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神の騎士団 陸

神殿裏の細い路地、石造りの塀に身を潜めていた健二とリーファ。

だが、気配の変化は一瞬だった。


「……来る!」


リーファが声を上げると同時、四方から金属の擦れる音。

次の瞬間、光を反射する銀鎧の騎士たちが、屋根上・両壁・通路の奥から一斉に飛び出した。


「包囲か……!」


健二が歯を食いしばる間もなく、雷のように速い突撃。

その先頭――鎧の上からでも圧倒的な気配を放つ男。

漆黒のマントを翻し、刃を掲げるのは、神の騎士団・地方支部を束ねる団長クロイツ。


「神敵の末裔よ、ここで終わりだッ!」


「やかましい。こっちにも“新しい芸”があるんでな――」


健二の瞳が閃き、足元の石畳が砕けた。


「雷火・電撃駆動――起動ッ!」


青白い閃光が健二の全身を走る。雷火解放と異なり、今度は筋肉の動きを電気で直接制御するという、戦闘特化型の魔術。

脚部の動きが瞬時に加速され、目視不能の速度で健二の身体が飛ぶ。


「う、うわっ……!?」


先陣を切った二人の騎士が、振り下ろす前に首を跳ねられた。

動きは読まれていない。いや、読める速度ではない。


「疾風か……いや、雷だな。――次!」


間髪入れず、別方向から襲いかかった三人の騎士も、一閃の下に倒される。

打撃の威力は、人間の骨格が耐えられる範囲を超えていた。

電撃で筋繊維そのものを強制駆動するこの技は、常人には自滅する技だった。


だが、健二の肉体はすでに常人の枠を越えていた。


一方、リーファも躍動する。副騎士団長率いる取り巻き五人との交戦。

魔力を刃に通した繊細な刺突、踊るような足運び。そして――


「ッ……っ、貫かれた!? だがこのガキ、どうして――!」


副団長の剣が腹を貫いたかに見えた瞬間、リーファの表情は揺れなかった。

肉が裂け、血が飛び散る。しかし、瞬く間に傷口が塞がっていく。


「……ゾンビじゃないよ。ただ、死ねないだけ」


「化け物めっ……!」


怒りと恐怖の叫びを上げる副団長を、リーファは腕を掴んで強引に地面に叩き伏せた。

その体捌きはもう、少女の域ではなかった。


やがて、残る騎士たちは恐慌し、撤退を始める。

逃げようとするクロイツ団長を、健二が背後から組み伏せ、首元に雷火の刀身を突きつける。


「動いたら痺れ死ぬぞ。覚悟はいいな?」


クロイツは歯を食いしばりながらも、沈黙を保った。

その隣では、リーファが副団長の喉元に短剣を添えながら、静かに立っていた。


騎士団の地方支部――その“牙”を、ついに健二とリーファが叩き折った瞬間だった。



夜の街を駆け抜ける影が二つ。

一人は若く細身な青年。もう一人は逞しい男で、二人とも重い荷を背に走っていた。


「こっちだ! 裏路地を抜けた先にある屋敷だ!」


ギルが先導しながら振り返る。背負っているのは気絶した副騎士団長だ。

後方を走る健二も、鎧のままの騎士団長を軽々と抱えている。


「隠れ家ってのは……こういう時のためにあるんだよな」

ギルが小さくぼやき、古びた屋敷の扉を開ける。


中へ滑り込むと、慎重に扉を閉め、厚手のカーテンで窓を覆った。

そして健二の合図で、地下室の鉄扉を開ける。


その奥にあるのは――かつて盗賊ギルドが使っていた“処刑用の拷問室”。

健二は団長の身体を椅子に縛りつけ、副団長も別の椅子に固定される。

ギルは壁際に立ち、腕を組んだまま黙って事の成り行きを見守っていた。


「さて……目を覚ましてもらおうか」


健二が指を鳴らすと、雷光が掌に走る。

魔力を込めた細い金属棒が、彼の手に吸い寄せられるように現れる。


団長の右手を掴むと、その中指と薬指の爪の隙間へ――ゆっくりと、冷たく、金属を押し込んだ。


「……ッッッッアァアアアア!!」


稲妻が弾け、肉が跳ねた。

電流は筋繊維を逆なでし、激痛が神経を焼く。


「誰が本部を仕切っている。お前たちは何を信仰している?」


健二の声は、氷のように冷たい。


副団長も同様の処置を受け、激痛にのたうつ。

ギルは腕を組んだまま、眉一つ動かさずそれを見ていた。


拷問は容赦なく、しかし冷静に続けられた。

何度目かの電流のあと、副団長がついに叫んだ。


「ハワード領……! 南の……セイファスだ! 小さな港町……そこに、神の騎士団の本部が……あるッ!」


「セイファス……?」


ギルが目を細める。「あんな静かな漁村に本部が?」


団長が嗄れ声を絞る。


「……だが……俺たちも全容は知らん……“上”の者たちが集まるのは、限られた時だけ……

そこに立ち入れるのは……司祭以上でも、ほんの一握りだ」


「一握り……誰だ?」


団長の笑みに、血の気がなかった。


「王族……貴族……高位の司祭ども……

お前たちが“守るべきもの”の中に……我らの信徒は潜んでいる」


リーファが息を呑む。「……王族まで……?」


健二は黙って団長の顔に布を被せた。


そのまま背を向け、ギルの隣に立つ。


「この国は腐ってる。表も裏も関係ない」


ギルが肩をすくめた。「まあ……知ってたけどな。改めて聞くと嫌になるぜ」


リーファはじっと副団長の顔を見ていた。


「……女神は、こんな世界を望んだわけじゃないのに」


三人の間に、しばし静寂が流れた。


健二がぽつりと呟く。


「……明日には出る。ギル、例の船の手配を頼めるか?」


「任せとけ。セイファスで何が待ってるか知らねぇが……派手な歓迎だけは覚悟しておいたほうがいい」


三人は無言のまま、再び地図を広げた。

その中心にある、小さな港町――《セイファス》に赤い印が刻まれていた。

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