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第117話 「視認された異常」

 夜。


 静かだった。


 ダンジョンの外。


 崩れた建物。


 その影に。


 一人の男がいた。


 生存者。


 ただの一般人。


 戦えない。


 逃げることしかできない。


 そのはずだった。


「……終わったのか……?」


 小さく呟く。


 遠く。


 黒い気配。


 薄れている。


 あの戦い。


 見ていた。


 遠くから。


 ただ。


 隠れて。


 震えながら。


 その時。


 違和感。


 音がない。


 風も。


 揺れも。


 止まる。


「……なんだ……?」


 視線を動かす。


 その瞬間。


 “いた”。


 目の前。


 距離。


 数メートル。


 そこに。


 人が立っている。


 黒い。


 ただそれだけ。


 なのに。


 目が離せない。


「……え……?」


 理解できない。


 さっきまで。


 いなかった。


 気配も。


 音も。


 何もなかった。


 なのに。


 “いる”。


 その時。


 男の体が固まる。


 動けない。


 恐怖。


 ではない。


 違う。


 もっと。


 “ズレている”。


 その存在。


 見てはいけないものを。


 見ている感覚。


 その時。


 そいつが動く。


 いや。


 動いていない。


 気づいた時には。


 距離が変わっている。


 一歩。


 近い。


「……っ……!」


 声が出ない。


 喉が。


 動かない。


 その時。


 そいつが。


 男を見る。


 視線。


 ただそれだけ。


 なのに。


 理解される。


 全部。


 見られている。


 隠していることも。


 恐怖も。


 何もかも。


 その時。


 そいつが小さく言う。


「……弱いな」


 感情がない。


 ただの評価。


 その一言。


 男の体が崩れる。


 膝から。


 力が抜ける。


 倒れる。


 その時。


 そいつが。


 少しだけ視線を外す。


 遠く。


 拠点の方向。


 悠真たちがいる場所。


 じっと。


 見る。


 そして。


 何も言わない。


 ただ。


 “確認した”だけ。


 その時。


 風が戻る。


 音が戻る。


 空気が動く。


 そして。


 そいつが消える。


 最初からいなかったように。


 何も残さず。


 その場には。


 男だけが残る。


 震えている。


 呼吸が乱れる。


 理解できない。


「……なんだ……今の……」


 答えはない。


 だが。


 一つだけ。


 確実に分かる。


 あれは。


 ダンジョンの存在じゃない。


 魔王でもない。


 人間。


 だが。


 “人間じゃない”。


 その認識。


 恐怖に変わる。


 その時。


 男が小さく呟く。


「……見つかったら終わる……」


 その言葉。


 現実だった。


 あれは。


 戦う相手じゃない。


 逃げる相手でもない。


 ただ。


 “関わってはいけない”。


 その存在。


 その理解だけが。


 残る。


 それは、観測された。


 だが。


 理解されたわけではない。



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