表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァルハラの地平は遥か底に 〜赤炎纏し青年は世界の端を目指す〜  作者: you-re


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/37

第二十四話 決戦:序

 レーヴァテインの襲撃から二日が経過した夜。


 鎮火と安全確認を終えた南方基地では、セレンがヒルダから得た情報をもとに、動ける戦闘員を招集し、作戦会議を開いていた。



「よく集まってくれた。これから、レーヴァテイン討伐作戦の概要を説明する」


「待ってくれないかな、隊長。いくらなんでも性急すぎる。皆も困惑してしまうだろう。順を追って説明するべきだ」


 いつもより険しい表情で口を開いたセレンに対し、アルフォンスが冷静に制止をかけた。



「あ、ああ……そうだね。まずは、今回なぜレーヴァテインが襲撃を仕掛けてきたのか――その理由から説明しよう」


「ただの破壊目的ではなかった、ということですか? 記録によると、主に居住区が重点的に爆破されていたとありますが」


 建物の復旧に関わっていたトゥーナが手元の資料を見ながら問う。



「修繕は君に任せていたからね。その観点から言えば、確かに居住区の被害が目立っていた。……だが、壊されていたのはそこだけじゃない。実は――拠点に貯蔵されていたエーテル資源が、ほぼすべて奪われていたんだ」


「エーテル資源を……?」


 その言葉にざわつく場の空気。セレンはアルフォンスに目配せし、被害状況をまとめた書類を各員に配らせる。



「あいつらはエーテルを使えない。そして、空誓教会の管理下にあるエーテルは、本来、機械にそのままでは使用できないよう制限されている……と、されていた」


「一応、以前の実験で、魔術によってエーテルを電気に変換して機械を動かすことはできましたけど……」


 トゥーナが補足するように思い出を辿る。



「ああ。だが今回の件は、そんな実験レベルの話じゃない。推測ではあるが、やつらは“エーテルを大量に電力へと変換する技術”か、“エーテルそのものを直接エネルギー源として利用する手段”を手に入れたと考えられる」


「その点については、アリシア・ヨシノ博士からも――博士?」


 アルフォンスが話を振った先、ミカの姿をした椅子の上で、当の本人は盛大に熟睡していた。



「あー……まぁ、徹夜が続いていたようだから仕方ない。ミカ、起こしてくれる?」


「了解しました」


「んぃ……いだだだっ!」


 ミカは自らの体の一部を触手のように伸ばし、ヨシノ博士の頬を遠慮なくつねる。



「なにすんだこのぽんこつひゅ……!」


「居眠りされる方が悪いかと」


 赤くなった頬を押さえつつ、ミカをぺしぺしと叩くヨシノ博士。ようやく目を覚まし、あたりを見回して状況を把握すると、小さくため息をつき、セレンの方へと視線を向けた。



「レーヴァテインがエーテルを活用する方法を得ているのではないか、という話です」


 セレンの言葉に、ヨシノ博士は面倒くさそうに頬をさすりながら答える。



「ああ、それ? たぶん、もうできてるんじゃないかな。時間はかかっただろうけど、あの子なら――解析くらい、朝飯前だし。時間の問題だったよ」


「あの子、というのは?」


「ナユタ。レーヴァテインのリーダーをやってる子だよ。あの子も旧文明時代の生き残り。もっとも、若作りが趣味のボクと違って、あの子は本当にずーっとあの姿だろうけどね」


 自嘲気味に鼻で笑いながらさらりと爆弾発言を放つヨシノに、セレンが眉をひそめる。



「その呼び方……ずいぶん親しげですね。面識が?」


「知り合い、ってだけだよ。向こうがボクたちを敵視してる理由も、まぁ、なんとなーくはわかるけど」


「わかるんですか!? なら――!」


「分かり合えるかって? ないない。だから話すだけ無駄。本人に聞いたら、たぶん教えてくれるんじゃない?」


 バッサリと言い捨てて、ヨシノはミカに軽く手を振る。



「じゃ、ボクはもういいや。ミカ、戻るよ」


「了解いたしました」


 ミカの体がうにゅっと動いてヨシノを抱えると、彼女は振り返りもせずに続ける。



「ボクから言えるのは一つ。レーヴァテインはエーテルを使ってスルトを目覚めさせるつもり。それはもう止められない。だから、前提として“スルトが起きる”って覚悟で動いた方がいいよ。……あ、スルトに関する情報は資料にまとめてあるから。役に立つかは知らないけどね」


