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ヴァルハラの地平は遥か底に 〜赤炎纏し青年は世界の端を目指す〜  作者: you-re


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第三十三話 最終回:世界の端は遥か空の彼方に

 勝利の訪れは、すぐさま人々に知れ渡った。



「なんだ!? 機械共の動きが……?」 「あれ、動かなく……?」


 教会の戦闘員を含めた、戦える者すべてが旧都外周で機械の侵攻を必死に食い止めていた。


 だが———シグルドがスルトへとどめを刺した瞬間、すべては変わった。


 スルトから放たれていた支配信号は絶たれ、スルトに直接操られていた機械はその場で沈黙し、狂わされていた機械も、短い混乱ののち———勇士たちの手によって、次々と破壊されていった。



「終わりましたか……」


 拠点へと戻ったトゥーナが、控えめに呟く。



「……そうみたい」


 隣でシグレが、小さく息を吐きながら答えた。


 東の地平線から昇る朝日の光が、拠点に差し込んでいる。


 あたたかく、眩しく、清らかに。



 ———巨人王スルトの復活は阻止された。


 そして、機械による混沌の時代は、確かに———終わりを告げた。



ーーーーーーーーーー



「————おっと!」


「あぶ……ちょっと、急に下さないでよ、危ないじゃない!」


「いや、エーテル切れだって。噴かしまくったからな……良く持ったよ」


「あぁそう……私も撃ち切って弾切れよ」


 エーテルがからになったサポーターをコツコツと叩きながら、シグルドは呟く。



「お前ら……良くも、やってくれたな」


「っ!?」


「お前は……ナユタ!」


 声のした方を振り向くと、怒りに歪んだナユタが立っていた。


 その奥で倒れ込むセレンの姿を見たヒルダは、思わず名を呼ぶが、返事はない。



「……スルトは俺が破壊した。もう終わりだ。諦めろ」


「諦めろ!? 諦めろだと、オレは————」


 ナユタが光の刃を生成し、二人へ斬りかかろうと脚を踏み出す。


 だがその瞬間———


 ナユタの足元から無数の土の棘が突き上がった。



「間に合い、ました?」


「フィオレッタ!」


「デシルくんと途中で死にかけてたアルフォンスさんの応急処置をしていて遅れましたが、私も援護します!」


 駆けつけたのは、スカジとの戦闘を終え、重傷者を処置していたフィオレッタだった。



「こんな、もので————っ!?」


「氷!?」


「セレン!!」


 腕を振り、土の棘を力任せに破壊して突き進もうとするナユタ。


 だが次の瞬間、その足元に、冷たい氷が広がる。


 凍り付くような気配の中、ナユタの背後には———


 血に濡れ、震える手でカートリッジを地面に突き立て、足元を凍らせるセレンの姿があった。



「かふっ……げほっ! はぁ……ナユタ、君を拘束する……君は、もう一度父親に会うべきだ」


「ぐっ、セレン————!!」


「父親……?」


「こいつは……ナユタは、教皇の息子だ」


「!? お父様の……?」


 セレンの口から告げられる真実に、ヒルダは驚愕する。



「クソが……あいつに会う!? 会ってどうする、直接この手で殺させてくれるってか!?」


「いいや、殺させない。君は組織のリーダーだ。こうして生きている以上、君は———君が奪うはずだった者たちの前で、断罪されるべきだ」


 骨の折れた脇腹を押さえ、セレンはよろよろと立ち上がりながらナユタを見据える。


 フィオレッタが慌てて駆け寄り、彼の肩を支える。



「ふざ、けるな……! お前達に断罪、処刑なんてされるくらいなら、オレは自らの手で死ぬ!」


「その状態で? 君の幹部の亡骸を調べたけど、下っ端の構成員にあった自爆機能は無かったよ。おそらく君も———」


「黙れ! お前らに死ぬまで生き永らえさせられるくらいなら、オレは————」



「え————」


 氷と柱に縛られたナユタは、狂ったように吠える。


 このまま拘束が解ければ、自死するまで暴れ尽くすだろう。


 セレンは、氷漬けにして運ぼうと、冷静に判断を下しかけた。


 ———だが。


 次の瞬間、どこからともなく這い寄った影が、ナユタに手を伸ばしていた。


 ガシュッ!


