あやかし同盟
ヒトが栄えて2000年以上が経った、海に浮かぶこの狭い島国。
何度も繰り返し、繰り返されてきた、覇権と衰退の世の中で、あたし達はヒトの影として生まれてきた。
ヒトが狂えばあたし達、《あやかし》も狂い、悪さをする。
ヒトが善い行いを心掛ければ、あたし達、《あやかし》は特に何もことは仕出かさない。たまにちょっと悪戯したり、驚かせたりするのは御愛嬌。
とにかくあたし達は、ヒトや世間が騒ぎ立てるほど、好き好んでヒトに悪さをしないようにしてるし、してない。
だってそんなことしたら、あたし達はすぐに祓われちゃうもん。
パタパタ、と、梁や障子戸を叩きで払いながら、埃や塵を落しつつ、念入りにお掃除。それが終わったら廊下を掃き清めて、冷たい水で雑巾掛け。
時間は幾らあっても足りない。
家は、ヒトが住まなくなると直に荒れちゃうから、掃除だけはしておいてあげないと、家に住み着いてるあたしだって具合が悪くなっちゃう。
特に家鳴さん達は、家の空気が澱んでくるとガタガタと揺れちゃって、ヒトに掛けたくない迷惑をかけちゃうから、たっぷりと念入りに。
と、そこへ。
「おい、お菊。お前なんでアイツらに憑いて行かなかったんだ?」
あたしと同じ位か、それよりもう少し大きいあたしと同族の座敷童子の夜君が、押し入れの扉をスッと開けて、欠伸しながら出てきた。
・・・って、アレ?
なんで夜君がいるの?
おかっぱ頭の頭をちょこんと右に傾けて、そんな事を考えてしまったあたしはきっと悪くない。
だって、あのヒト達には自分が憑いて行くって、だいぶ前から夜君が張りきってたよね?なのにどうして、夜君がそんな所から出てくるの?
「お菊、お前ってヤツは・・・。ハァ、今度は何処が気に喰わなかったんだ?」
・・・ぅぐっっっ、流石は夜君です。
彼はあたしと長い付き合いですから、簡単に騙されたりしてくれません。
そうです。
あたしが憑いて行かなかったんです。
だって、だって。
「あのヒト達、夜中にあたしと目が偶然合った時、幽霊と勘違いした上に、あたしを祓おうとしたんだよ?ここはあたしと夜君がずっと住んできた家なのに!!」
ぽわん、と、何もない所から毬を取り出して、その毬を夜君に投げつける。それを器用に避けた夜君は次々と出してくるあたしの毬を拾って行く傍から消していき、最後にはあたしの小さな両手をきゅっと握って、ばっつりと切られている前髪の所、つまりおでこの部分にチュッと、軽く口を付けてくれた。
うぅ、卑怯だよ、夜君。
「少し休め、お菊。次にこの家に住むヤツ等の為にも、お前は元気になっておけ。掃除は僕がやるから」
その言葉を最後に、あたしの瞳は夜君が着ていた紺地の着物の残像を残して、意識が沈んで、ぱちりとその音と同時に半透明の光になって、短い眠りに就いた。
あたしは座敷童子の菊。
あたしといつも一緒にいる男の子の方は夜君。
二人でやっと一人前なあたし達は、今日も一緒に、田舎にある日本家屋でのんびりと次のお客さんを待ってます。




