EPISODE46 過去よりの声(前編)
滞在6日目。
昨日からの大雨がやみ、もうじき夜が明けようとしている。これまで海から登ってくる太陽を見ようとする観光客はいたが、雨が上がったばかりの今、浜辺にはアイリスたち以外誰もいない。
「ゼロツーがいたらよかったんだけどね~」
「しょうがないわよ。マリリンさんたちがどこに泊まっているか分からないし、昨日は誰もビーチに出てないもの」
「あれだけ雨降っていたらね。あとはお偉いさんが話を信じてくれたかだけど……」
「人払いしている様子は無いわね。となれば――」
アイリスの言葉を遮るかのように、沖合から鮫たちが襲来してくる。その数は前回とほぼ同程度といったところ。つまり、たった1機で防衛しきるのは困難な数だ。
「まずは、陸に上がらせないようにこっちからうって出る。レイ、できるかぎり海上で戦って。でも、戦いは始まったばかりだから、エネルギー消費は少なく。無茶かもしれないけど」
「了解。ビームサーベルで一気に叩き切る!」
ビームサーベルの出力を上昇させ、光の刃を長くして密集している鮫たちをすれ違いざまに葬り去る。相手が人間ならば、数に任せて足止めをしているうちに別動隊が本丸を狙うなどの戦術を取ったかもしれないが、所詮は鮫。返り血の匂いにでも惹きつけられたのか、レイに群がっていく。それらを振り切るかのようにレイが急上昇し、鮫たちがそのあとを追いかける。
「引きつけて……バスターランチャー発射!」
反転したレイが直線状に群がっていた鮫たちに向けて、ビームの奔流を放つ。飲み込まれていった鮫たちは跡形もなく蒸発し、海上にたたきつけられたビームによって生じた爆発と巨大な水柱がそそり立つ。
その爆発音によって、寝ていた人たちも一斉に飛び上がり、窓や外に出て浜辺の方を見る。中には野次馬根性でその場に行く人たちもいる始末だ。
「まずい、このままじゃあ……」
レイが奮戦しているものの、海中から銃弾のように鱗を飛ばしてくる半魚人まで現れてくる始末。数で翻弄されているレイに野次馬たちを守る余裕はほぼない。そんな中、強敵であるレイを無視して数頭の鮫が野次馬たちに目標を切り替える。
「間に合って!」
アイリスがもえるくんで襲い掛かる鮫たちを焼き払おうとする。だが、所詮は火炎放射器のようなモノ。自身を護るだけならともかく、他の人を守るにはその射程はあまりにも短い。焼き払えなかった鮫が大きく口を開けて男性の頭部をかじろうとしたとき、上空から1発の銃弾に撃ちぬかれる。
「こちらGD-02、間に合ったようだな」
「ありがとう、GD-02。マリリンさんは?」
「彼女はパニックになった一般人の鎮圧と避難誘導をしている。後ろを見てみろ、青い光が出ているだろう。静寂のマリンブルーという技らしい」
アイリスが振り返ると真っ青な光がときたま輝いているのがみえる。その光景を見て苦い思い出がよみがえってくるが、今はそれどころではないと言い聞かせる。
「わかったわ。GD-02、多数の相手を倒せる武器とかある? レイだけだと手数が足りないの」
「承知した。射線上からレイが退避後、GDブラスターを放つ。連絡はとれるか?」
「もちろんよ。レイ、再度急上昇!」
【りょーかい!】
「いくぞ、GDブラスター!!」
レイが上空へと逃げるのを見届けると同時にゼロツーがGDブラスターで敵を薙ぎ払っていく。海中に潜んでいた敵は無事のようだが、空を飛んでいたフライングシャークの群れは見る影すらない。陸に上がろうとする半魚人たちもいるが、空を飛んでいた鮫と比べればその動きは緩慢だ。陸に上がった瞬間に、ゼロツーによって打ち倒されてしまう。
「鱗に覆われた胴体は硬いが、この程度なら問題は無い」
「防衛はGD-02に任せて、レイはリヴァイアのところへ!」
「うん、わかった!」
レイが水平線の向こうへと向かっていく。レイのセンサーには巨大なエーテル反応、おそらくはリヴァイアが検知されている。それ以外にも、大小様々な反応が海中から検知されており、その数は先の鮫と勝るとも劣らないともいえる。
(残エネルギーはレイバスター2発が限界……それにできれば海中に入りたくないんだけどなぁ)
レイは不気味なほど静まり返っている海面を見つめながらどうしようかと考える。決戦兵器として開発されたレイの手持ち武装は高火力のビーム・エーテル兵器に偏重しており、そのほとんどが海中での使用が不可能か、先の戦闘のように水蒸気爆発を引き起こす。唯一、水中でも扱えるナイフも大多数の相手をするには力不足にもほどがある。
「とりあえず、呼んでもみようか。おーい、リヴァイア。海の中に隠れてないで、出てきたらどう? 1対1のタイマン勝負ってやつさ」
