第148話 「指揮個体」
群馬防衛線。
空気が変わっていた。
黒い群れ。
その全てが、一つの意思で動いている。
「……速い!」
誰かが叫ぶ。
群れの動きが変わった。
無駄がない。
ぶつからない。
狭い通路を理解しているみたいに流れてくる。
「統制されてる……!」
白峰 蓮が歯を食いしばる。
今までと違う。
ただ押し寄せるだけじゃない。
“考えている”。
その時。
巨大影がまた腕を動かす。
群れの一部が左右へ散る。
「右回るぞ!」
悠真が叫ぶ。
即座に壁を切り替える。
だが。
遅い。
群れの一部が二重線の隙間へ入り込む。
「っ!!」
蓮斗が飛び込む。
一撃。
先頭を吹き飛ばす。
だが。
数が止まらない。
後ろから押し込まれる。
「くそっ……!」
足が滑る。
疲労が溜まっている。
その時。
ぴーちゃんが回復を飛ばす。
「蓮斗、右!」
即座。
蓮斗の動きが戻る。
その瞬間。
悠真が横から叩き込む。
群れが崩れる。
だが。
終わらない。
その時。
03が巨大影を見る。
初めて。
少しだけ眉を動かす。
「……成長してる」
小さく。
だが。
全員に聞こえた。
その一言で空気が冷える。
成長。
つまり。
今この瞬間も強くなっている。
その時。
巨大影の周囲で、空間が揺れる。
黒い群れが増える。
地面から。
湧くように。
「増えてる!?」
誰かが叫ぶ。
その時。
白峰 蓮が理解する。
「……違う」
短く。
「集めてる」
その言葉。
重かった。
周囲の影を。
侵食を。
全部。
指揮個体が引き寄せている。
その時。
玲奈が耳を押さえる。
「……うるさい」
苦しそうに。
全員が見る。
玲奈は震えながら言う。
「いっぱい混ざってる」
怒り。
恐怖。
空腹。
憎悪。
全部。
ぐちゃぐちゃになって流れ込んでくる。
その時。
巨大影がこちらを見る。
一瞬。
全員の呼吸が止まる。
「っ……!」
視線だけで圧が来る。
未完成。
なのに。
違う。
格が。
その時。
03が前へ出る。
「……悠真」
初めて名前を呼ぶ。
全員が少し止まる。
03が続ける。
「指揮個体を止めろ」
短く。
「群れは俺が崩す」
その言葉。
重い。
つまり。
役割分担。
その時。
悠真が巨大影を見る。
怖い。
本能が警告している。
だが。
下がれない。
後ろには拠点がある。
人がいる。
その時。
黒崎 恒一が低く言う。
「守る側は、前に出るしかない」
短く。
その言葉。
悠真が息を吐く。
覚悟が決まる。
「……行く」
その瞬間。
悠真が踏み込む。
群れの中央へ。
巨大影も動く。
一歩。
その瞬間。
群れ全体が加速する。
「止めろ!!」
蓮斗が叫ぶ。
防衛線が揺れる。
壁が軋む。
崩れる寸前。
だが。
まだ耐えている。
その時。
03が両手を開く。
空間が沈む。
黒い群れの流れが強制的にズレる。
「今だ!」
白峰 蓮が叫ぶ。
壁角度変更。
群れ同士を衝突させる。
一瞬だけ。
道が開く。
その瞬間。
悠真が抜ける。
一直線。
巨大影へ。
距離が縮まる。
その時。
巨大影が初めて腕を振る。
空気が裂ける。
「っ!!」
悠真がギリギリで避ける。
背後の壁が消える。
砕けたんじゃない。
“消えた”。
沈黙。
全員が凍る。
今の一撃。
直撃していたら終わっていた。
その時。
巨大影が再び動く。
ゆっくり。
だが。
確実に。
悠真へ向かって。
群馬防衛線。
その中心で。
初めて。
“上位存在との戦闘”が始まった。
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