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第312話「洗濯物」
昼前。
避難区画。
風が吹いていた。
洗濯物が揺れる。
久しぶりだった。
以前は当たり前だった光景。
今では少し貴重だった。
子どもたちが走る。
布を押さえる。
笑う。
楽しそうだった。
その時。
美月も手伝っていた。
洗濯物を留める。
毛布を広げる。
小さな女の子が聞く。
「お姉ちゃん」
美月が振り向く。
「なに?」
優しい声。
女の子が空を見る。
「終わったらどうなるの?」
小さい声。
美月は少し考える。
影のことか。
侵食のことか。
それとも別のことか。
分からない。
だが。
答えは決まっていた。
「洗濯するかな」
静かな声。
女の子が止まる。
そして笑う。
「また?」
美月も笑う。
「また」
短く。
周囲も少し笑った。
終わったらどうする。
特別な答えじゃない。
普通に暮らす。
それだけだった。
その普通が。
一番大切だった。
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