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 神宮司影。転校生はそんな名前だった。

 

 ガラガラ。教室のドアが開きフッシンが入ってくる。その後から続いて入ってくる転校生。

 クラスの期待は最高に高まっている。教室の空気は張り詰めていた。

 転校生の全身がドアから現れた。その瞬間、クラス中の誰もが目を見開き、椅子に座っている体を五センチ程前に乗り出した。

 俺でさえ、息を飲んだ。

 とんでもない美少年がそこにいたのだ。

「このクラスに転校生が来ることになりましたー。もうランキングに載せたから名前は知ってるなー。はい、じゃー一言。」

 転校生が頭を下げる。前髪がサラッと動いた。

「よろしくお願いします。」

「よし。じゃ、これから席替えの説明を始める。一時間目は数学で俺の授業だから、そこを使うことにした。授業中なんだからギャースカ騒ぐんじゃねーぞ。以上、解散。」

 それだけ言って出て行ってしまうフッシン。この人はいつも逃げるように教室から出て行こうとする。

 後には、置いて行かれた後味の悪さと、一人教壇に立ったままの転校生が残された。

 気まずい空気がしばらくの間教室を漂い、休み時間の開始を告げるチャイムが鳴るまで誰一人として動こうとはしなかった。

 チャイムが鳴り響き、止まっていた時間が動き出す。

 男子は弾かれたように転校生を取り囲み、質問の嵐を巻き起こしていた。

 女子はいつものグループで集まって、ペチャクチャしゃべり出した。

 俺はもちろん、観察だ。席に座って転校生やクラスの様子を眺めている。そして、なぜか高宮も俺の後ろの席に座ったままだった。

「転校生の方、行かないのか?」

 俺が聞くと、高宮は微笑んだ。

「最近気付いたんだ。君がいつも遠くからクラスを眺めている理由。近くで話を聞くより、遠くから全体を見渡した方がたくさんの情報を掴めることもあるってね。」

 とうとう高宮も観察を知ってしまったらしい。

 俺は少し試してみることにした。

「なあ、このクラスの女子ってちょっと変わってると思わないか。」

「なんで?」

「だって転校生があの顔だぜ?女子がほっとくはずないだろ?なのに、あっちの方を見ようともしない。」

「確かに。」

 考え込む高宮。しかし、すぐに何か思いついたようだ。

「よく見ろよ、女子のグループの位置。みんな黒板の近くに集まってる。それに会話の内容。ちょっと聞いてみてくれ。」

 俺は言われた通り、近くのグループの話に耳を傾けた。

「ねぇ知ってるー?駅前のコンビニ、潰れて駐車場になるんだって。」

「あー知ってる知ってる。リエの妹、駐車場で誘拐されそうになったんでしょ。」

「そうそう、駐車場って言えばさー、駅前のコンビニ、潰れて駐車場になるんでしょ。」

 ・・・なるほど。いつも以上に支離滅裂だ。

 高宮が言った。

「つまり、みんな興味はあるんだよ。だから耳は男子のする質問に向いてる。会話なんてあってないようなものだね。」

 そう、このクラスの女子はおそらくシャイガールだ。興味はあるけどガンガン質問するのは恥ずかしいし、かっこ悪いことだと思っているのだ。素直じゃない。

 俺は正直驚いた。こいつ、なかなかいい観察眼を持っている。

 うん、意見を交わす価値はありそうだ。俺は高宮に聞いた。

「じゃあ、あの転校生、どう思う?」

「え?どう思うって・・・まあ、顔はすごいよね。」

「他には?」

「うーん・・・特に変わったところはないな。あ、ちょっと無口かもしれない。でも、転校初日だから当然か。」

 やっぱり高宮は気付いていないみたいだった。転校生の方へ目を向けたまま考え込んでいる。

 教壇ではテンポの良い質疑応答が繰り返されていた。

「名前、なんて読むの?」

「じんぐうじかげる。」

「珍しい名前だな。カゲルって。」

「兄ちゃんがカケルだから。」

「え、兄ちゃんいるの?何歳?」

「21。」

「おー、離れてるな。他に兄弟とかいるのか?」

「いない。」

 確かに答え方は素っ気ない。でも、次々と飛び出す質問を一つ一つちゃんと拾っているのは見事だ。

 後ろを振り返る。高宮はまだ考え込んでいた。

 まあ、仕方ない。俺は答えを教えてやることにした。

「なあ、転校生の発音、よく聞いてみろ。『ち』とか『し』がchiとshiになってるだろ。」

 高宮が黙り込んだ。耳に神経を集中させているらしい。

「あ、ほんとだ。」

 気付いたようだ。あと一押しといったところか。

「それから、アメリカの新学期は九月からなんだ。」

「じゃあ・・・あの転校生って、帰国子女なのか?」

 高宮が目を見張った時だった。

「せいか~い。よくわかったね。」

 いきなり上から声が降ってきた。ギクリ、と一瞬固まる。

 それは、まさに俺が今言おうとしていた言葉だった。

 俺と高宮はおそるおそる顔を上げ、声の主の方を見上げる。

「ねえ、君たち、おもしろいね。俺も仲間に入れてくれない?」

 見たこともない程きれいな顔が、そう言って見下ろしていた。

 いつの間に質問の嵐を抜け出してきたのか、転校生は近付いてくる気配さえ感じさせなかった。

 その時、チャイムが鳴った。休み時間終了だ。

 全員がわらわらと自分の席に戻っていく。

 転校生の席は用意されていないのでは、と俺は心配したが、あいつはもともと空いていた高宮の隣に悠然と腰掛けていた。

アメリカの学校の新学期が本当に9月かどうかは

正直知りません。

確かめるのもめんどくさいんで・・・

でも、どっかで聞いたことがあります。


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