1-2 これっていわゆる、洗脳ですか?
「確か、手紙には『学校まで連れて行けばなんとかなる』って書いてあったけど……」
電柱の影。
カロの通う明坂高校の正門の前に立つ教師を覗く、カロと少女。
その視線の先に立っている人物は筋骨隆々で、典型的な体育教師といった感じだった。
「……なんとかなるわけねえよな。この場合、連れて入ろうとしたら怒られるのか? いや、入れはしないだろうけど、怒られもしないか。しかし、どうやって中に……」
と、その時、肩をトントンと少女に叩かれる。
カロが顔を上げると、少女はゴミ捨て場に置かれていた段ボールを指差した。
そして、少女は続けてジェスチャーをする。
「ふむ……。段ボールに、ん? なにそれ沈む? ……あ、入る?」
少女はその言葉を聞くと、激しく頷く。
「いや、どうやって入るんだよ……」
少女はその質問に、カートを押す仕草を見せる。
「どこに、手押し車押しながら登校してくるやつがいんだよ!」
カロの言葉を聞くと、少女は指を加え、甘えた子供のような仕草を見せる。
そんな、手詰まりになった時だった。
「何してんだ? 骨喰、玉砂」
「――――え?」
カロは、不意にかけられた声に釣られて顔を上げる。
そこに立っていたのは、松永という、灰色の髪に健康的な褐色肌のクラスメイトだった。
「学校、行かねえの?」
「今、なんて?」
「早く学校……」
「その前!」
「何してんだ? 骨喰、玉砂……」
「な、な、な、なんで! なんで、お前がこの女の名前知って……!」
その瞬間、松永の瞳孔が開く。と、それから、
「――――だって、自己紹介したじゃねえか。無口であまり目立たないから、玉砂とは話したことなかったけど、名前くらいは知ってるぜ」
そう台本を読むようにすらすらと語り出した。
そんな松永に、カロは生物本能的恐怖を覚えずにはいられなかった。
その目には全く生気が感じられず、まるで洗脳されている人と対峙しているかのようだった。
しかし、カロが恐怖する一方で、松永は何事もなかったかのように「まあいいや」と言い残す。
と、校門へと歩いていった。
カロはその背中を見送りながら、1人、考えていた。
(これが、学校に行けばなんとかなると綴った理由なのだろうか。
おそらく、これはヒュウガさんの魔術による洗脳。
しかし、ヒュウガさんはもう死んでいると言うのに、どうやって?
それも、生徒を洗脳するなんて大規模な……)
わざわざ手紙に学校と明記されていたわけだし、学校に入れば叔父の思惑も何かわかるかもしれない。
恐怖半分、緊張半分で、カロは少女の手を引き、松永の影に隠れるようにして、体育教師の横を何事もなく通過する。―――しかし、学校の敷居を跨いだ瞬間だった。
――――ゾクッ。
自身に降りかかっている重力が、全く異質のものに入れ替わってしまったかのように寒気が全身を襲う。
目に映る景色も、全ての色を失ったように感じた。
カロは、一瞬にして汗をかき、ハッとしてあたりを見回す。――――が、それから何かあるわけではなかった。
何が起きたかも分からない。
分かるのは、これは魔術的な何かで、きっと叔父が仕組んだ置き土産の1つなのだろうということだけだった。
「どうしたんだ、玉砂に骨喰。立ち止まってないで、早く教室に向かえよ」
その重厚な声で、現実に戻される。
気づけば、体育教師が無愛想にこちらを見ていた。
「あ、いえ、すぐ行きます」
カロはそう言うと、少女と共にそそくさとその場から立ち去る。
が、そこでふと何気ない疑問が浮かんできた。
「ところで、お前の教室ってどこ?」
その質問に、少女は首を傾げるばかりだった。
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