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【WEB版】和食で騎士団を虜にした令嬢は、婚約破棄から人生やり直し中です~小料理屋から始まる、美味しい第二の人生~【書籍化】  作者: 梅澤 空
実りの秋編

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カボチャ日和

 市場にはよく通っているけれど、今日のベラの店は一段と秋の気配が濃かった。


(わあ……!)


 店先に並べられたカボチャの山が、ひときわ存在感を放っている。濃い緑色をした、大きくゴツゴツした品種だ。


「あら、リーナちゃん! 買い出し?」


 ベラが、カボチャを並べ直す手を止めて笑いかけてきた。


「ベラさん、こんにちは。カボチャ、すごいですね!」

「今年は当たり年よ。ほら、これ持ってみて」


 渡された濃い緑のカボチャは、ずっしりと重い。皮は石のように硬く、ヘタの部分はしっかり枯れている。


(おお! これは美味しそう!)


 煮物、天ぷらもいいけど、素揚げにして塩だけで食べるのも捨てがたい。


(ああっ、全部やりたい! どうする? 今日買って帰っちゃう? いや……今日は別の献立だしな。買って帰ったら絶対に作りたくなっちゃうし)


「買ってくれるなら、安くするわよ?」

「あ、今日は下見だけなんです! でも絶対に買いに来ますから!」

「はいはい、待ってるわよ」


 カボチャを棚に戻し、今度は山盛りのキノコや、大粒の栗に目を奪われていると――ふと、視界の隅に市場の景色と馴染まない人影が目に入った。


 丁寧に仕立てられた衣服と、すっきりと束ねられた栗色の髪。雑多な品が並ぶ市場の通りで、彼女の佇まいは明らかに周囲から浮いていた。


(きれいな人……貴族の方……よね?)


 女性は並んだカボチャを見下ろし、枯れたヘタの部分を摘んで持ち上げようとした。パキッ、と嫌な音が鳴り、慌てて両手で底から抱え直している。


(うん、普段お料理しない人だ)


 そう思って視線を戻した時だった。


「そういえばリーナちゃん。アードフェストで何か出すの?」


 ベラが棚にカボチャを補充しながら、何気ない調子で聞いてきた。


「アードフェスト……さっきマルセロさんにも言われました」

「今年は新しい作物も増えたし、リーナちゃんの腕の見せどころじゃない」


 ベラの弾んだ声に、リーナは目の前の立派なカボチャを見つめて笑みをこぼした。祭りの準備は大変な作業量になるが、これだけ良い野菜が揃っているのだから、新しい食べ方を皆で楽しみたい。


「リーナちゃんが何か新しい食べ方を出してくれたら、野菜たちの価値が一気に変わると思うのよね!」


「あの」


 不意に、背後から声がした。

 振り返ると先ほどの栗色の髪の女性が、カボチャを抱えるようにして立っていた。


「……カボチャはどういったものが美味しいの?」


 思いがけない人物から野菜のことを聞かれ、リーナが一瞬きょとんとしていると――。

 ベラがちらっとその女性の顔を見て、そのまま固まってしまった。


「あ――」


 ベラが何か言いかけたが、女性がゆっくりとベラに顔を向け、ゆっくりと首を振る。

 ベラはそのまま、ぱくぱくと口を動かし――やがて、ぎこちなく口をつぐんだ。


(……えっ、何? 今の。知り合い?)