「ふん、つまらん挑発だが、あえてのってやろう」
龍形態のリヴァイアが海中から姿を現し、水の鎧をまといながら襲い掛かる。海から離れた水流を躱している間、海中の敵はその場から動く気配も無く、静観している。
(約束通りタイマン勝負ってわけだ。さてと、この水の鞭、いや先端が鋭いから槍かな。さけながら近づくのは難しいけど……)
背中のバーニアの出力を上げて、さらにスピードを上げていく。あまりの速さにリヴァイアが質ではなく量を取ろうと、無数の細い槍を上から下からへと生やしていく。
「最後の試作機は伊達じゃないよ!」
無茶だと思えるほどか細い回避ルートを瞬時に計算し、速度を落とさずにリヴァイアの懐に飛び込んでいく。
「この距離……一気に決める!ジェネレーター接続、ハイパービームサーベルだ!」
リヴァイアに向けられる巨大な光刃。いかに水の鎧をまとっていても、水蒸気爆発を引き起こし、オクトシャークと同様に無傷ではいられないはずの必殺の一撃。だが、水蒸気が晴れた先には無傷のリヴァイアの姿があった。
「その程度の攻撃でやられると思ったか!」
「だったら、レイバスターで!」
貫通力を重視し、レイの持つ最大火力でリヴァイアに向かってビームを放つ。先と同様に水蒸気による白煙が生じる。それが晴れるのを待たなくても、レイのセンサーにはこの攻撃の可否がすでに出ている。
「少し焦げてしまったか」
「水を纏わせ、巨大な熱源に対するリアクティブアーマー……ここまで硬いなんて思っていなかったよ」
「敗北宣言か? そのレイバスターとやらをあと数十発でも撃てばわらわに勝てるかもしれんぞ」
「あと1発が限界。もうボクに打つ手はない。今のボクにできることとしたら、アイちゃんを無理やりにでも逃がすエネルギーを残すくらいだよ」
「カーッカッカッカ。わらわは戦意を失った相手に攻撃するような卑劣な女ではない。そこで、島の人間どもがおぼれ死ぬ様を見届けるがいい。ポセイドンウェーブ!」
リヴァイアが引き起こした天を衝くかのような巨大な大津波。その高さは優に100mを超えている。50cmの津波でさえ車を持っていかれるほどのエネルギーを持ち、100mとなれば、そのエネルギーは4万倍にも膨れ上がる。まさに海の神の名にふさわしい魔法と言えよう。
「あんなのまともに喰らったら……!?」
わざわざ演算する必要もない。レイは大急ぎでアイリスの下へと戻りながら、通信を入れる。
「アイちゃん、逃げるよ!今なら上空へ逃げるくらいならできる」
【駄目よ、ここで私たちが逃げたら――】
「リヴァイアに喧嘩を撃ったのはこの国の人たちだ。ボクたちに落ち度はない。逃げたとしても非難される筋合いはないよ」
【それも……私の信じる『正義』だから】
「なんでさ!君は女王なんだよ。国を導く責任があるんだ。ここで死なれるわけにはいかないんだ。ここで正しいのは生き延びることだって」
【たとえ悪と呼ばれても自分の正義を信じる……教えてくれたのはナナよ】
「!?」
【だから、私は私が正しいと思うことをするの】
もう何を言ってもアイリスはブレーキの壊れた車のように止まらないだろうと察する。おそらく、言うことを聞くとしたら一番なついていたナナだけなのかもしれない。だが、彼女はもう居ない。
「セブンの代わりにはならないかもしれない……でもボクだって!」
くるりと反転し、大津波に向けてレイバスターを構える。いくらレイバスターが高火力の武装とはいえ、この大きさの波を打ち消すほどの威力が無いのはわかっている。だが、彼女ならこの状況下でも立ち向かうことはレイもわかっている。それに――
「辛いことで終わるのって嫌だよ。だから!」
イチかバチか、決死の思いで引き金を引く。逃げる余力すら残さず放った渾身の一撃は大津波にぶつかり合い、多量の白い煙を生じさせる。魔法で出来た津波のせいか、一回りほど小さくなる。
だが眼下を通る津波は国を亡ぼすには十分な高さだ。たとえ、沿岸部にいるゼロツーがGDブラスターを放ったとしても、壊滅的な被害は免れないだろう。
「……ボクには無理なのかな。みんなを助けるの」
【非常事態ト判断。音声記録媒体起動】
(ボクの知らない音声データ? こんなことを仕込めるのはおじいちゃんだけ)
【よほど切羽詰まった状況になったようじゃな。手短に言うが、力が欲しいか】
「まるで悪の手先みたいだね」
【儂は悪の天才科学者じゃからな】
「ボクのリアクションも考慮済みってことね」
レイが応える間もなく、すでに自身の身体に別のプログラムが起動していることがわかる。どうやら、封印凍結していたデータを解除するためのプログラムのようだ。そして、ほどなくして解除が終わったプログラムを起動させ、沿岸部へと急いだ。




