第73話 「もう一つの拠点」
冷たい風が吹く。
肌を刺すような寒さ。
白い。
一面が。
雪。
その中に。
人の気配。
拠点。
蒼月レインの拠点。
「……状況報告」
蒼月が言う。
周囲の人間が、すぐに反応する。
「水は維持できています」
「食料は三日分」
「見張りも問題なし」
無駄がない。
簡潔。
そして。
正確。
「……問題は」
「増加です」
一人が言う。
「避難民が増え続けています」
蒼月が目を細める。
予想通り。
止まらない。
人は。
集まる。
安全な場所に。
「……受け入れは?」
「制限しています」
短い返答。
「現状以上は維持困難です」
それが現実。
ここは回っている。
でも。
ギリギリで。
だから。
線を引く。
それが。
蒼月のやり方。
「……判断は正しい」
そう言う。
感情は挟まない。
ただ。
維持するために。
必要なことをする。
その時。
外。
数人の人影。
雪の中。
立っている。
こちらを見ている。
「……また来たか」
誰かが言う。
蒼月が見る。
距離。
状態。
動き。
全て確認する。
「……どうしますか」
問われる。
その判断。
重い。
でも。
迷わない。
「……規定通り」
短く言う。
「これ以上は受け入れない」
静寂。
誰も反論しない。
それが。
ここでの正解だから。
数人の影。
しばらく待つ。
でも。
誰も出てこない。
やがて。
ゆっくりと。
その場を離れていく。
背中が小さくなる。
雪の中に消える。
その光景を。
蒼月は、見ている。
表情は変わらない。
でも。
ほんの少しだけ。
目が揺れる。
一瞬。
それだけ。
そして。
「……次の報告を」
すぐに戻る。
いつもの流れへ。
ここは。
崩れない。
その代わり。
切り捨てる。
それが。
この拠点の強さ。
そして。
限界でもあった。
その夜。
蒼月は一人で外に出る。
冷たい空気。
静かな雪。
そして。
遠くを見る。
あの場所。
群馬の拠点。
全員を受け入れる場所。
「……違いすぎるな」
小さく呟く。
同じダンジョン。
同じ世界。
でも。
やり方が違う。
結果も違う。
どちらが正しいか。
まだ分からない。
でも。
確実に言えることがある。
「……どちらも」
「間違ってはいない」
それが。
一番厄介だった。
正しさが複数ある。
だからこそ。
ぶつかる。
いずれ。
必ず。
その時。
どちらが残るのか。
それは。
まだ誰にも分からない。
同じ世界に、違う答えがある。
そして。
その違いは、いずれ交わる。
それが。
避けられない未来だった。




