EPISODE47 過去よりの声(後編)
レイが水平線の彼方へと向かった後、警備隊が到着し、組織だった反撃が可能になっていた。人数の差はまだあるものの、GD-02がもぐら叩きかという速さで半魚人たちを食い止め、撃ち漏らしを警備隊が撃破していった。このまま何事も無ければ一般市民が巻き込まれることも無いだろうと少し緩まったとき、それは起こった。
遥か彼方から押し寄せてくる大津波。沿岸部からも見える津波は、当初は小さいものであったが近づくにつれて人々にその巨大さを思い知らしめるのに十分であった。逃げ場がないことを悟った住人が、襲ってくる半魚人たちと戦う意思するさえ放棄し、手が止まっている。
「ええい、項垂れるな!外部の我々が戦ってお前たちが戦わなくてどうする」
「でも、アンタらも見えているだろう。あれはむりだ。どうしようもない」
「……GD-02、GDブラスターで吹き飛ばしたりできない?」
「警備隊のフォローで忙しいが……このまま津波が到達すれば意味は無いか。あまり期待はするなよ」
「ええ。でも、可能性が0に近くてもやってみる価値はある」
「従者が従者なら、主君も主君といったところか。セブンスセブンによく似ている」
「ナナに会ったことあるの?」
「ああ、彼女の最期を見届けた。護るべきものを護れず、任務に失敗した。ロクな調整を受けていない状態での初陣だっただの、隠し玉を出されただのと言い訳はあっても完敗だ」
「隠し玉?」
「バーストモードというらしい。反動で自壊していたが……そう言っている間にチャージが終わった。GDブラスターを最大出力で撃たせてもらう!」
ゼロツーが放った極太のビームが大津波にぶち当たる。魔法で出来た津波は時間にしてわずかとはいえ、その動きを押しとどめ、大量のスモークを発生させる。もしやいけるのではないかと淡い希望を持ちながら白煙が晴れるのを待つ。
「駄目、まだ残っている!」
「半分は消し飛んだが……信号弾!撤退か」
マリリンから打ち上げられた赤い煙をみる。ギリギリまで判断を伸ばしたあたり、人としての道義を優先していたが、それもここまでのようだ。
「すまん、撤退させてもらう」
「わかったわ。ありがとう、ゼロツー。次があるかは分からないけど、また会いましょう」
「そのときは敵同士だがな」
撤退していくゼロツーを見送り、アイリスは眼前に迫る大津波を見る。ゼロツーが居なくなったことで、半魚人の勢いが増し、倒れていく警備隊の人たち。こちらに腕を向けて鱗を飛ばそうとして来る半魚人に、アイリスはにらめつけることしかできない。
(ごめん、ナナ。私、ナナみたいに国を守ることが出来なかった……)
心の中で謝り、最期の時を待つ。そして、今にも放たれそうなとき、頭上からビームの光が半魚人の腕を撃ち貫く。ビームが来た先を見ると、そこにあるのは見慣れた一筋の赤い光。
「ナナ?」
「セブンじゃなくてボクだよ。詳しい話は後。今はアレをなんとかするよ」
「なんとかって……どうするつもり?」
「D4兵器を使う」
「!?」
「驚いている暇があったら、許可を出してほしいな」
「わかった。D4兵器の使用を許可するわ」
「音声認証完了と。『レイブラスター』封印解除、セブンみたいにアンカーはないから撃つのと同時にバーニア出力を上昇。ターゲット確認……レイブラスター!!」
レイの胸部から赤い光が放たれると同時に、その反動で彼女の身体が後ずさりする。歯を食いしばりながら、照準がぶれないようにする。そして、津波にぶつかり、ガラス細工が砕けるかの如く、砕け散る。
後に残ったのは逃げ去っていく半魚人の群れたちだけだが、こちらに追撃する意思は無い。半魚人の攻撃を受けたり、避難中に押し倒されて怪我をした人たちがおり、そちらの手当てを優先しているからだ。戦闘終了とほぼ同時にレイの身体が元に戻る。
「ちょうど時間切れ。後は……」
「ええ、リヴァイアさんと交渉よ。おそらく最大の攻撃を止めたのだから、交渉のテーブルにつかせる権利くらいはあるはず」
「よし、それならもう一度リヴァイアのところに――」
「ふん、そんなことしなくてもわらわから来てやったぞ」
拗ねた顔をした人間態のリヴァイアがアイリスに話しかけようとしたとき、アイル総統が姿を現す。
