記憶のピースを埋めて
看護師と医者は、母と姉に事情を説明した後、病室から出ていった。
少しの沈黙が流れたあと、姉は僕に近づき静止した。
「ど、どうしたの?」
「……バカ。」
姉は無言で僕に抱きついた。顔に平手打ちをされると思っていたものだから、かなり驚いた。母はそれを見て、そっと微笑んでいた。
「あ、あのさ……色々聞きたいことがあるんだけど……」
「……そう、だよね。」
姉は僕から離れて、バックから何かを取り出した。それは、一冊のノートであった。
「私たちから話す事はなんにもない……だから、このノートを見て。」
姉は僕にノートを渡した。表紙には何も書いておらず、一見すると普通のノートだと思った。
内容は壮絶だった。日記なのだが、それはもう酷かった。
八月七日
僕は今、精神状態が良くない。それは自分でもよく分かっている。理性というタガが外れ、いつ自殺するかも分からない、そんな状況だ。だから、これが日記ではなく遺書になる可能性もある。
卯月が、意識不明の重体だそうだ。即死は奇跡的に免れて、今は生死をさまよっている状態らしい。だが、ここから様態が回復する見込みは薄いそうだ。
僕は守れなかった。卯月を、守ってあげれなかった。もっと早く気づけばよかった。もっと早く気づけるはずだった。もっと良く卯月と向き合うべきだった。
それなのに、それなのに僕は。
頭がぐちゃぐちゃで、発狂しそうな程なのに。何故か、冷静だ。そんな僕が、すごく嫌で、怖い。
油断をしていたんだ。気を緩めていたんだ。あんなポスターを貼られてたんだ。卯月に気づかれないはずはないんだ。
町に貼るくらいだ。そりゃここら一体を回って郵便受けに入れるくらい予想できたはずだ。なのに僕は。
自分を責めても責めても消えない。この感情をどうすればいいんだよ。やり場のない気持ちを。
頼むから返してくれよ。卯月を返してくれよ。その為になら僕は、死んでもいいから。
八月八日
吐き気が止まらない。食事をしなければ人間は死ぬ。そうやって自分に言っても、食事が喉をとおらない。
なんであんなに優しい卯月は死んで、僕みたいなクズは生きているんだ。この世界のバランスはおかしい。神様は頭のネジが外れているのか?
なぜ僕はこうやって生きて、生きて生きて生きて。
なんで僕は生きてるんだよ。
八月九日
心療内科への受診を勧められた。まぁ妥当だろう。ここまでメンタルがやられている人間なのだ。
きっと受診をしてしまったら、入院になってしまうだろう。
それは嫌だ。
僕は、ただ卯月と幸せになりたいだけなんだ。
八月十日
やることが見つかった。いや、やらなければいけないこと。
卯月を幸せにするためのこと。
これは僕の使命なんだ。僕がやるしかない。
僕が、やるしかない。
八月十一日
僕がやることはただ1つ。彼女の為に健康に過ごすことだ。それが彼女の為なのかもしれない。
八月十二日
僕は1日、しっかり生きた。自分でも偉いと思う。彼女のためだとか言ったけど、僕にはやっぱり耐えきれなかった。
八月十三日
ネットで色々調べた。綺麗に死ねる方法。家族には迷惑をかけるだろうけど。
八月十四日
道具の準備は整った。あとは、遺書を書く。そして、心の準備だ。
八月十五日
ちゃんとした遺書も書き終わり、全てが終わった。あとは人生に幕を下ろすだけなんだ。
でも、心が何故か準備できていない。いざというとき、足が震えるんだ。
八月十六日
今までありがとうございました。これを見ているということは、僕はもう既に死んでいるでしょう。
沢山迷惑をかけましたね。遺書は机の引き出しに閉まっておきました。
ありがとう。さようなら。