 明らかな不自然さに戸惑いつつも、聞かれたからには答えなきゃいけない。


「あ、はい。重い方が中身が詰まっていて、甘いです。あとはここ――」


 近くのカボチャを手に取って、ヘタの部分を見せた。


「ヘタの部分がこう、乾いてコルクみたいになっていたり、皮が硬くて色が濃い方が美味しいですよ」


 女性はリーナの手元を見つめ、自分の持っているカボチャのヘタを確かめた。まだ少し緑が混ざっていた。


「……こちらは、まだなのね」

「そうですね。もう少し待った方が甘くなると思います」


 女性はカボチャを棚に戻した。


「このあたりでは、カボチャはスープか丸焼きが多いと聞いたけれど」


「あ、はい。今はまだそうですけど……本当はもっと色々出来るんですよ! 煮物にするとすごく美味しいんです! 甘みが出汁に染み出して、しっとりした食感になります。薄く切って揚げると、外はサクッと中はほくほくで――」


 夢中で話し続けて、ふと相手の反応の薄さに気がつく。女性は言葉を挟まず、表情もほとんど変えずに、リーナの目を見つめたままだった。


「――あっ、すみません! つい長くなってしまって」

「いいえ。その煮物というのは、どのような味付けを?」

「味付けは、出汁とジャンや美醂酒を合わせて、甘めに炊くのが……」

「炊く? そのジャンや美醂酒というのは、この街で作れるもの?」


 リーナは口を開きかけて、そのまま固まった。


「……東方から、取り寄せています」

「そう」


 女性はそれ以上追及することなく、カボチャに視線を落とした。


「……先ほど、収穫祭のお話をしていたでしょう」


(聞こえてたんだ……)


「収穫祭のお料理に使うものとしては、少し不思議ね」


 心底不思議そうに問われた。

 収穫祭は、この土地の実りに感謝する祭り。そこに出す料理の味の要が、遠い東方からの輸入品――。

 言い返す言葉が、見つからなかった。


「……お忙しいところ、ありがとう。とても参考になったわ」


 女性は微笑み、踵を返した。

 数歩先で、別の女性が寄り添うように合流する。二人は市場の人混み中に消えていった。


 リーナはしばらく、その場から動けなかった。


「……ベラさん、今の人」

「お綺麗な方だったわね」


 ベラの声がいつもより低い。

 普段なら「どこかのお嬢さんかしらねぇ」なんて噂話に花を咲かせるはずなのに、棚のカボチャを並べ直す手だけが、やけに早く動いている。


(ベラさん……絶対、何か知ってる)


 いつもと違うベラの不自然な態度を見れば、事情を聞きだすのは野暮だとわかった。


 先ほどの女性は、リーナの熱の入った料理の話にもちゃんと耳を傾けてくれていた。


 なのに、最後の一言だけがどうしても頭から離れない。


(収穫祭のお料理に使うものとしては、少し不思議ね)


 この土地の恵みに感謝する祭りの料理が、この土地にないもので作られようとしている。当たり前のことなのに、言われるまで気づきもしなかった。


 下を見ると、カボチャの棚の陰がさっきよりも少しだけ伸びていた。

 両手で、自分の頬をパンッ! と叩いた。


(……考えててもしょうがない! 夜の仕込み、しなきゃ!)


 痛いところを突かれて少しへこんだけれど、気落ちしている間にも夜の仕込みの時間は迫っているのだった。

 いつも応援ありがとうございます!

 大変申し訳ないのですが、来週の更新を一度お休みさせてください。というのも、次に登場させるお料理の試作が諸事情でできておらず……。もう少々お待ちくださいませ。

 そして! もう一つ、皆様に重大なお知らせです!

 活動報告でも書かせていただきましたが、なんと、5月25日に本作の書籍が発売されることが決定いたしました!!

◆レーベル:MFブックス

『和食で騎士団を虜にした令嬢は婚約破棄から人生やり直し中です~小料理屋から始まる、美味しい第二の人生〜』

 書籍版ではかなり加筆しておりますので、Web版を読んでくださっている方にも楽しんでいただけると思います!

 イラストは、前田ミック様に描いていただいております。書影が出ましたらまたご報告させてください!

 引き続きよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。改めて書籍化おめでとうございます(^_^) その土地の収穫祭なのに、よその特産品を使うのか…ですか。なかなか鋭いご意見ですなぁ。確かにその味付けが一般的になってしまう→何らかの事情…
 ○城石井のカボチャプリンは毎回3個買って帰ります。3日間のおやつ。
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