「女王陛下、昨日は無礼な態度をとってしまい申し訳ありません。まさか、本当に襲撃があるとは思いもしませんでした。詫びと言っては何ですが、女王陛下のこの度の観光費用の肩代わりと輸送価格の値下げ、三か国同盟への物流の優先的配慮……なんでもしますとも」
「ん? 今、何でもするって?」
「ええ、なんでも」
「では、1つだけ。この方はリヴァイアさん……の神官です」
「おい、待て。誰が――」
「今は黙って。この方に今後、『自然を汚さない』と誓ってください」
「ですが、こちらにも――」
「ええ、国の発展は重要です。ですが、自然環境を大切にしないといつか手痛いしっぺ返しが来ます。ですから、環境へのダメージをいきなり0にするのではなく、軽減するような仕組みを作ってほしいのです」
「だが、コストが余計にかかる。金にはならん」
「それはどうでしょうか? 獣人の国でも工業はありました。まだ規模が小さいので、貴方の国ほどではありませんが、数年後か数十年後かになるかはわかりませんが、いずれは同じ問題が起こりえるかもしれません。そのとき、貴方の国がそういった技術をリードしていれば――」
「先を見据え、目先の金にとらわれるなと言いたいわけですな。うむ……いいでしょう。まだ導入までは確約しませんが、そこの神官に環境負荷低減技術の発展くらいは約束しましょう」
「約束を違えるな」
「ええ、わかっておりますとも。さすがに1日、2日でできるようなプロジェクトではないので、5年程度は待っていただきたい」
「3年だ」
「良いでしょう。では3年間、貴方がお仕えしているリヴァイア様に被害を出さないようにとお伝えください。海難事故が多発していると、それだけ遅れますので」
「良いだろう」
「では、交渉成立ということで。私は忙しい身なのでこれで失礼します、女王陛下」
「ええ、こちらこそ、アイル総統閣下」
アイル総統が立ち去るのを見送った後、リヴァイアも姿を消す。残ったのはうそのように静まり返った海。そんな海を見ながら、アイリスはレイに問い尋ねる。
「そういえば、リミッター解除とD4兵器はどうやって?」
「戦後におじいちゃんがこっそりとつけたみたい。まだ聞いていない音声データが一つあるから、一緒に聞こう」
『どうやら戦闘が終わったようじゃな。相手がD4兵器を使わないといけないほどの強敵だったのか、それともセブンスセブンが暴走でもしたのかは分からん。じゃが、D4兵器に対抗できるのはD4兵器のみという現状、ペア運用を考えなければならぬ。よって、レイを封印する際にこれ幸いとセブンスセブンと同じ機能を装備しておいた』
「毒を以て毒を制す。抑止力ってことね」
『セブンスセブンが遠い未来に目覚め、次元の崩壊が起こる。これを防ごうにも、過去の人間ができると言えばこれくらいしかできん』
「魔王様の未来予知に近いことができたのかしら?」
「そんな能力ないよ。普通の人間だもの。それにシミュレーターによる未来予測でも、この結論を出すのは無理だと思う」
「それならどうして……」
「まだ話は続くみたいだよ」
『わしらの負債を押し付けることになって済まないが、頼むぞ、レイ。そして、ワシの最後の弟子であり、そのパートナー、アイリス・シャルトリューゼ女王陛下よ』
「ちょっと待って!どうして私の名を!!」
「おちついて、これは録音!応えないから」
「だったら余計に変よ。だって、私はナナやレイからみれば、未来の人間。出会うはずがないのよ」
「ボクだって信じられないよ。おじいちゃんとアイちゃんが知り合いだなんて」
「知り合いなわけないでしょう。ナナから話は聞いて――」
『私の名はセブンスセブン。ナナとお呼びください、マスター』
「……待って。レイちゃん、ナナをナナ呼びした人って昔にいた?」
「ん? 同じ基地にいたけど、そんな人はいなかったよ。セブンスセブン呼びが大半で、試作機とか型番で呼ぶ人が少し居たくらい」
「でも、ナナは私と初めて会った時『ナナ』と呼んでほしいって言ったの」
「でも、それっておかしくない?」
「うん。ナナをナナ呼びした人が居ないのに『ナナ』と呼んでほしいなんて言わないわ。私が居ない限りは」
「つまり、それって――」
「ナナもあなたのおじいさんも、私のことを知っていたことになる」
「ありえないよ、そんなの」
「『私』にいったい何があったの、教えてよ、ナナーー!!」
もう居ないナナに投げかけても、返ってくるのは波の音。誰も答えることができない謎を残して、アイリスは南島諸国連合を去るのであった。




