題集に向っていた私達だけど、夕飯前にお風呂を、という事になって女子たちは浴衣をわいわいと騒ぎながら身に着け、集団で大浴場に向かい。
一方私はと言えば。
「お客様、此度の当館の不手際の謝礼と言ってはなんですが、家族風呂を特別にご用意いたしましたので、どうぞお楽しみ下さい」
との旅館側からの提案に狂喜乱舞。
だって、だって。
え?
いいんですか?
確かここの家族風呂って・・・。
「紅葉見ながら露天風呂ってなにそれ。超贅沢。研修サイコ~!!」
思わず拳を天に突き上げてしまったけど、それくらい私はお風呂が好き。
どのくらい好きかと尋ねられれば、三食お昼寝お風呂付だと言われてしまえば、例えどんな男でも結婚しちゃうくらいお風呂が好き。
お風呂は私の心の癒しだからね。
私はルンルン気分で浴衣に着替え、家族風呂の露天風呂へと向かい、浴衣を大雑把に脱ぎ、外へと通じる扉を開き、そこで固まった。
何故なら、そこには既に先客達がごろごろいて。
しかもそれはとても口には出せないご乱行の最中で。
というか。
えーっと、ここは家族風呂で、私にって旅館の人達は言ってたよね?
なのになんでこんな事になってるの?
私はぴしゃりと外へ通じる扉を閉め、浴衣を急いで着直し、ダッシュで大浴場へと向かい、先にお湯を楽しんでいた女子たちに仲間に入れて貰いながら、必死に目にしたものを忘れようと懸命に努めた。
その結果、ついつい長風呂になってしまって、湯当たりしてしまったのは仕方のないこと。
そしてそんな私の看病をする事になったのが、よりによってろりこん変態教師と日中詰ってしまった天草先生だと知ったのは、その翌日のこと。
その事実に驚いたせいか、私はすっかり昨日目撃した光景の忘却に成功していた。
ってアレ?
せっかくの温泉は?
こうして私の素敵なお風呂記念日は幕を下ろした。
姫塚 あいり の本性の一部を目撃、そして、忘却したまま。




