第42話 「切断」
静かだった。
あの男が去ったあと。
誰も、すぐには動かなかった。
「……」
違和感が残る。
空気。
いや。
“空間そのもの”。
玲奈が、先に反応した。
「……おかしい」
小さく。
でも。
はっきりと。
ぴーちゃんが、強く震える。
「……いや」
その声。
今までで一番強い拒絶。
「……どうした」
聞く。
「……ここ」
「……ちがう」
その一言で。
全員が周囲を見る。
壁。
床。
天井。
同じに見える。
でも。
違う。
“揺れている”。
「……おい」
蓮斗が言う。
「これ」
「崩れてねぇか?」
その瞬間。
音。
ピシッ――
空間に、亀裂が入る。
「……は?」
白峰が、目を見開く。
「構造が崩壊している」
祖父が、低く言う。
「離れろ」
でも。
間に合わない。
空間が、歪む。
視界が揺れる。
足場が消える。
「――!」
落ちる。
でも。
下じゃない。
感覚が、消える。
上下も。
距離も。
全部。
“繋がっていたもの”が。
切れる。
【接続を終了】
声。
今までと違う。
感情がない。
ただの処理。
「……っ!」
その瞬間。
完全に。
切れた。
静寂。
そして。
――地面。
「……は?」
立っている。
いつの間にか。
全員。
同じ場所に。
ダンジョン入口。
見覚えのある空間。
「……戻った?」
蓮斗が言う。
白峰が、すぐに周囲を確認する。
「……構造は通常」
「異常はない」
玲奈が、ゆっくりと息を吐く。
「……消えた」
ぴーちゃんが、震えながら言う。
「……いや」
その一言で。
全員が理解する。
さっきの場所。
あの戦い。
あの存在。
全部。
“ここじゃない”。
「……何だったんだ」
蓮斗が呟く。
誰も答えない。
でも。
分かる。
あれは。
本来、まだ触れるべきじゃないものだった。
白峰が、低く言う。
「……試験領域」
「あるいは」
「評価空間」
祖父が言う。
「だろうな」
玲奈が、ぽつりと言う。
「……いや」
ぴーちゃんが、強く震える。
「……みられてた」
その言葉。
重い。
俺は、手を見る。
因子。
まだある。
でも。
さっきの感覚。
繋がり。
あの力。
もうない。
完全に。
切れている。
「……戻された、か」
自然に出た。
白峰が頷く。
「強制終了だな」
蓮斗が笑う。
「ゲームかよ」
でも。
違う。
これは。
遊びじゃない。
あの声。
あの存在。
全部。
繋がっている。
そして。
俺たちは。
見られている。
評価されている。
その上で。
“切られた”。
「……まだ早いってことか」
祖父が言う。
「そういうことだ」
玲奈が、前を見る。
「……いく」
ぴーちゃんが、小さく頷く。
「……いっしょ」
俺も、前を見る。
終わっていない。
むしろ。
始まってすらいない。
さっきのは。
その一部。
ほんの。
入口。
だから。
進む。
この先へ。
本当の意味で。
この世界を知るために。
繋がりは、切られた。
でも。
終わりじゃない。
ここから。
もう一度。
始まる。