「はい。さっき配った資料の三枚目がそれだ。目を通しておいてくれ。……まぁ、確認したところでどうにかなるとも思えないが」


「全長……七百メートル!?」


「……大きすぎて、想像つかないんだけど」


 資料を覗き込んだ数人がざわめく。そこには、スルトの外観やサイズ、構造、想定される機能などが記されていた。


 七百メートル超の巨体。その内部には製造設備を内蔵し、自らの身体を改造・拡張し続けてきた――まさに“歩く兵器工場”とでも言うべき存在だった。



「じゃあ、ボクは寝るよ。起きたときにヴァルハラが地に落ちてないことを祈るよ」


「……最後に不吉なこと言うなよ」


「性格悪いと思う」


 呆れたように首を傾げるシグルドに、隣で苦笑するヒルダ。つい先ほどまで食事を賭けた射的訓練で散々な目に遭っていた彼女が、ぼやくように言葉をこぼす。



「――ま、そういうわけで。今回の作戦で最も重要なのは“時間”だ」


 セレンは会議に集まった面々を見渡しながら言葉を続ける。



「だから、細かい説明は省く。役割だけ簡潔に伝えるから、あとは現場で臨機応変に動いてくれ」


「文句言っても始まらないっすよね。敵は、待っちゃくれないですし」


「こっちから仕掛けられるだけ、まだマシってもんさ」


 フィオレッタとトゥーナが応じるように言葉を重ねる。


 拠点の被害はまだ完全には癒えていない。けれど、ここで時間をかければ、次は“全て”が失われる――その危機感は、全員が共有していた。



「スルトの復活に際して、旧都の外からも機械が集結してくると予想される。だから、正門の防衛隊二人とトゥーナは、ここに残ってもらう」


「了解しました」


「先輩たちは?」


「もう伝えてある。今は正門に詰めてるよ」


 拠点の防衛を任されるのは、デシルの先輩二人に加え、広範囲かつ防衛向きの魔術を得意とするトゥーナだ。



「シグレは遊撃を頼む。基本的には拠点外に現れる機械の撃破、そして――スルトが目覚めた際の抑制行動だ」


「了解。ぼくに任せて」


 南方基地における最大火力にして、唯一の飛行能力を持つシグレ。


 その機動力と爆撃能力は、まさに遊撃戦の要となる。



「そして……残る全員で旧都に突入する」


「あのっ」


 その瞬間、フィオレッタが静かに手を上げた。



「他の基地の方々は……どう動くんでしょうか?」


「ああ、他の拠点の戦闘員も基本的には、外部から来る機械の迎撃と、旧都への突入を担当してもらう予定だ」


 セレンは頷き、地図の中心にある“旧都”の周囲を指差す。



「ただし、彼らが相手にするのは……レーヴァテインの雑兵、そしてスルトの目覚めに呼応して起動するであろう旧都内の機械たちだ」


「それってつまり――」


 フィオレッタの顔が強張る。


 旧都を中心に、東西南北に展開された拠点群。その戦力は、どこも似たようなもの。



 はっきり言って、総力をもってしても、敵の迎撃だけで手一杯になることは明白だった。


「――ああ。レーヴァテイン幹部、そしてナユタ。さらにスルト本体の対処は……我々の役目だ」



ーーーーーーーーーー



「目標は――スルトの破壊、あるいは無力化!」


 セレンの声が、張り詰めた空気を震わせる。



「最優先事項は、スルトに対抗しうる手段を持ったシグルドとヒルダを“送り届ける”ことだ! 敵の配置は不明、各員、現場判断で対応せよ!」


「「了解!!」」


 裏門前に整列した戦闘員たちの返事が、地を震わせるように響いた。


 全員がそれぞれの武器を構え、肩に入った気合が空気を張りつめさせていく。


