第31話 「選ばなかった力」
影が来る。
速い。
止まらない。
手の中の因子。
強く握る。
使えば。
届くかもしれない。
でも。
「……使わない」
口に出した。
「……は?」
蓮斗が声を上げる。
「マジかよ!」
「時間ねぇぞ!」
「分かってる」
白峰が、静かに見る。
「理由は?」
「……違う」
言葉を探す。
「これで勝っても」
「意味がない」
祖父が、わずかに笑う。
「いい」
玲奈が、じっと見る。
「……どうする」
その問い。
答えは、もう出ていた。
「……全部捨てる」
「は?」
「今までのやり方」
「最適も」
「連携も」
「全部」
白峰が、わずかに目を見開く。
「……理論を捨てるのか」
「違う」
「使い方を変える」
蓮斗が笑う。
「分かんねぇな!」
「いい」
「やるぞ」
影が来る。
今までなら。
避ける。
合わせる。
重ねる。
でも。
今回は違う。
踏み込む。
正面から。
「――!」
ぶつかる。
痛い。
でも。
止まらない。
「……ここだ」
無理やり距離を詰める。
予測じゃない。
直感。
玲奈が動く。
合わせない。
別方向から入る。
蓮斗が叩く。
無理やり。
白峰が叫ぶ。
「崩れてる!」
影の動き。
少しだけ。
遅れる。
「……効いてる」
最適じゃない。
でも。
読めない。
適応が遅れる。
「続けるぞ!」
全員が動く。
バラバラに。
でも。
止まらない。
繋がらない。
でも。
途切れない。
影が、揺れる。
初めて。
大きく。
「……いける!」
蓮斗が叫ぶ。
玲奈が入る。
当たる。
深い。
影が、大きく崩れる。
でも。
まだ終わらない。
影が、変わる。
さらに速く。
「……まだだ!」
祖父の声。
全員が踏み込む。
止まらない。
崩さない。
押し切る。
その瞬間。
影が、止まる。
初めて。
完全に。
止まる。
静寂。
「……」
誰も動かない。
影は。
消えていない。
でも。
動かない。
「……なんだ」
白峰が、静かに言う。
「……適応が、追いついていない」
祖父が言う。
「崩したな」
玲奈が、ぽつりと呟く。
「……届いた」
小さく息を吐く。
勝ったわけじゃない。
倒したわけでもない。
でも。
届いた。
その一歩。
それが。
大きかった。
ぴーちゃんが、震える。
「……よかった」
その一言で。
力が抜ける。
膝が、少しだけ揺れる。
限界だった。
でも。
使わなかった。
選ばなかった。
それで。
届いた。
それが。
答えだった。
俺は、前を見る。
まだ終わっていない。
でも。
進める。
このまま。
自分のやり方で。
選ばなかった力が、道を作る。
それが。
俺の強さだった。




