第72話 「交わらない正しさ」
外は静かだった。
さっきまでの戦いの余韻が、まだ残っている。
でも。
中は、動いている。
いつも通り。
水を運ぶ者。
見張る者。
子供を見る者。
回っている。
自然に。
「……やっぱりすごいな」
蒼月が言う。
隣に立っている。
視線は、拠点の中へ。
「……そうか?」
「ええ」
小さく頷く。
「ここまで崩れないのは珍しい」
その評価。
軽くはない。
ちゃんと見ている。
その上での言葉だ。
「……でも」
続ける。
少しだけ。
声のトーンが変わる。
「長くは持たない」
静寂。
否定じゃない。
でも。
肯定でもない。
「……理由は」
「単純です」
蒼月が言う。
「全員を抱えているから」
その一言。
重い。
「人数が増えれば」
「負担も増える」
「どこかで限界が来る」
正しい。
理屈としては。
完全に。
「……だから」
「どこかで切り捨てる必要がある」
その言葉。
はっきりしている。
迷いがない。
「……やらない」
即答。
蒼月が、こちらを見る。
少しだけ。
目を細める。
「理由は?」
「決めてるからだ」
短く言う。
「全員守る」
それだけ。
蒼月は、しばらく黙る。
考えている。
そして。
「……非効率ですね」
「分かってる」
すぐに返す。
「でもやる」
その言葉。
変わらない。
揺れない。
それを見て。
蒼月は、小さく息を吐く。
「……理解はできます」
でも。
「同意はできません」
はっきり言う。
その距離感。
ちょうどいい。
敵じゃない。
でも。
同じでもない。
「……それでいい」
こちらも言う。
「全部同じじゃなくていい」
蒼月が、少しだけ驚いた顔をする。
ほんの一瞬。
でも。
確実に。
「……そうですね」
小さく頷く。
「全員が同じなら」
「それはそれで危険だ」
少しだけ。
柔らかい声になる。
完全な否定じゃない。
でも。
完全な肯定でもない。
その中間。
それが。
この関係だった。
その時。
中から声がする。
「……水足りてるかー!」
「こっちは大丈夫です!」
いつもの声。
日常。
戻ってきている。
蒼月が、それを見る。
少しだけ。
目を細める。
「……不思議な場所ですね」
「……そうかもな」
俺も見る。
この場所。
普通じゃない。
でも。
だからこそ。
意味がある。
「……壊れたら」
蒼月が言う。
「その時は」
「その時だ」
被せる。
迷いなく。
蒼月が、少しだけ笑う。
「……強いですね」
「そっちもな」
短く返す。
少しだけ。
空気が和らぐ。
でも。
完全には交わらない。
それでいい。
それが。
今の関係。
違う正しさ。
違う選択。
でも。
同じ世界で生きている。
それだけは変わらない。
正しさは、一つじゃない。
そして。
それでも人は選ぶ。
その違いが。
これからの未来を作る。
その始まりだった。