 金属の棘が、ナユタの頭部を無惨に貫く。


 そこにいたのは———血の跡を引きずりながら、ボロボロになった体で、地を這うように辿り着いたシンモラだった。



「ナユタ……最期、まで……母さん、約束……守れなく、て————」


 心臓をアルフォンスの剣で貫かれながらも、なお。ただ、ナユタに会うためだけに這いつくばってここまで辿り着いたのだ。


 シンモラの虚ろな瞳が、ナユタを見つめる。


 その手が、かすかに震えながら伸ばされ、虚空を掴み———


 力尽きて、地面に落ちた。



「よく、やった……タマモ————」


 ナユタもまた、途切れ途切れの声で、かつての姉の名を呼び。


 そして———静かに、息絶えた。



「……卑怯者が、責任から……逃げるなんて」


 その最期を目撃したセレンは、


 悔しさと哀しみの入り混じった表情で、呟いた。



ーーーーーーーーーー



「お帰りなさ……隊長!?」


「みんなぼろぼろ……大丈夫?」


 戦いを終え、道中で倒れていたデシルとアルフォンスを拾い上げ、6人は拠点へ帰還した。


 シグルドはアルフォンスを、フィオレッタはデシルを、ヒルダはセレンを———それぞれ、文字通り命を預けるように担いで。


 その無惨な姿を見たトゥーナは、思わず口を押さえた。



「はは、私はまだ動ける……けど、二人は危ない。トゥーナ、今すぐ治療班を!」


「は、はいっ!!」


 セレンの呼びかけに、トゥーナは慌てて駆け出していく。


 ほどなくして担架を携えた医療班が到着し、アルフォンスとデシルを慎重に運び出す。



「っ、うぅ……」


「デシル!?」


 担架に乗せられたデシルが、かすかに呻き声を上げる。


 枯れた声を絞り出しながら、


 シグルドとヒルダを見上げ、微笑んだ。



「シグルド……ヒルダ……っ! へへ……俺、やったっすよ」


「……あぁ、流石だ」


 シグルドは小さく、だが確かな声で答えた。


 二人の拳が、そっと重ねられる。



「俺、じゃなくて俺達でしょ、全く!」


 フィオレッタが、泣き笑いのような声で叱る。



「ほら、さっさと治療受けてきてね!」


「っす……」


 フィオレッタに付き添われながら、デシルは運ばれていった。



「アルフォンス……」


 その視線の先では、アルフォンスが白い顔で横たわっていた。



「大量出血のようで脈拍もかなり弱く……最大限努力しますが、目覚めるかどうかは……」


「……そうか。彼を……頼む」


「了解しました。隊長も、すぐに処置を」


 医療班に託し、アルフォンスを見送るセレン。


 その表情には、言葉にできない痛みが滲んでいた。



「さて、と……」


「俺達も治療を受けないとな」


「そうね、シグルドの炎で火傷もしちゃったし?」


「悪かったって……」


 事態も落ち着き、残るは後処理のみとなった。


 シグルドとヒルダも、無事とはいえ、全身に切り傷や火傷を負っていた。



「私は、最低限動けるだけ処置してもらったら……報告に行かないと……」


「報告って、他の奴に任せりゃいいだろ? それこそ書類にでも———」


「ダメだ。ナユタと対峙した私が……自分で、教皇に伝えなきゃならない」


「セレン……」


 決意を滲ませた声に、シグルドも納得して頷いた。



「わかった。けど、俺たちも着いていくからな。……ヒルダも、お父様に褒めてもらいたいだろ?」


「なっ! 何言ってんのよ!」


 顔を真っ赤にして反論するヒルダに、シグルドは軽く肩を竦める。



「はは……わかった。一緒に行こう」


 小さな笑い声が零れる。


 そのまま二人に支えられながら、セレンは治療室へと歩を進めた。



ーーーーーーーーーー



「————よくぞ戻った。我らが勇士達よ」


 玉座から響く、力強い声。



「スルトの討伐、及び反抗勢力レーヴァテインの壊滅を達成したことをご報告に参りました」


「うむ、既に伝え聞いておる……セレン、シグルド、そして我が娘よ……良くぞ成し遂げてくれた」


「!! えぇ、えぇ! 私、ちゃんとやり遂げました!」


 父に褒められ、ヒルダは無邪気な少女のように飛び跳ねる。


 それを見たシグルドも、つられるように小さく笑った。


 だが———



「教皇様————」


 和やかな空気を裂くように、セレンが一歩前へ出た。


 その声は、重く、静かだった。



「なんだ?」


「私はナユタから話を聞きました。彼と……あなたの過去を」


「————そうか」


 教皇は短く応じた。


 その声音には、一瞬だけ、深い影が差した。



「彼らには……?」


「ナユタが、あなたの息子であるとだけ」


「……そうか」


「あなたの口から、直接、話を聞きたい」


 セレンが促すと、教皇は小さく頷き、ゆっくりと語り始めた。


 かつて愛した妻の死。


 多くの人々を犠牲にしてしまったこと。


 立ち止まれず、狂気に堕ちていった自身の罪。



「私は……」


 一度、教皇の言葉が途切れる。


 静かに拳を握り直し、顔を上げて続けた。



「私は、あまりにも多くの命を奪った……ゆえに、立ち止まることができなかった。この老いた身が進めなくなるまで、私は———自分を騙して、すべてを正当化し続けた。奪った命が無駄にならないようにと……言い訳を重ね、手を汚し続けたのだ」


 その声には、悔恨と絶望が滲んでいた。



「これから……どうしていくおつもりで?」


 セレンが問う。



「この老体を裁ける者など、もはや存在せぬ。なればこそ、私が生み落としたこの新たな人類を……最期まで見届けようと思う。この狂気に飲まれた哀れな男が、不要となるその時まで」


