第70話 「北からの来訪者」
静かだった。
昨日の戦いが、嘘みたいに。
人の動きも落ち着いている。
水も回っている。
役割も、機能している。
「……なんとかなってるな」
蓮斗が言う。
白峰が頷く。
「初期拠点としては十分機能している」
玲奈が、ぽつりと言う。
「……あんしん」
ぴーちゃんが光る。
その時。
「……見張りから報告!」
声が響く。
全員が反応する。
空気が、一瞬で変わる。
「……人です」
「……人?」
「外に、人影があります」
蓮斗が立ち上がる。
「数は?」
「……一人です」
その一言で。
逆に、緊張が走る。
一人。
この状況で。
それは異常だった。
「……罠の可能性は?」
白峰が言う。
「……否定できない」
玲奈が、低く言う。
「……でも」
ぴーちゃんが、少しだけ揺れる。
「……ちがう」
外を見る。
遠く。
一人の影。
立っている。
動かない。
こちらを見ている。
「……どうする」
蓮斗が言う。
少し考える。
でも。
答えは決まっていた。
「……行く」
外へ。
慎重に。
距離を詰める。
そして。
近づく。
その人物。
女性。
静かに立っている。
武器は持っている。
でも。
構えていない。
「……ここが」
その女性が言う。
落ち着いた声。
「……噂の拠点ですか」
「……誰だ」
蓮斗が言う。
その女性は、少しだけ目を細める。
「名乗るのが先ですね」
一歩、前に出る。
「蒼月レイン」
その名前。
空気が少し変わる。
「北海道側の拠点をまとめています」
白峰が、わずかに反応する。
「……代表か」
「ええ」
頷く。
その動き。
無駄がない。
落ち着いている。
そして。
こちらを見る。
観察するように。
「……あなたたちが」
「全員を受け入れている拠点」
「間違いないですね」
蓮斗が少し警戒する。
「それがどうした」
蒼月は、少しだけ考える。
そして。
「確認に来ました」
「……何を」
「そのやり方が」
「本当に成立しているのか」
静寂。
試されている。
そう感じる。
「……見て分かるだろ」
蓮斗が言う。
「回ってる」
蒼月は、周囲を見る。
人。
動いている。
争っていない。
自然に回っている。
その光景を。
しばらく見て。
「……そうですね」
小さく頷く。
「想像以上です」
その一言。
でも。
まだ終わらない。
「ですが」
少しだけ。
目が鋭くなる。
「それがいつまで持つか」
「分からない」
現実的な言葉。
否定じゃない。
でも。
肯定でもない。
その中間。
「……なら」
一歩前に出る。
「見ていけばいい」
はっきり言う。
蒼月は、少しだけ目を細める。
そして。
小さく、笑う。
「……面白い」
その言葉。
軽くない。
ちゃんと見ている。
ちゃんと考えている。
その上で。
興味を持っている。
「しばらく」
「観察させてもらいます」
その一言。
新しい流れが生まれる。
外の世界。
他の拠点。
他の考え。
それが。
ここに入ってくる。
でも。
迷いはない。
やることは同じ。
守る。
全部。
そのために。
ここにいる。
外の世界は、すでに動いている。
そして。
その一部が、ここに来た。
それが。
次の始まりだった。




