14、金色の鎧。縦ロール
私にとって、眠る必要は多分ない。
そもそも死んでる私の体には、永遠の休息が約束されている。魔力の塊……呪いが体の奥に詰まってて、それが、この体を操り人形のように動かしているだけ、なのだ。
「リリー、そろそろ起きなさい?」
「ん〜、あとごふん」
「アトゴフン?」
寝ることは、できる。
蝋燭の火を消すように、呪いの蠕動を抑えてしまえば、私の意識も遠のく。それを再起動するには、人間が起きるみたいに、体の魔力をゆっくり動かしていかないといけない感じだ。
「ん〜、んーん、ねごと」
「お、ようやく起きたか、ねぼすけめ」
目を覚ますと、そこには美しい双丘が。……この白い服。グノーシアだ。
まだ、重い体のせいにして、横に転がると。ボフっと、シアのお腹に当たった。これは、あれか。膝枕、というやつか。推定合計年齢で言えば、全然私より若いシアに甘えるのは、少し気恥ずかしい。
とはいえ、だるさが優先だ。シアのお腹にグイグイ顔を埋め込んでいく。
なんだか、ほんのりいい匂いがする。王都の香水とか使っているんだろうか。
「おーいー、寝るなリリー。仕事があるみたいだぞ」
「ぐぇー」
私の黒い髪の間から、首根っこを掴んで、猫みたいに体を持ち上げるドラス。私はいいけど、普通の人間なら普通に首取れるって。おい。
ともあれ、ドラスロールの助けで立ち上がった(立ち上がった?)私は、ここが、久遠の食卓だってことがわかった。見れば、結構な人数の冒険者らしき人が集まっている。
その中心にいるのは、赤い髪の副ギルド長だ。
「お、三連星のガキも起きたか!よしっ、これより緊急クエストの受注を開始する!飯も足も用意する。強え奴が必要だ!」
どうやら、大きな依頼をこのギルドが受注したみたいで、その参加パーティを探してるみたいだ。
(ねぇ、とらいすたって?)
(私たちのあだ名、みたいです。悪い気はしないですね)
そうなんだ。
じゃぁ、私は三連星のリリー、ということになるのか。
「それで、報酬はどうなってるのかしら?」
金色の鎧を纏っている。縦ロールお嬢様みたいな冒険者の質問。
なんだろう、あの人、下手したら辺境領主の娘だった生前の私より、高貴な身分かもしれない。というか、筋肉も身長も、胸のボリュームも、大盛りって感じだ。すごい。
「成果報酬もあるが、着手金も当然出る。冒険者は金払いもいいからな。領主様も金払いがいいもんだ」
「それだけ金払いに自信があるということは、相当なクエストですのね」
「その通りだ。王都の魔術師たちが、「刻の娘達」の出現を発見した」
(アワーズ?)
(人智の及ばない化け物の総称です。いつからいるのかも、どれだけいるのかもわからない。百数年前には24種類までいたことがわかっていたそうです)
「おいおい、マジかよ」
「俺らは降りるぞ!」
「なんだお前ら……と、発破もかけたいもんだが、今回、弱い奴は死ぬ。せめて死なねぇやつだけしか受けさせられん」
「副ギルド長、「刻の娘達」には多くの種類があったはず、目撃情報や形態から種別は判定していないのですか」
人混みをかき分けて、副ギルド長の元に行くシアの後を追いかける。
「三連星のグノーシア・プリムラか。流石に元「蛇の杖」は詳しいな。その通り!今回捕捉されたのは最弱と名高い「白雲散り咲く零五」!感染した竜種の討伐が達成条件だ。すでに発見地点から近くの村は壊滅した。時間制限はこの街に到達するまで、だ」
「わたくしたち、「金華の嚆矢」がいきましょう」
堂々としているあの金ピカお嬢様は、真っ先に手を挙げた。あれか、高貴なる責務か。確かに、私もウチの領地での話なら、迷わず手を挙げただろう
「わかった。他にはいないか、」
「いくよ、わたしたち。えっと、とらいすたで」
「わかった。他はどうだ。パーティで無理でも、後で魔術師どもは焼却作業のために募集をかける。ぜひ参加してくれ。他のやつにも復興依頼で力仕事は山ほど出るだろう」
「お待ちなさい、副ギルド長殿。よく存じませんが、この子供を行かせるおつもりで?」
「あ?疑問はわかるが、問題はない。ここで決めるのは俺の仕事だ」
「ですから、あなたに言っていいるんですのっ、こんな子供など、移動のバスすら怪しいじゃないですの」
「それを判断するのが俺だ。問題はない。旅過のお嬢様にはわからんかもしれんが、こいつは普通じゃねぇ」
この縦ロールお嬢様、きっといい人だ。私に配慮してくれてるんだろう。
「だいじょうぶだよ、おねぇさん、私強いから」
「君のように、人形のように綺麗な子は、こんなところにいる事はないのだ。副ギルド長!」
優しい、いい目をしている。こんな人とは仲良くなりたい。
わたしとパパたちを襲った、あのクソ貴族とは天と地の差がある。
けど、今この人の目は、私に向いてない。
「おじさん、せっとくするから るーる つけてよ」
「あー、まぁそれがわかりやすいか。おい、レディカ嬢。こいつと防御魔法の押し合いをしろ。負けたらこいつらを連れてってやれ」
「ふん、いいでしょう。ようやくこの子達を降ろさせる気になったようですわね。いいでしょう、ありえないとはいえ、もし私に勝てたら、クエスト中は存分に協力して差し上げます」
わたくしは、鎧の魔術と、戦闘技術を極めんとする一流貴族の生まれ。
公務に就く前に、二年間の武者修行として『久遠の食卓』に籍を置いている。
荒くれの冒険者ではありますけれど、子供を7に向かわせるほど、誇りを投げ捨てた覚えはない。なりふり構ってられないのでしょうけど、あの赤髪の副ギルド長は何を考えているのかしら。
今、相対した瞬間であっても、この人形のように美しい子の、この艶やかな髪、細い腕。戦いを知らないようなその容姿に、脅威を全く感じない。
しかも今は、我が一族の誇りたる黄金鎧装を万全の状態で装備している。万に一つだって負けるわけがない。奇跡が置けたって負けるフリすらできない。
……まぁ、これでしっかり心を俺という、あの赤髪の意向なのでしょう。遺憾ではありますが、手早く終わらせましょう。
「じゃあ、いくね」
「ええ、いらっしゃいな」
ガッ
急な衝撃に、足が一歩下がった。
あまりに強力な魔力にぶつかって、その衝撃に体が押されてたのだ。
(え!?そんなわけが!)
とにかく全力で、魔力壁を張り直す。もうなりふり構ってられない全力だ。魔力効果を増幅する鎧の機能を、膂力と魔力防壁に全振りする。
対するリリーとかいう少女は、魔力防壁の向こうで涼しい顔をしている。
また、一歩。
後ろに下がってしまった。押されているということは魔力出力が完全に押し負けているということだ。
「さがるの、こまる」
(ウソ!)
涼しい顔した少女の一振りで、球面上だった彼女の防壁が、私の魔力防壁を包むように変形した。
(ですが、私だって一族の誇りに欠けて、負けるわけには行かないんですのよ!)