 その中心に立つセレンは、腰の短剣を抜き放ち、力強く掲げた。



「――行くぞ!!」


 その一声と共に、戦士たちは一斉に駆け出す。


 暗がりに包まれた旧都の裏門を越え――決戦の地へと、突入した。



ーーーーーーーーーー



「静かだな」


「……そうっすね」


 旧都の廃墟を進みながら、シグルドとヒルダは隊列の中央に配置されていた。


 その左右をデシルとフィオレッタ、アルフォンスが固め、隊の後方からセレンが全体を見守るように進んでいる。



「元々レーヴァテインの構成員は多くない。世界を壊したいほど自暴自棄な連中が少ないってことだから――本来なら、良いことなんだけどな」


 アルフォンスの淡々とした声に、微かな緊張が混じる――



「……!! 止まるんだ!」


 唐突な制止。

 アルフォンスの指示とほぼ同時に、隊の左右――周囲の瓦礫が爆ぜた。



「くっ、爆発……!」


「これって……!」


 辺りを包む衝撃と土煙。倒壊していく建物の音がこだまする中、デシルとフィオレッタは即座に武器を構えた。


 この爆発――間違いない、既視感がある。



「ダメだよぉ。まだスルトは起きてないんだからぁ!」


 現れたのは、黒鉄の脚を持つ人形のような少女。


 赤い双眸を輝かせ、無邪気な口調で言い放つ。



「一緒に花火見たいでしょ? だからぁ、いい子にして待ってなきゃダメなんだよぉ!」


「スカジ……!」


 鋼の足を振り上げるスカジに、瞬時に反応したのはデシルだった。



「っ、危ないなぁ、もー!」


「先に行ってくださいっす! こいつは、俺が食い止めます!!」


「私も! 二人とも、スルトをお願い!」


 蒼き電撃を纏い、スカジへと突撃するデシル。


 フィオレッタもまた魔力を展開し、地面から鋭い土の棘を伸ばす――


 だが、スカジはそれをまるで遊びのように、ひらりと躱して見せた。



「すまない、任せたよ、二人とも!」


「っ、任せろデシル、フィオレッタ!」


「必ず倒してみせるから……死なないで!」


 後ろを振り返る間も惜しみ、シグルドたちは前へ進む。


 託された背中を信じ、迷いを捨てて――彼らは瓦礫の先へと走った。



「ああー! 行っちゃったぁ……通しちゃダメなのにぃ! またシンモラに怒られちゃうー!」


「よそ見、すんなッ!!」


「きゃうっ!」


 注意が逸れたスカジに向け、デシルは容赦なく放電を放つ。


 スカジは痺れたように一歩よろけたが――すぐに不満げに顔をしかめる。



「むぅ……あなたたち、誰ぇ? あたしの邪魔しちゃ、ダメなんだからね?」


 まるで初めて会ったかのような口ぶり。記憶していないのか、興味がないのか――わからない。


 スカジは足元を爆破し、舞い上がる煙の中で距離を取った。



「……ちゃんと、覚えておいた方がいいっすよ」


「今度は……逃がさないから」


 再び横に並び、背中を預けるように立つデシルとフィオレッタ。


 二人は揃って、目の前の敵に武器を向ける。



「俺の名前は――デシル」

「私の名前は――フィオレッタ」


 声を重ね、宣言する。



「――お前を倒す、“人間”の名前だッ!!」


気になる、応援していただけるという方は評価や感想、拡散よろしくお願いします♪

X(旧Twitter)で更新報告をしています、更新を心待ちにしてくださる方はフォローお願いします♪


X(Twitter)→@You_Re622

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