 教皇はまっすぐにセレンを見た。


 その目に、嘘はなかった。



「そうですか……わかりました」


 セレンは敬礼を返す。


 その動作は凛と、迷いがなかった。



「正直に言います」


 セレンは静かに続けた。



「もしスルトを倒した後、旧文明の人々……あなたが犠牲にした者たちを蘇らせようとしていたなら、今を生きる者たちの代表として、私はあなたの命を奪うつもりでここに来ました」


「セレン!?」


 ヒルダが、驚きに肩を震わせる。



「ですが、今……あなたが、己の罪を悔い、命を見守ろうとしているのなら」


 セレンは、ヒルダに顔を向け、微笑んだ。



「……何もする気は起きません。安心して、ヒルダ」


「び、びっくりしたぁ……!」


 ほっと息をつくヒルダ。


 その無邪気な反応に、重く沈みかけた空気がふっと和らいだ。


 シグルドも、胸の奥でそっと安堵する。



「……シグルドよ」


「? 俺か、なんだ?」


 付き添いで来ただけの自分を名指しされ、首を傾げながらシグルドは答えた。



「お主の父についてだが———」


「親父? 親父ならどうせ、そこら辺の街で酒飲んだり遊び回って———」


「……このヴァルハラには、もうおらん」


「————は?」


 あっけなく告げられた言葉に、シグルドは驚愕する。


 父親がここにいない———それをなぜ教皇が知っているのか。



「最初に名前を聞いたときにもしやと思った。一度ここに来た際、お主がふと口にした言葉……あれは、あの男の口癖だった。お主達が去った後、古い記憶を探り、思い返せば———お前は、若かりし頃のあの男によく似ている」


「親父のこと、知ってるのか!?」


 懐かしむように語る教皇に、シグルドは詰め寄る。



「あの男は……私の古き馴染みだ。ヴァルハラの大地が築かれるより前、生き延びたあやつは、『今の時代に俺ができることはない』と言い残して、コールドスリープに入った」


「そんな……親父は、旧文明の人間だってことか!?」


「そうだ。———そして、二十一年前。お前が産まれる一年前に目覚めた」


「……」


「ヤツは目覚め、この世界の現状を把握するや否や、お前を生み出し、育てた。そして、お前が旅立つ前———一度だけ、私の前に姿を現した」


 シグルドは息を呑む。


 父が、自分に何も言わずに姿を消した真実を、いま初めて知った。



「あやつは言った。『自分がやるべきと思ったことを、やりにいく』と」


「じゃあ……親父は、外の世界に!?」


「あぁ。お主が世界の端を目指して旅立った、その遥か以前に。あやつは、先に———この世界の果てを目指していったのだ」


「……」


 そんな事は知らなかった。父親が今何をしているかなど、この旅が始まってから巡り合った出来事の中で、意識することはなかったのだから。


 それでも、どこか胸の奥で「そうであってほしい」と願っていたような気もした。



「シグルドよ」


 教皇が、静かに続けた。



「彼は、お主に伝言を残していった」


「伝言……?」


「『俺の息子に会ったら伝えてくれ』と。……息子の名も言わずに、な」


「親父らしいな。いっつも、自分が言いたいことだけ言いやがる」


 苦笑しながらも、シグルドは静かに耳を傾けた。



『俺の息子よ。父は先に世界の端に行ってるぞ。お前も、自分のやるべきことをやったら来いよ。……待ってるぜ、この惑星(せかい)の端っこ、遥かなる空の先で!』


「世界の———」


「端———?」


 セレンとヒルダも、ぽつりと呟く。



「あやつは、それだけを託して旅立った……。以上だ」


 教皇はそれだけ言って、黙った。



「この伝言を聞いて、どうするかはお主の自由だスルトを打ち倒した英雄よ———お主は、これからどこへ向かう?」


「そんなの……決まってる」


 シグルドは光が射すステンドグラスの方へ歩み寄る。


 その先に広がっているであろう遥かな空を、まっすぐに見つめながら。



「行ってやるさ」


 少しだけ、唇を吊り上げる。



「行って、親父に一発ぶん殴ってやる。そんで———見てやるさ!」


 その先に広がる、この世界の果てを。


 遥かなる空の、ずっと先を。


 不敵に笑い、シグルドは宣言した。



 ————赤炎を纏う青年は目指す。世界の端を。


 これは、世界の端を目指して旅をする青年のお話————




  「ヴァルハラの地平は遥か底に」完。

これにて無事に完結!9月の30日から2週間とちょっとを経て完結いたしました!


数ある作品の中から本作を見つけ、最後まで応援してくださった方には最大の感謝を!

そして、完結してからこの作品を読んでくださった方にも感謝を!


シグルドの旅はまだ続きますが、第一作目としては完結いたします。

今後、特定キャラクターに焦点を当てた過去話などを更新する予定です。


もしここまでこの作品を読んだ上で、面白い!と思っていただけたのであれば、良いねや感想、宣伝拡散などをしていただけると大変喜びます!!


改めてここまでお付き合いいただき、ありがとうございました♪



X(旧Twitter)で更新報告をしています、更新を心待ちにしてくださる方はフォローお願いします♪


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